第6話 エミリスの魔法はすごいです……。

「"火よ、敵を燃やせ!"ファイア!」


 ゴブリンの短剣が振り下ろされる直前、エミリスが魔法を放つ。

 エミリスが放った小さな火の玉がゴブリンに当たり、ゴブリンの体は瞬く間に炎に包まれた。

 そして悲鳴を上げながら、ゴブリンはたおれた。


 間一髪で僕は助かり、膝から崩れ落ちた。


「たっ助かった…。」


 そこにエミリスが駆け寄る。なんか怒ってるような…。


「もう、勝手に行動しないで!もし私が魔法を打つのが遅かったらあなた死んでたのよ!?」

「すみません...。」


 僕はエミリスに謝った。


「まったく、低レベルのゴブリンからは何もアイテムが手に入らないのよ。あなたのせいで魔力の無駄使いをしてしまったわ…。宝箱を開けたらまた探索続けるから。分かった?」


「…はい。」


 僕は返事をした後、先ほどまでゴブリンだったものの残骸を見る。


 グロいな、あれが魔法か…。これ、下手したら僕にも飛び火してたんじゃあ…。


 そう思いながら僕は残骸のそばに何か落ちてることに気づいた。近づいて鑑定眼で確認すると【ゴブリンの短剣】と書かれていた。


 エミリスはゴブリンから何もアイテムは手に入らないと言っていたけど…。これもしかして【幸運か不運かラックオアアンラック】の幸運の方が発動したってこと?

 だとしたら今じゃないんだよ。宝箱を開ける時に発動してよ…。

 しかもこの武器…僕が持ってる短剣より攻撃力があるな…。まぁ持っていて損はないか…。


 エミリスがこの武器を見たら真っ先に売るって言いそうだったので、僕は腰に着けていたカバンに入れて隠すことにした。

 そしてエミリスが開けようとしている宝箱まで戻った。

 そしてエミリスが宝箱を開けた。…が中身は空だった。

 さっきのスキル、ここで発動していれば絶対いいの手に入ったって…。ほらエミリスさん、怒ってるよ…。


「なんでよ!ゴブリンに魔法を撃ったのに見つけた宝箱の中身が空ってどういうこと!?こんなの割に合わないわ!」


 さっきの短剣…渡した方がいいかな?なんかまた嫌な予感が…。


「目標変更!宝箱を見つけるまで絶対帰らないから!」


 そう言ってエミリスは僕を置いて先に進んでいく。


 ほらやっぱり…。これ宝箱見つけても中身なかったらまた探すんだよ。絶対…。


 僕は置いていかれないように後をついて行った。

 その後は僕の予想通り、宝箱を見つけても中身がなければまた宝箱を探すを繰り返していた(素材採取も忘れずにやった)。

 そして宝箱を求めて森の奥まで来てしまっていた。


「なんでレアものが手に入らないの!?1つくらいあってもいいじゃない!普通のアイテムかお金が入ってるならまだいいけど、全部空ってどういうことなのよ!」


 エミリスはあまりにもアイテムが出ないイライラからか地団駄を踏んでいた。


「すみません...。僕の不運のせいで...」


 僕は申し訳なさから頭を何度も下げた。

 そう、もう何十回も宝箱を見つけているのにそのすべてが空なのだ。

 アイテム・通貨・空の内の空を、三分の一をずっと引いている。確率は幾何学的数字をもう超えているだろう。


 僕ってどんだけ運が悪いんだよ…。


「あなたの【鑑定眼】だけだったら完璧なのに…。あなた、どんだけ運がないの!?もう1つのスキルにふりまわされ過ぎなのよ!こうなったらアイテム手に入れるまでトコトンやってやるわ!」


 エミリスはまた宝箱を探し始める。


「あの、エミリスさん…。もうここまでにした方がいいんじゃないんですか?森の奥まで来たわけですし、魔物が来たらどうするんですか?」

「大丈夫よ。ここの魔物はいい素材を落とすから私の魔法で一掃すればいいし、まだスライムとゴブリンにしか出逢ってないじゃない。」


 エミリスの言葉を聞いて僕は気がついた。

 そう、まだスライムとゴブリン以外には出会っていない。なんなら


 これ魔物に会わないっていう幸運が発動してない?

 その時、近くで複数の唸り声が聞こえて来た。その唸り声は段々と近づいてくる。


「この感じ、僕たち囲まれてません?」

「…そうみたいね。」


 その声の主たちが姿を現した。狼のような出で立ち、白銀の毛皮に鋭い爪と牙、鑑定眼で確認すると【シルバーウルフ】と表示された。

 そのシルバーウルフたちが一斉に飛びかかって来た。


 うわぁ、もうダメだ!


 死を覚悟したその時にエミリスが杖を掲げ、詠唱を始める。


「炎よ、広がれ!我らを守る壁となれ!"炎の障壁ファイアウォール"!」


 魔法を唱えると僕たちの周りを赤い光が包み込む。それに触れたシルバーウルフたちが燃えはじめた。

 エミリスはさらに魔法を放つために詠唱する。


「炎よ、波打て!その波で敵を焼き尽くせ!"炎の波紋ファイアウェーブ"!」


 エミリスが放った炎は波のように広がり、待ち構えていたシルバーウルフたちを燃やし尽くした。


 すごい…。これがエミリスの魔法か…。


「どう?これが私の実力よ。すごいでしょ。」


 エミリスが周囲を見渡し、倒したことを確認すると炎の障壁ファイアウォールを解き、自分の魔法を僕に自慢するために振り返る。

 しかしすべて倒したわけではなかった。 

 茂みに潜んでいたシルバーウルフが飛び出し、エミリスに襲いかかってきたのだ。

 エミリスは気づいていない。いや気づいたとしても攻撃が間に合わない…。

 僕が攻撃したところでこの攻撃力じゃ返り討ちにあうだけだ。その時は確実に死ぬだろう。


 でも…。だからといって…。


 僕はエミリスを押しのけシルバーウルフの前に立つ。


 逃げていい理由にはならないだろう!女性を守れないなんて男として失格だ!


 僕は短剣を握りしめ、シルバーウルフに突き刺した。

 短剣の先がシルバーウルフに触れる。

 その瞬間、


『クリティカルヒット!!』


 頭の中で大きな声が響き渡った。そして切っ先に触れたシルバーウルフの頭が吹き飛んだ。


「…。」


 目の前で起きた出来事に僕とエミリスは呆然としていた。


 えっ…どうなってるの、これ…?




 ーー補足ーー


 宝箱:様々なエリア・ダンジョンに存在する。アイテムを取ると消失し、別の場所に出現する。なぜ出現するのかは調査しているが解明されていない。中身はランダムでアイテム・通貨のうち1つが出てくる。空の場合もある。


 シルバーウルフ:数匹で群れを作り行動する。爪や牙、毛皮などの素材は装飾品や装備などに使われる。1匹のレベルは高くさらに群れで行動しているため討伐は難しく、素材は高値で取り引きされる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る