第7話 初戦闘で得たもの…。

 えっ今の何?


 あまりに突然の出来事で僕は困惑していた。

 しかし、魔物の唸り声が聞こえ、僕は再び前を向く。茂みに隠れていたシルバーウルフが2匹飛び出し、僕に襲いかかってきた。

 僕は短剣を横に振る。切っ先がシルバーウルフの体に触れると、


『クリティカルヒット!!』


 また大きな声が頭に響き、シルバーウルフは真っ二つに切り裂かれた。


 えっこれなに…?見習いって最弱じゃないの?


 考えている間ももう一匹のシルバーウルフは怯むことなく襲いかかって来る。

 今度は素手で殴ってみることにした。僕は短剣をカバンにしまってシルバーウルフの攻撃を右に避け、すかさず右ストレートを腹にかます。


『クリティカルヒット!!』


 と言う大きな声が再び響き、シルバーウルフは吹っ飛んでいった。


 エミリスはこの光景を見て、


「なんで…だってはずれ職…。」


 と言いながら目の前で起きていることを理解できず座り込んでいた。


 もしかしてこれって…。僕のもう1つのスキル?


 僕は魔物が辺りにいないことを確認した後、カバンからスキルプレートを取り出した。


 そこには新しいスキルが表示されていた。


会心必当クリティカルヒット】:すべての攻撃・効果において必ずクリティカルが発生する。クリティカルが発生した場合、通常の100倍の効果を得る。


 やば…チートじゃん。通常の100倍って…でも毎度あの頭に響く声はなんなんだ…?

 ん?何か書いてある。


 なおこの固有スキルのデメリットとして効果が発動した瞬間、永久的に攻撃・効果を発動する度に『クリティカルヒット!!』または『クリティカル!!』という音声が響く。この音声は自身にしか聞こえず、消去する方法はない。


 はぁ!じゃあ僕は一生この声に付き合わなきゃならないの?最強のスキル手に入れたと思ったのに…。こんなでかい声を何回も聞いたら精神参るって…。


「ねぇ、ワーク!」


 頭を抱えて悩んでいると先ほど座り込んでいたエミリスが立ち上がり、声を掛けてきた。


「あの…さっきは助けてくれてありがとう…。あなたがいなかったら…今頃、どうなっていたか。」

「気にしないで下さい。それに目の前で襲われそうな人がいたら僕は助けに行きますよ。どんな人でもね…。」


 僕の言葉を聞いてエミリスの頬は段々と赤くなっていく。僕に見られたくないのかすぐに顔を反らして、


「さっさて、シルバーウルフもたくさん倒したことだし、そろそろアルナ村に帰ろうか。」


 あれ…もしかしてキュンとしてない?声もなんか裏返ってるし…。

 まぁキュンとするのはいいんだけどさぁ…もとはといえば、エミリスが宝箱でアイテムが出るまで探し続けるって言ったからこうなってるわけじゃん…。


 そう思っていた僕だったが、ふと視界の端に何かが映りこんだ。よく見ると宝箱だ。


「エミリスさん、だったら最後にあの宝箱開けてから帰りませんか?」

「そうね、最後に良いものが入っていたらいいけど…。」

「ははっそうで…」


 僕は宝箱を開けて言葉が止まった。


「えっ…なんで、なんで!?」


 エミリスも宝箱の中身を見て驚いている。それはそうだ。だって、僕とエミリスが素材集めをする理由で…


「…。」


 あと少し稼いだら手に入る…


「……。」


 アイテムバックが入っていたのだから…。


「だから…。」


 しかも2個。


「だから今じゃないんだってぇ!!」


 それ、序盤の宝箱で頂戴よ…。本当、僕って運がいいのか悪いのか…。


 そして僕たちは手に入れたばかりのアイテムバックに今まで手に入れた素材とシルバーウルフたちを入れてアルナ村へと戻ることになった。


 その日、アルナ村では大騒ぎになっていた。なにせ子ども2人がたくさんのシルバーウルフとレア素材をアイテムバックから出してきたのだ。村の人たちが僕たちをじっと見ていたが、エミリスがアルマンの孫だからという理由で村の人たちは納得して解散した。


 あのじいさん、何者なんだ?


 そう思いつつ、僕とエミリスは大量の素材を換金して家に帰った。

 家に帰りつくとまず最初にアルマンから説教をうけた。

 アルマンはエミリスがまさか森の奥まで行くとは思っていなかったようで


「小さい子ども2人で森の奥に行くとはどういうことだ!今回は運がよかったかもしれないが、もし何かあったらどうする!?」


 とアルマンに厳しく言われた。しかし、僕たち2人を抱きしめ、


「とにかく…無事帰って来てよかった…。」


 と言ってくれた。


 当分の間、森の奥への探索の禁止を告げられ、レベル上げも控えるよう言われた。

危険なことをしたから仕方ない…。僕たちは納得した。

 それからしばらく説教を受けた後、食事と風呂を済ませて僕とエミリスはそれぞれの部屋へと戻った。


 僕は部屋に入り、ベッドに寝転んだ。


 今回のフガイの森での探索と初戦闘を経て、はずれ職の僕でも戦えることが分かった。

 さらにレベル上げをしていけばもしかしたらエミリスより強くなれるかもしれない。

 前世は特に目標もなく、自分の不運に怯えながら過ごしていた。今回もはずれ職と言われてまた同じ人生を歩むのかと絶望していた。

 しかし、今は違う。もしかしたら活躍はできなくてもスキルの使い方次第では冒険をすることができるかもしれない。僕の人生に一筋の希望が見えたのだ。

 僕は毛布を被り、眠りにつく。


 転生してから散々、不運なことがあったが…第2の人生も悪くないかもしれない…。


ーそしてしばらくしてフガイの森よりー


僕のスキルによってフガイの森の一部が火の海になっていた。

その光景を見てアルマンは頭を抱え、エミリスはただ驚いていた。


さっきの言葉…取り消せないかな…。


 ーー補足ーー

○フガイの森での探索結果…


素材:緑草、ビリトマッシュルーム、スライムジェル、

  銀狼の牙、銀狼の爪、銀狼の毛皮


アイテム:ゴブリンの短剣、アイテムバック2個


討伐:スライム3匹、ゴブリン1匹、シルバーウルフ20匹


○レベル


ワーク:レベル1→レベル5 

 戦闘で固有スキル【会心必当クリティカルヒット】解放。

 また専用スキル【見様見真似コピーペースト】によりエミリスの魔法スキル【ファイア】をコピー。


エミリス:レベル21→レベル24










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