暇さえあれば私に抱きついてくる君
水面あお
第1話
「ぎゅ〜」
親友である真紀に抱きつかれ、今日も今日とて葛藤する。
これはあくまで女子同士の友情なんだよね? 恋心が絡んだスキンシップではないんだよね?
私、梨花の長年の悩みは真紀との関係についてだ。
私たちは中学からの同級生で、学校は中高一貫の女子校なので、高校生である現在まで一緒に過ごしている。
真紀はことあるごとに私にハグする癖がある。嬉しい時、辛い時、悲しい時など、喜怒哀楽のすべてを私に抱きつきながら表現してくるのだ。
真紀は私よりも頭一つ分小さくて、つい包み込むようにその背中に腕を回してしまう。
彼女からは柔らかで良い香りがする。香水のような匂いではなく自然の香り。それが私の鼻腔を程よくくすぐる。
こんなに密着していると、トクトクと早いテンポで鳴り続ける心の音が聞こえてないか不安になる。そう意識した途端にもっと早くなった気もする。
このハグはどんな場面でも行われる。たとえばいま、学校でみんながいる時間帯でも構わずに抱きついてくるのだ。だから私たちのハグは一種の見世物と化している。
「マキリカだ〜」
「あたしリカマキ派」
「尊い……」
「きっとあの二人付き合ってますわ!」
外野がざわざわと騒ぎ出す。彼女らはおそらく本気でそう思っているわけではない。からかい混じりに冗談半分で言っているはずだ。
そんな周囲には目もくれず、真紀は抱きつきながら上目遣いで私に話しかけてくる。
「梨花、私ね今日の小テスト満点だったんだ!」
嬉しそうに目を細めている。
小テストというのは今朝行われた漢字テストのことを言っているのだろう。私は一問ミスで満点を逃してしまったが、真紀は全問正解したようだ。
「そうなんだ、おめでと」
私はどこか淡白に返した。梨花のことを想っているのだが、それを表に出すのが恥ずかしくて、いつもそっけない態度になってしまう。
「ありがと、梨花!」
けれどそんな私の返しにすら、真紀は全力で喜んでいた。
帰り道。二人で夕焼け空の下を歩いていたときの事だった。
「ねぇ、梨花?」
「なぁに?」
「手繋ごっか?」
「!?」
動揺を露わにしないように取り繕うが時すでに遅し。
「どうしたの? 女の子同士手を繋ぐことくらい普通にあるじゃん?」
真紀は純粋そうな笑みで疑問を呈する。
「わかった。繋ごう」
私たちは手を絡める。真紀の手の温もりが直に伝わってくる。
「梨花の手、あったかいね」
「真紀もね」
そのまま無言で歩き続ける。
「真紀はさ、どうして私に構ってくれるの?」
「そりゃあ梨花のことが好きだからに決まってるじゃん」
「そうだよね」
「うんうん」
きっと真紀の言う好きは友達同士の好きなのだろう。告白もされたことないし。真紀には少し子供っぽいところがあるし。
分岐路までやってきた。
ここを右に行くと私の家の方面で、左に行くと真紀の家の方面だ。
「じゃあね」
「また明日」
「うん」
別れのハグをする。普段は真紀からだけれど、ちょっとびっくりさせてあげようと勇気を出して私から。
「っ!? 梨花っ!?」
「今日は私から」
「え、あ、」
「そんな日があってもいいよね?」
「そ、そうだねっ」
うろたえていたが、そこまでのものだろうか。いつもハグする側なせいで、されるのには慣れていないからだろうか。
真紀は気付いているのかな。
私のハグが友達に向けたものじゃないってことを。
わかるわけないか。
だって私たちは恋人なんかじゃなく、友達同士だものね。
切ない気持ちをぶつけるように、私は真紀を強く抱きしめた。真紀はいつもよりあたたかかった気がした。
暇さえあれば私に抱きついてくる君 水面あお @axtuoi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます