第7話 大団円

 そうは言っても、実際に、その被害者が、

「沢村伸子に似ていた」

 というだけで、

「そっくりだ」

 と言い切る人がいない。

 というのも、

「被害者が整形を受けていた」

 ということで、少なくとも、

「被害者は沢村伸子ではない」

 ということになるだろう。

 だとすれば、今のところの、最重要容疑者として考えられるのが、

「沢村夫妻」

 ということになるのだろう。

 いくら完全に似ていないとはいえ、

「似ているように整形させて、最後は殺され、以前いた商店街に、遺体として放置されていた」

 ということになるのだ。

「一体、どう解釈すればいいのだろうか?

 そして、一つ問題なのが、

「沢村夫婦が行方不明になっている」

 ということだった。

 テナントの店を畳んでから、ほとんど人と顔を合わさなくなり、家にいたという気配もないようで、

「どこに潜伏していたのだろうか?」

 と警察も必死の捜索を続けた。

 桜井刑事も、

「あの二人が見つからないことには、事件はまったく進展しない」

 ということを分かっていたので、進展しない以上、何もできないということであった。

 さすがに、このままではらちが明かない。

 ということで、全国に指名手配した。

 証拠はないが、さすがに、殺人では手配できないので、死体遺棄ということに、少し苦しいがそれで、指名手配をしたのだった。

「このまま見つからない区がするな」

 と桜井刑事は次第にそう思うようになてきた。

 その根拠というのは、

「死んでいる可能性が高い」

 と思ったことと、もう一つは、

「奥さんも、整形をしていれば、分からないよな」

 ということであった。

「お互いに被害者と加害者が顔を変えていて、しかも、その変えた顔が自分に似ている」

 という必要はないのだ。

 却って、誰かに似ている方が、その人だと思われて、何かに気づかれるかも知れない。

 だから、なるべく、普段から地味で、人とかかわりのないような人で、同じくらいの背格好の人を探して、その人になり切ればいいのではないだろうか、だとすれば、完全に似ていなくても問題ないし、その方が、似ていても似ていなくても、どっちもの意味で、都合がいいということになるだろう。

 桜井刑事は、しばらくすると、事件の真相に気づき、犯人を逮捕した。

 この事件において、一つのキーワードが、

「一人三役」

 というものだった、

 というのは、まず、犯人は、沢村伸子だった。

 彼女は、

「自分をこの世から消し去りたい」

 という気持ちを持っていた。

 そして、そのために、自分を殺すための身代わりとして、地味な女を探してきて、言葉巧みに近寄る。そして、

「整形をすれば、私のように男をとっかえひっかえで、人生が変わるわよ」

 といって、誘導したのだ。

 沢村伸子の恐ろしいところは、

「自分の言いなりにさせることができるのは、男だけではなく、女に対しても」

 というところであった。

 そうやって、その地味な女を誘導し、

「この世の極楽を見せてやるために、整形の費用まで出してやり、しばらく、極楽を見せてやった」

 ということであった。

 だから、伸子は、まずは、本人である自分、そして、その地味な女との二役。そして、もう一つ重要なのは、

「共犯者の存在」

 だったのだ。

 その男は、旦那がいてはいけない。一人自由に動ける人間ということであり、それが誰かというと、登場人物の中では一人しかいない。

 頭が切れるところはあるが、一人の女におぼれると、抜けることができないほどの、純粋さを持った男に対して見せる顔であった。

 そう、この事件の共犯者は、樋口青年であった。

 彼は殺人計画を立てるには、ちょうどいいくらいの頭脳を持っていた。

 そして、伸子が、

「三役目」

 を演じるにはちょうどいい相手。

 それが、樋口青年だったのだ。

 樋口青年は、人心掌握術はないが、人間観察には長けていた。

 しかし、逆に、伸子は、人間観察は苦手だが、人心掌握術は得意だったといえるだろう。ただ、その人心掌握術というのは、

「肉体を使った」

 というもので、それが、いろいろな男をたぶらかすことであり、共犯を見つけることであった。

 そもそも、他の男に色目を使ったのも、

「共犯を見つける」

 ということから始まったのだ。

 ということは、

「この事件のそもそもの計画は、最初から始まっていた」

 といってもいいだろう。

 奥さんはそのうちに、

「共犯は、妻帯者ではダメだ」

 と思った。

 それは、奥さんがいると、不倫がバレる可能性があったからだ。

 それがバレるのはいいのだが、ある程度まで、計画が進行していないといけなかったからだ。

 そういう意味で、白羽の矢が立った樋口青年は、

「共犯者としては、最高」

 という相手だったということであった。

 実にうまく計画を立ててくれた。そこはいいところだった。

 しかし、伸子は一つ大切なことを忘れていた。

「共犯を作るということは、それだけ、真相発覚のリスクが高い」

 ということであった。

 本来なら、犯行が終われば、なるべく早く始末すればいいのだろうが、樋口はそれなりに頭がいいので、自分に対しての危険は察知していて。逆に脅迫してくる始末だった。

「いずれは、始末しないと」

とは思っていたが、そうもなかなかいかなかった。

 だが、

「樋口の敗因」

 というのは、自分の頭の良さに胡坐をかいて、油断をしてしまったことだった。

 脅迫を始めた時点で、すでに、隙だらけだったのだ。簡単に毒を盛られて、殺されて、断崖絶壁から海に放り込まれた。

 一応、自殺でもいいような工作をしておいたのだが、この事件の発見者でもある樋口が、

「行方不明から、死体で見つかる」

 ということになると、桜井刑事の推理を、立証する形になってしまったことは、今度に限っては。

「伸子の敗因」

 といってもいいだろう。

 それを考えると、

「この事件は、結構策を弄していて、うまく計画されているのだが、一つのほころびから、一気に解決してしまう」

 という、一種の、

「ドミノ現象」

 といえるような犯罪ではないかと考えるのだった。

 ただこの事件に関して、松崎が考えていたことが解決へのヒントになったのだが、

 それは、松崎が、桜井刑事に発した言葉であった。

 それは、

「旦那の沢村さんが、この商店街から逃げたかのように見ていたんですが、本当にそうなのか、僕は疑問なんですよ」

 といった時のことだった。

「その時、沢村が、自分の意志ではなく、殺されている奥さんの意志が働いているとすれば、そこにも何か意味がある」

 と思ったのだ。

 そして、もう一つ感じたのは、事情聴取の時のことではなかったが、

「奥さんだと思った死体が、整形をされていて。さらに、そんなに似ているわけではない」

 ということを感じた時、

「なんて、地位と半端な事件なんだ」

 と感じたことだった。

 その時、

「もし、入念に寝られた計画だったとすれば、このことも、犯人の計画通りだ」

 ということになるのだろうか?

 ということを考えると、事件を調べていくうちにいろいろと出てくる、

「生殺与奪」

「異常性癖」

 そして、

「奥さんの度重なる不倫」

 というものを考えているうちに出てきた、

「一人の男の失踪からの、死体発見」

 そこで一つの仮説として、女の、

「一人二役」

 というものであった。

 しかし、

「まさかそれが、三役だったとは」

 と、桜井刑事も、さすがに呆れてしまっているかのようであったんだ……。

「ああ、言い忘れていたが、事件の直接の動機は、旦那への復讐だったのだ。いろいろな策は、その動機を探られないころで、自分の身の安全を図りたかったということだったのだ」


                 (  完  )

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一人三役 森本 晃次 @kakku

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