乙女ゲーハッピーエンドの派閥一族処刑で絶ッッッ対に死にたくないので、護衛兼使用人として無愛想な第三王女様を御守りし媚を売ることにする。

涙目とも

第1話:転

起承省略。俺はカップを床に落とし、微かに震える膝を必死に抑えその言葉をもう一度聞けるように促す。


「ち、父上。今なんと言いましたか?」

「うむ、我が家族はダンスボール第二王子を支持し、お支えすることになる」


ダンスボールという名前に聞き覚えがあった。国史の授業で習ったのだろうと言いたいところだが、齢4歳、まだ教育のキの字どころか文字すら学んでいない。


ならばなぜその名前に心当たりがあるのか、それは俺が転生者であることに由来する。


いわゆるゲーム内転生というやつである。


ならば、第二王子の名前を聞いて驚いてもおかしくないだろうと思うかも知れないが、俺はこの世界が何かしらの物語のお話なのではと勘づいていた。


絵本から香る明らかに空想上の魔物や魔法の存在、そしてステータスを閲覧できるという何処となくご都合主義が見え隠れする


そうなら前世の知識を活用し、この世界で大成しようと張り切っていた所に礫が投じられた。


この世界は『運命の聖騎士』という乙女ゲーのテンプレとも言うべきタイトルのゲームだ。そしてどのキャラクターを攻略しても、必ずダンスボール第二王子とか言うなんか頭パーリナイそうな馬鹿が謀反を起こし、主人公たちによって制圧、王子と重鎮以外の端貴族たちは派閥処刑という手心のない結末を迎える。


「父上、それはだめです。第一王子さまも第二王子さまもまだ僕の2年差の歳なんでしょう? あまりにも決断が早すぎます」


まだ個人の技能すら見ていないくせに派閥決めてんじゃねえよバーコード。という念を必死に送る。


「はっはっは、フランにはまだ早い話だよ」


……畜生ッ! まだ子供だからか全く話が通じない。


まあ確かに、早めに決めることで昔から支えているという箔が付く。第一王子とは約半年違いの生まれなので年齢というデバフは無い。


だが、流されやすい父上のことだ、どうせ仲間、もしくは支えている上の身分の貴族の影響だろう。


死んでたまるか。


自室に戻った俺は、聖騎士の物語を踏まえて目標を付けることにした。


まず、俺の用意が整うまで徹底的に説得する。それが無理なら、実家を出て家との縁をなるべく切る。少しでも死罪される未来を防ぐためだ。もし俺がいなくても、うちにはあと2人愚兄がいるのでなんとかなる……か?


そして強くなり、傍付きとしての教養を身につける。最低でも身近にいる人は守れるように。


そもそも一族派閥死罪が起こった原因は、第二王子が見せしめとして暗部を送り込み、妹の第一王女を殺したことが由来だ。


使用人として貴族の隣にいることで、現状の把握と影の手引きをし易くなると思ったのも考えの内だ。


あの我儘を説得するのは絶対に無理なので諦めよう。




そしてあと一つ。それを達成すべく、父の部屋に向かう。




「アトムエ伯爵のところへ行きたい?」

「はい、アルくんと遊びたいです」

「構わぬが……アトムエ様は第一王子派寄りだしなぁ」

「子供同士の関係に口を出そうとしないでください」


横で話を聞いていた母上からナイスフォローが飛んだ。


こうして、1週間後アトムエ伯爵の元へと向かい、先に部屋に行ってもらう。この屋敷には何度か遊びに来ており、大人しく利口な俺は、1人で立ち歩く許可が降りていた。


右端から壁を叩き、違和感がないか耳を当てる。


……

…………

…………………


お、ここの反響がおかしい。まるで通路があるような……


開けてみようと努力するが、壁に違和感は見当たらないし、切れ目すら見当たらない。

ただ奥に通路があるだけと思うかもしれないが、反応があったのはここだけだし、ちょうど死角になる位置に何も置かないなんておかしい。


「……カスタート男爵家三男、フランソワです。私に暗術を教えてください!」


アトムエ家には、王家をお守りし、反逆者を消すための『影』を育てるための施設がある。原作知識からそのことを仕入れた俺は、守る術を得るべくここに来た。


表立った訓練はできない。原作知識に沿った行動をする可能性がある。

俺には才能がない。1人につき一つ神から与えられるギフトは魔法と実力が全てのこの世界では弱いとされる部類だし、魔法も風と水、そして少しの炎にしか適性が無い。


可能性があるとすれば、原作には無い知識が学べるここと、絶え間ない努力をしなければ獲得出来ないエクストラスキルの二つしかない。


全ては生きるために、王女を守る。


そんな思いが通じたのか、壁が横にズレて階段が現れる。


———この一歩を踏み出したらもう戻れない。


覚悟を決め、閉る光を背中に歩き出すのであった。

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