焼肉
惣山沙樹
焼肉
兄と久しぶりに焼き肉に行った。
「なんか色々思い出すなぁ瞬!」
「そうだね……僕が兄さんに襲われたの焼き肉食べた日だったもんね……」
あの時は、兄の正体を知らなくて、年上が相手だからと率先して肉を焼いた。今日は弟としていじらしく焼いてやっている。というか、兄の性格をよくよく考えてみれば、こういうの面倒くさがる人だし。
「瞬、ビール追加」
「はいはい」
兄の飲むペースが早い。今夜はめちゃくちゃにされそうだ。まあ、酔った兄とするのも楽しいから別にいいんだけど。
僕が頼んだキムチやナムルには兄は全く手をつけず、ひたすら肉ばかりを食べていた。こういうところでは、サイドメニューも楽しむのもいいと思うんだけどな。
「おっ、このホルモンもういけるんじゃね?」
兄が勝手に箸でホルモンを取り、止める間もなく口に放り込んだ。
「えっ、まだじゃない?」
「いけるって。食ってみろ」
「うん……」
僕も食べてみたが、けっこうぐにゅぐにゅしていた。いや、ホルモンだったらこんなもんか? 飲み込んでしまってから、やっぱり早かったのではと思い始めた。
「兄さん、もうちょっと焼こう」
「えー俺待てない」
「我慢して」
その夜はやっぱり激しかった。大満足だ。兄の可愛い声が沢山聞けた。もうくたくただったので、兄に足を絡ませて寝た……のだが。
「うっ……」
お腹が痛くて目が覚めた。まだ深夜だ。トイレに駆け込んだ。これはまずいやつだ。しばらくそのままこもっていると、ドンドンと扉が叩かれた。
「瞬! 早くしろ! 早く!」
「ちょっと待っててぇ……」
キリのいいところで出ると、兄が真っ白な顔をして入れ違いに飛び込んだ。これは……マジでまずい。
また、波がきた。僕はうずくまった。
「兄さん、早くぅ……」
「無理……自分の部屋帰れ……」
「ええ……」
しかし、そうするしかないだろう。僕はフラフラになりながら着替えて自分のマンションに帰り、トイレに入った。
「痛ぁ……」
間違いない。あのホルモンのせいだ。やっぱり焼けてなかったんじゃないか。兄のことを恨んだ。いや、食べてしまった僕も悪いが。
ついには吐き気も出てきた。上から下から大騒ぎだ。僕はぐったりと便座によりかかった。兄は、大丈夫だろうか。
空が白んできた頃になって、余裕が出てきたので、ベッドに寝転がり、兄に電話をかけた。
「兄さん……そっちどう……」
「腹痛がヤバい……」
「だよね……」
スピーカーにして、通話しながら励まし合った。九時になったら内科に行った方がいいかもしれない。
「兄さん、一緒に内科行こうか」
「ええ……俺病院嫌い……」
「そんなこと言ってる場合?」
「水飲んで追い出したら何とかなるんじゃね……」
確かに、脱水はまずい。こういう時には水分を取った方がいいとは聞いたことがあった。僕はぬるい水を飲んだ。
「瞬、寂しい……こっち戻ってきて……」
「ええ……」
「不安なんだよ……」
まあ、峠は越えたような気がするし、と僕は兄の部屋に戻った。死人のような顔をした兄がベッドに転がっていた。
「瞬、ぎゅーして」
「はいはい……」
弱ると人間誰かを頼りたくなるものだ。でも今は僕も弱っている。兄に気を回してやれる余裕がない。むしろ文句を言いたくなった。
「兄さん、絶対あのホルモンのせいだからね」
「わかってたんなら止めてくれよ」
「止める暇もなかったんだよ」
二人とも弱った身体で泥沼の喧嘩が始まった。
「僕に任せてくれたらこんなことにならなかったのに」
「瞬が肉焼くペースが下手だったんだろ」
「仕方なくない? 網のスペース限られてるんだし。お腹すくんなら一品ものでも頼めばよかったじゃない」
「めぼしいものがなかったんだよ」
「兄さんはいつもそうやって」
「瞬、俺しんどいんだから優しくしてくれよ」
「僕だってしんどいんだよ」
吐き気がきた。
「僕……吐いてくる……」
「おう……」
よろよろとベッドを抜けて、またトイレとお友達になった。戻ってくると、兄は眉を下げてこちらを見てきた。
「あのさ……瞬……今回は俺が悪かった……」
「素直に謝ってくれてありがとう……」
「もう勝手に肉取らないから許して……」
「許す……」
それから、内科に行きたくないと兄がワガママを言い続けるので、結局自分達で何とかすることにした。僕の体重は三キロ減った。
焼肉 惣山沙樹 @saki-souyama
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