私の処女を殺してくれ!!

Shutin

第1話

 窓の外へ目をやると、校舎裏のグランドではサッカー部が最後のランニングメニューを始めていた。熱血スポ根漫画よろしく、地平線に沈みゆく真っ赤な夕日にそのまま走り出してしまいそうな彼らを見て、もうそろそろ家に帰らなければいけない事に気づく。


「ねえ、ネー様・・・そろそろ帰らない?今日は俺が夕飯当番なんだけど・・・」

「う〜ん。ちょっと待ってねター坊、今良いところだから」


 どこぞのドマイナー漫画をマジマジと見つめながら机の上に寝転がる女子生徒、俺にお姉様と慕われ『ネー様』と呼ばれる官能カンノウ寧々ネネは、俺の提案などに耳を貸さない。


 明るい茶色、もはやベージュの長い髪をゴムで束ねるネー様は、俺こと豊色トヨシキ太作タイサクの同級生だ。そして幼馴染というやつだ。


 なぜ俺が彼女を『様』付けで呼んでいるかの理由はひとつ。

 俺と彼女は同級生でありながら、ほぼ一年の年齢差もとい日齢差があるからだ。


 ネー様がこの世に生を受けたのが17年前の四月二日。一方で俺は16年前の四月一日に生まれた。この実質一年の差により、幼少の頃から俺は彼女の事を実の姉のように慕うようになった。


 実際。幼い頃から常にぼけーっとしていた太作少年は、小学三年生なるまでネー様の事を一緒の家で暮らしていないだけの実の姉だと思っていた。


 そんな事もありつつ、中学で一気に成長し、ネー様の身長を追い越した俺は今も尚彼女の事を姉と慕い、『姉様』と寧々をかけて『ネー様』と呼んでいる。


 まあ、今はそんな事どうでも良く。俺の仕事はこのネー様を早く帰路につかせ、飢えているであろう俺の可愛い可愛い妹ちゃんと弟ちゃんに夕飯を作ってあげなければいけない。


 だらけ状態のネー様を動かすのは至難の技だが、ここは本気を出すしかない。


 ネー様の弱点はズバリ第三者の目。学校ではお淑やかなお嬢様を装う彼女は、人前で決してその本性を見せない。学校内でネー様がだらけるのも、この誰もいない放課後の教室だけだ。


 誰も知らない彼女の本性を知っているという優越感はあるものも、たまに面倒臭い。


 ネー様の視線が一瞬だけ漫画からオレの方向へと移る。


 よし今だ!!


「あ!せんせ・・・」

「ねえ、ター坊!!」


 廊下を歩く先生(幻想)にお辞儀をする俺の声を掻き消し、ネー様は元気よく立ち上がる。


 なんだなんだと驚いていると、俺の視界をネー様が読んでいた本が覆った。


 開かれたページには『デュフフ』と舌舐めずりをするいかにも助平そうな男と、頬を紅潮させながら『キャー』と両手を頭上に縛られた女の絵が描かれていた。

 何故かカラーのその見開きにより、その女性の服は灰色のセーターを着ている事が分かる。セーターとは毛糸で編まれた防寒目的の上着のはずだ。しかし女のセーターには半袖どごろか袖がついてなく、艶めかしく脇と肩を露出させている。健全なる高校男児の俺には、彼女のセーターの背中部分に布がない事をいとも容易く想像できた。


 エロ本じゃないか!なんて物を読んでいるんだ、このネー様は!?

 俺が読むのならまだしも、華のjkであるネー様が読む物ではないだろう!!


「ター坊。これは何でしょう?」

「えっちな漫画ですね。没収対象です。風紀委員を呼んできます」

「カマトトぶるね〜。うんうん、そういう成長もお姉ちゃんは嬉しいよ。じゃあ質問を変えよう。この女が着ている服はなんでしょう?」


 こんな姉などいてたまるか。可愛い顔してセクハラまがいの言動をする姉など。


「セクハラですね。風紀委員を呼んできます」

「・・・・」


 風紀委員という絶対的権威の名で躱そうとするも、ネー様の無言の圧力に弟である俺は負けてしまう。


「・・・童貞を殺すセーターと呼ばれるものですね。エロいです」

「別に感想は求めてなかったんだけど・・・・そう『童貞を殺すセーター』。如何なる男の貞操も滅してしまう悪魔の服。これにあてられたら今まで守り抜いてきたター坊の貞操も殺されちゃう」


 ニンマリ笑みを浮かべ、ネー様は俺の非モテな現状を揶揄う。大きなお世話だ。

 しかし俺にも反撃の余地はあった。常日頃から俺達は行動を共にしている。故に彼女が俺にそういう経験が無いことを知っているように、俺も彼女にそういう経験が無い事を知っている。


 無いはずだ。絶対に無いはずだ。無いよね・・・・?


「ネー様だって・・・・その・・・そういう経験ないだろ?」

「・・・・・・・・無い」

「おお!潔い!!」


 良かった!!ネー様はまだ清いままだった!!・・・て、我ながらこの言い方はなんかキモいな・・・・そもそも俺が喜んでい良いものなのか?


 心の中で疑問を募らせていると、ネー様はおもむろに持っていた本を放り投げ、机の上に仁王立ちをする。


 俺の机に靴のまま乗らないでくれ!!と怒りたいところだが、ネー様の真剣な眼差しに口をつぐむ。というのは建前で、風にヒラヒラと揺れるスカートの中をバレずに見つめるのに必死だった。

 そしてそのまま。何のキャラを真似しているのか、革命家のような口調でネー様は熱弁を始める。


「ター坊!!知っているか?この世に『童貞を殺すセーター』は存在するのに逆は存在しないのだ!!この男女平等の時代におかしいとは思わないか!?」

「逆って・・・・『処女を殺すセーター』ってこと?」

「そう!!ター坊よ、どうか一緒に考えてみないか!?『処女を殺すセーター』なるものを!!」

「いや・・・くだらないし、そんなに暇じゃないし・・・」

「暇でしょ?部活にも入ってないんだから・・・やってくれないとター坊のベッドの下のエロ本晒すよ?」

「それは禁止カードでしょ!!」

「やってくれるよね?

「分かったよ・・・一緒に考えてやるよ・・・」

「よろしい!!ター坊よ。考えて、考えて、考えぬいて、私の処女を殺してみろ!!」


 ネー様の熱意に負けて、弟である俺は頷く事しかできない。

 というか最後の一言・・・・聞きようによってはかなり危ない発言じゃないか?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 定期的にあのお姉様は暴走する。今回のは特にひどい。

 健全な男子高校生に『処女』だの『童貞』だの、何回も連呼させるなんて・・・・

 男友達とならまだしも、一応俺とネー様は男女の仲なのに・・・

 なんか男女の仲って言葉も危ういな。なんと呼べば正解だ?そうだ『ただの幼馴染』だ。


 さて・・・『処女を殺すセーター』か・・・・どうしたものか?

 まず『童貞を殺すセーター』について考えよう。

 胸の横部分と背中を大きく露出させたホルターネックのセーターだ。身体のラインを出しつつ、男どもを沸かせるあのチラリズムを良い塩梅で引き出す。下品でなく、エロい。まさに世の童貞のハートを射止めるためだけのセーター。言っておくが俺はあんな服ひとつで堕ちないからね。


 では一体女子はどんな男子の服装に魅了を感じるのだろうか?

 筋肉か?やっぱり筋肉なのか?力はエロさえも解決してしまうのか?

 実際にスポーツ部の奴らはモテ度が高い。

 そうだ!!あいつに聞けば良い。うちの学校1のモテ男に。


 翌日。

 学校1のモテ男に助言をもらう事にした。

 それは三年の先輩の茂木モテギ照夫テルオ。通称モテオ。学年の違う俺達もその名を知っているレベルのプレイボーイだ。


 教室の中心で数人の女子に囲まれるモテオに話しかけるのはかなり緊張する。

 しかも先程まで横にいたはずのネー様がいつの間にか消えていた。教室の外で心配そうにこちらを見つめていた。


 ちくしょー。あいつ逃げやがった。ここは一旦体勢を立て直そう。


 しかし教室から逃げようとするも、どういう訳かモテオは俺を呼び止める。


「おー。君は太作君じゃないか?2年の豊色太作。なんか俺に用?」


 こうなるともう逃げられない。

 というかなんで俺の名前知ってんだよ!!


「え〜と。初めましてですよね?なんで俺の名前を?」

「そりゃだって君、寧々ちゃんと仲良いじゃん。寧々ちゃんデートに誘っても君との用事があるっていつも躱されちゃうんだよね〜」


 なるほど・・・理解した。

 ネー様は2年生の中で上位に入る容姿をしている。身内贔屓も入るが、某アイドルに入ったらセンターを務められるくらいには可愛い。

 そんなネー様を学校1のプレイボーイが見逃すはずもなく、それを回避するために俺の名前が使われたのだろう。ネー様が教室に入ってこない理由もそれだ。


 ネー様に色目を使うとは・・・いくら年上でも場合によっては戦争だ。


「それでなんか用?」


 モテオが尋ねてくる。そうだった、最重要任務を忘れていた。


「いや〜実は女子はどんな男子に魅力を感じるかってのを知りたくて〜」

「ふーん・・・・まあ俺に聞くのは間違ってないぜ。そうか魅力か・・・」


 流石はモテオ。すげー自信家。

 さあ最高のアドバイスをくれ!


「う〜ん・・・分かんねえな」


 長考の末、モテオはなんの答えも出せなかった。

 なんの役にも立ってくれない。

 男の俺に教える事は無いということか?


 するとモテオはくるりと辺りを見回し、近くで駄弁る女子のグループへと声をかける。


「ねえねえ。俺の男としての魅了ってなんだと思う?」


 俺は腰を抜かす。


 こいつ!!なんでそんなに平然と聞けるんだ!?しかも女子の会話に横槍を入れる形で!!

 これがモテる奴の『余裕』ってやつか!?

 こんなに平然と、軽々と、性別の垣根を超えるとは!!!


 女子グループは突飛な質問に『何それウケる〜』と笑いながらも、次々と答え出す。


「顔」「顔」「筋肉」「ファッションセンスが良い」「デカい」「顔」

「一見ただのチャラ男にしか見えないけど、実はサッカーに真摯に向き合ってて、誰も見てないところでこっそり練習してたりしてる真面目な所。しかも結構世話焼きで、誰に対しても優しい。そうあれは去年の春の事・・・」


 女子達の貴重なご意見にモテオ様は得意気な顔を見せる。確かに男の俺から見ても顔が良い。というかこの先輩と俺がたったの一年しか学年が違う事に驚きだ。もはや違う種の生物にさえ見える。


 あ〜怖い怖い。サンプルは貰ったしそろそろお暇しよう。もう三年生の教室のプレッシャーに耐えられそうにない。


「貴重なご意見ありがとうございました」

「おう、気にすんな。ところでこれは学校の世論調査とか?」

「いや。個人的なやつっす」

「何?太作くんモテたいの?」

「そんなところっす」

「あれ?でも寧々ちゃんは?付き合ってるんでしょ?」

「寧々?ただの幼馴染ですよ〜」

「あ、そうなんだ?ふ〜ん・・・・」


 含みのあるモテオ様の笑顔に背筋がぞくりとする。

 しまった嘘でもネー様の事と付き合ってると言っておいた方が良かったか?

 度々クラスメイトに間違われるから、反射的に否定する癖がついてしまっている。


 ーーーーーーーーーーーーーー


 モテオ先輩のアドバイスの元、俺とネー様は『処女を殺すセーター』を考えるも、やはり良い案はなかなか出てこなかった。とりあえずはまずセーターという前提を変えようと言う話になった。


「いや〜それにしてもター坊は勇気あるねえ。あの上級生だらけの空間に単身で乗り込むとは」

「いやいや、本当に怖かったからね!モテオ先輩が優しかったから良いものを・・・」

「あー・・・モテオねモテオ。私あの人ちょっと苦手・・・」


 ネー様の顔は曇る。以前テレビで好きだったアイドルの不倫騒動が出た時と同じ表情だ。


「そういえばモテオ先輩にデート誘われた事があるって?」

「半年前くらいにね・・・もちろん拒否ったけど」

「俺の名前を使ったんだって?」

「仕方ないじゃん。嘘でも彼氏がいるって言わないと」

「え?彼氏って言ったの?」

「あ・・・うん・・・」


 まさか彼氏と言っていたとは・・・しっかりと口裏合わせしておけば良かった。俺が彼氏じゃないと知った今、モテオ先輩は再びネー様を放って置かないだろう。


「モテる女はツラいよね〜」

「実際ネー様ってモテてるの?」

「もちのろん。もう軽く10回は告られてるね」

「すげ!でも彼氏いないよね?」

「・・・・・まあね」


 俺は人生で一回も告白されたことなどないと言うのに、なんともいえない敗北感だ。それにしても如何なる男にもOKを出さないネー様のタイプはどんな奴なんだろうか・・・


「でも気をつけろよ。モテオ先輩に何かされたらすぐに呼べよ」

「え?何?心配してくれてるの?お姉ちゃん嬉しい」


 ネー様は俺の背後に回り、髪の毛ををわしゃわしゃしてきた。こう言う時の姉貴面は卑怯だ。


「でも大丈夫。私こう見えて力強いから」


 無い力こぶを見せつけてくる。反射的に二の腕を触ろうとしたが、はたき落とされた。


「男は狼だから。襲われたらひとたまりもないよ〜」

「ならこっちはシベリアトラだから。ガオー」


 おどかそうとするも、ネー様も負けじと両腕を上げて爪を立ててくる。虎どころか子猫のようなその威圧に俺は反射的にネー様の頭を撫でていた。

 ネー様はすかさず俺の腕を掴み引き剥がす。彼女は露骨に俺に頭を撫でられるのを嫌うのだ。姉の矜持という奴だろう。


 ちくしょう・・・可愛いな、おい。


 ーーーーーーーーー


 あれから色々と調べ回り、やはり筋肉は男の魅力だと思う俺は、どうにかして筋肉を強調できる服を考えていた。


 そしてやはりここでも重要なのがチラリズム。ふとした拍子に見える腹筋などが女性の興奮を唆るに違いない。


 幸いな事に俺の腹筋は割れている。なぜなら毎日朝と夜の腹筋100回を欠かしたことがないからだ。なぜ腹筋を割ったかについてだが・・・それは愚問というものだ。


 ネー様に試そうとするも彼女は俺の半裸など見慣れているので、他の女子に試す事にした。


 ターゲットは心内ココウチ姫子ヒメコ。俺の図書委員での友達で、ネー様以外の唯一の女友達だ。


 図書委員の仕事中、俺はあえてブレザーを脱ぎ、シャツをズボンから出す。

 そして立ち上がる度に彼女に腹筋をちらつかせる。


 ストレッチと称し身体を伸ばしてはチラッ。「暑いなー」と服をパタつかせてはチラッ。

 流石に露骨すぎたのか心内からツッコミが入る。


「あの・・・さっきからなんでそんなに腹筋をチラつかせてくるんですか?」

「あ・・・バレた?どう?興奮した!?」

「興奮って・・・・まあ視界には入れてしまいますけど・・・」

「それは思わず見ちゃうという感じか?」

「まあそんな感じです・・・」


 結構。なかなかの好感触だ。


 やはり俺の仮説はあっていた。『童貞を殺すセーター』の見えそうで見えないあの感じが、『処女を殺す服』にも必要なんだ!!


「まあ思わず見ちゃうのは豊色君だからなんですけどね〜」

「・・・・ん?」


 心内の付け足しに思考が止まる。


 え?どういう事?俺だから見ちゃう?

 まさかもしかして、そういう事?


「豊色君も鈍感ですよね・・・・ずっとアピールしてるのに気づかないし・・・」

「あの・・・・心内さん?え?待って?そういう事?」


 心内の手が俺の右手を取ろうとしたその時、ドンッという音に心内が停止する。誰かが図書室のカウンター積んであった本を崩したのだ。


 ああ・・・救世主現る!!

 と思うも、本を崩した犯人はネー様だった。


「何をしてるんです〜心内姫子さん?」

「あらこれは官能さん。どうもこんにちは〜」

「ター坊・・・太作が困ってるように見えたけど?」

「ただの男女のスキンシップですよ。心配しすぎですよ官能さん。ブラコンも程々にしてくださいね?」

「私と太作は姉弟ではないので」

「ああ、そうでしたね。それなら尚更関係ないじゃいですか」

「グッ・・・それは、そうだけど・・・」


 ネー様と心内は睨み合う。俺の事を取り合って。

 嬉しく思いつつ止めに入ろうとするも、俺が割って入りこめるような雰囲気ではなかった。確かにそれはシベリアトラ同士の睨み合いだ。


 あれ?俺は何に対して嬉しいと感じたんだ?心内の想いに対して?

 それともそれとも・・・・




<寧々視点>


 私には一年程歳の離れた幼馴染がいる。名は豊島太作。通称ター坊。

 ター坊は私の事を姉と慕い、私も彼の事を弟と可愛がっている。

 しかし弟として見ていたのは中学2年生までだという事は誰も知らない。


 身長を抜かされたその時から、私はター坊の事を異性として意識し始めていた。

 一応は初恋の人になるのだろうか?しかし彼氏彼女の関係にならなくとも私達は常日頃から一緒にいるし、なんならもう並の夫婦よりも互いの事を思って合っている・・・・・はず。


 しかし今日。その関係性に亀裂が入った。

 この16年間現れなかった、ター坊に好意を寄せる人物の登場で・・・・

 失礼だが、幸いなことにター坊はあまりモテなかった。おそらく私が常にター坊にベッタリくっついていた事で、変な虫が寄り付かなかったのだ。男子はそういう事を気にせず私に告白されては玉砕されに来るが、女子はマーキング済みの男に迂闊に手を出さない。


 だからこそ油断していた。恋のライバルが現れることはないと高を括っていた。


 あの後、あの泥棒猫、心内姫子がター坊に思いを伝えた後。ター坊の心はうわの空だった。


 当然だろう、人生で初めて告白されたのだ。しかもかなり特殊なシチュエーションで。


 どうなるかな?ター坊は彼女を受け入れるかな?そして私は捨てられちゃうのかな?

 いや・・・優しいター坊の事だ。私を捨てるような事はしないだろう。しかし一緒にいられる 時間は減る。そしてもちろん私と彼が彼氏彼女になる事は無くなる・・・・


 そういえば『処女を殺す服』についてはどうなったんだろう?

 まあでもあれも私がター坊のセクシーな格好を見たかっただけだから、もし私が捨てられてたその時には見せてくれないだろう。あのエロ漫画だってキッカケを作るために頑張って見つけてきたのを、ター坊は気づかないだろうな。


 私はター坊で・・・その・・・処女を捨てられないんだろうな。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 あれから一週間経った。

 微妙に私とター坊の間に距離ができた。


 もしかしてあの泥棒猫にあまり私とくっつくなと言われたのかな?

 もう二日も放課後を一緒に過ごしてくれないし・・・・


 いやいやダメダメ。何を弱気になっている?


 まだあの泥棒猫とター坊がくっついたとは限らない。

 私にもまだチャンスはある。『押してダメなら引いてみろ』だが、まだ私は押してさえいない。


「ねえ、スメラギ君。太作どこ行ったか知らない?」

「おお、これはこれは寧々様。本日も麗しい。太作ならもう家に帰ったよ」

「そう。ありがとね!!」


 断られても良い。ター坊に思いを伝えよう。


 ター坊の家へと私は急いだ。しかし私の足は学校の敷地から出る前に止まることになる。


 なぜなら家に帰ったはずのター坊と心内姫子が一緒にいるところを私は目撃してしまったからだ。


 ーーーーーーーーーーーー


 ター坊と心内姫子の密会を目撃して、私は頭が真っ白になった。その足で家へと帰り、私はベッドに突っ伏す。


 ああ終わった。私の初恋は終わりました。


 16年も一緒にいたのに。3年も好きだったのに。どこぞの女に取られてしまいました・・・


 悔しいな・・・・寂しいな・・・胸が痛い。


 クローゼットの奥にしたっま箱に目がいく。実は中に入っているのは『童貞を殺すセーター』


 以前に深夜テンションで衝動買いして、そのまま封印したものだ。


 結局使わなかったな・・・・本当はター坊用に買ったんだけど・・・


 涙が溢れそうになったその時、インターホンが鳴り響く。


 宅配だろうか?今日は親がいないから出ないといけないが、ごめん今だけは一人になりたいの・・・・


 しかし何度もインナーホンは鳴る。しつこくしつこく。


 少し恐怖を覚えつつ、窓の外を確認すると、インターホンを鳴らしているのは他でもないター坊だった。


「ネー様ー!!開けてー!!」


 心よりも先に動いた身体がすぐに玄関を開けた。


「どうしたの?ター坊?」

「あれ?ネー様、泣いてる?」

「泣いてないよ。ター坊はもうここに来ない方が良いんじゃない?心内さんに誤解されるよ?

「誤解上等です。断ってきた!!」


 耳を疑った。もちろん。嬉しい意味で。


「断ったって?あんた?え!?」


 ター坊は家の中へと入ってくる。そして3年前に私を射止めたその無邪気な笑顔で近づいてくる。


「ネー様・・・いや、官能寧々さん!大好きです!付き合ってください!!」

「ええー!!??」


 色々と理解が追いつかないけど・・・今、ター坊、私の事を好きって言った?付き合ってって言った!?


「あれから色々考えたんだ・・・心内に告られた後。そしたらなんかさ・・・全然想像できないんだ。心内と一緒にいる未来。でもさ!!ネー様と一緒にいる未来は簡単に、当然に想像できたんだ。でさ!気づいたんだ。あ〜俺、ネー様の事好きなんだって・・・」

「・・・・そうなんだ・・・・」

「だから付き合って下さい!!」

「・・・・・はい。というか私も好き・・・」

「ホント?!!よっしゃああああ!!」


 恥ずかしげもなく、ター坊は、私の彼氏が雄叫びをあげる。

 私も叫びたいの必死に抑えて、彼に抱きついた。


「はは・・・なんか変な感じだな・・・今まではただのお姉ちゃんみたいに思ってたのに・・・」

「変わらないよ。付き合ってもやる事は。ずっと一緒にいる、それだけ」

「いや・・・・それともう一つ・・・」


 太作はおもむろに上着を脱ぐ。


 中はなんの変哲もない制服の白いシャツ。しかし上二つのボタンは取られ、鎖骨と胸元をチラリと見せる。さらにシャツ黒い長ズボンから無造作に飛び出し、一番下のシャツのボタンも開いているので太作の割れた腹筋がチラチラと見える。


「どう・・・エロい?」

「どエロイ」

「色々考えたけど・・・・この普段着てる制服がはだけた感じ?で勝負してました


 これが太作の考えた『処女を殺す服』なのだろう。いや『私の処女を殺す服』だ。

 そうだ。私もあれを着てあげよう。大好きな彼のために・・・・


 すぐに自分の部屋へと上がり、私はクローゼットに押し込まれた箱を取り出した。まるで蝶が飛び出すように、箱の中から幸せの香りが私を包む。そしてその服に身を包む。


 背中と胸横を大きく露出させたホルターネックのセーター。それをあえて下着もつけずに着用する。肌を包むものはないというのに、なんだか暖かかった。


「どう・・・かな・・・?」

「どエロい!!そんで・・・綺麗だよ。寧々」


 太作を部屋へと招き入れる。そういえば太作が私の部屋に入るのは3年ぶりくらいかな?


 ベッドを整え、カーテンを閉め、照明を消して、部屋の鍵を閉めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の処女を殺してくれ!! Shutin @shutaiwa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ