後日譚



「っくしゅ」

 季節はすっかり冬。学校に慣れてきたと思ったらあっという間にホリデー期間になった。

 私は前より優しい気持ちで妹や弟の世話が出来るようになった。まだ喃語や赤ちゃん言葉が多くてなんて言ってるか時々分からないけど、なんて言いたいかはなんとなく理解出来るようになった。前には無かったことだ。

 学校は正直楽しいまでいかないけど、セレストと他の女の子達とよく喋るようになって、まだしょうもない絡み方をしてくる男子は居るけど気にならない。なんなら成績はずっと休んでた私の方がよっぽどいいので見返す気分だ。

 それでもいい事ばかりではなく、実は先日魔法医院から連絡があり、おばあちゃんが消滅した。魔女として命を終えたのだ。でも顔も声もまだ覚えてるから記憶を消す魔法はかけてなかったんだと思う。院長先生が言うにはとっくに寿命は迎えていたけど、時の魔女の継承をするまで、みんながそれぞれのストーリーを紡ぎ直すまで無理に延命魔法をかけ続けていたんだそうだ。時の魔女として周りを振り回し続けたからと……。それからというもの、母は忙しそうだ。時の魔女を継承したはいいけど、高度魔法故にやっぱり扱いは難しくて、半分人間の母はなかなか安定しないみたい。

 私?私の魔法は簡単なものには挑戦しているけど、私は人間として生まれたので、それはそれで魔力の安定はしている。母みたいに異種族半分ずつの方が難しいみたい。とりあえず物を浮かせ移動させるとか、空中に映像を映すぐらいは出来るようになったけど、飛行とか錬金みたいなものはまだまだ難しい。

 おばあちゃんのことで魔法医院を一度訪ねたけど、魔女の姿は無かった。もうあの別れからずっと見ていない。

 市井におつかいに出た時偶然お兄さんに会った。

あの魔女の家にしていた小屋は今年の雪の重みで潰れてしまったそう。

 魔女の家も無く、魔女も居ない。それでも世界は正常にまわる。それは私がちゃんとふたつめの筋書きストーリーを歩けているということなんだろうか。

 それでも私は10数年しか生きてない甘ったれなので。

「お母さーん、ちょっと出てくるね。夕方までには帰るから」「気を付けなさいよ、積もった雪でまだ足もと滑るからね」

 マフラーをぐるぐるに巻き、いつものダッフルコートで市井まで出掛けた。

 いつもの果物屋さんに寄り、リンゴを6つほど買い、1つ食べ歩く。

 私の足はそのまま広場を抜け、東通りに出る。通りの端まで行った後は迂回路に入る。

 行き慣れたその道は小さな家が並ぶ閑静な住宅街。チャイムは付いておらず、いつものドアを少し強めにノックする。

「あのー、依頼ってここで合ってますか?」

買って来たリンゴを渡す。そこに居るのはひとりの魔法使いとひとりの魔女。

「その依頼、破格で受けよう」

 春になれば藍色の瞳の魔法使いとチの魔女が千の花をこの街に咲かせるだろう。

 

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バレッタと魔女 ろぜ @Red_rose_White

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