第二章  十



 黒木と杉村が、それぞれ運転する車を道路の路肩に停め、二台の車から数名が降りて、町の人達に神社の場所を聞く事にする。


 土曜日のわりには、道路を行き交う車は少なく、町の中を歩く人も少い。


 黒木達は見かけた人達に神社の場所を聞くが、「知らない」や「神社はあるらしいが、細かい場所は分からない」と言った返答ばかりだった。

 

 しばらく聞き込みをしていたが、収獲しゅうかくは、確かに神社はあると言う事だった。だが、詳細な場所が分からない。


 聞き込みをしていた数名が、路肩に停めた車に戻り、車を走らせ別の場所へと移動する。

 黒木が運転する車の助手席に座るアキナが

「コンビニがあるわね。寄りたいわ」

 と黒木に言うと、後部座席に座る美咲やユキも同意見だった。それにコンビニの店員なら神社の事を何か知っているかも知れない。

 黒木は、左にウィンカーをだしコンビニの駐車場に入ると、後ろを走っていた杉村が運転する車もコンビニの駐車場に入る。

 駐車場には、黒木と杉村の二台の車だけが停まっていた。

 全員が、車から降りコンビニに入る。皆が飲み物や食べ物を選んでいるあいだに、黒木が店員に神社の事を聞いているが、どうやら店員も神社の詳細な場所を知らないようだった。

 

 美咲とユキそして黒木達が、買い物や手洗いを済ませコンビニを出ると、さっきまで誰も居なかった駐車場のしに、高校生らしき制服を着た男子が三人地面に座っていた。

 黒木が三人の高校生に歩み寄ると、美咲も黒木のあとに続いた。

 黒木が、高校生に話しかける。


「キミ達。いきなりですまないが、聞きたい事があるんだがね」


 と、黒木が質問をしようとすると

「巫女の悪霊ですか?」

 高校生の一人が、いきなり質問もされてないのに聞き返して来た。

 黒木も後ろにいる美咲もギョッとした。

 神社の場所を聞こうとしたのに、その一人の高校生は、突然『巫女の悪霊』を口にしたのだ。


「それってアレじゃねぇ、邪眼の巫女の事じゃん?」

 

 違う高校生が、またしても黒木と美咲を驚かせた。

 確かに聞きたい事は、神社は元より邪眼の巫女だが。

 黒木は、神社の場所も邪眼の巫女の事も質問していない。

 なのに、この高校生達は、まるで質問される事を知っているかの様に話し出している。

 

 理解ができないで不思議に感じていると、黒木が

 「キミ達、邪眼の巫女の話しを知っているのかね?」


 高校生達が、今度は黒木の質問に答えるように


「姿を見ても大丈夫らしいけど、ただ目を合わせたら呪われるって話だよな」


「いや、姿を見ても呪われるんじゃなかったっけ」


 高校生達が淡々たんたんと話す。


 黒木は高校生達の話を興味深く聞いているが、後ろにいる美咲は、何故この高校生達は聞いてもいない邪眼の巫女の事を口にしたのか、不思議に、そして不気味に感じていた。

 もしかして自分達の様に、邪眼の巫女が出る神社を目的とした人達に何度も聞かれているために、直感的に『巫女の悪霊』と先に答えたのだろうか? そうとしか思えない······。


 黒木が高校生達に聞く


「邪眼の巫女の噂は、やはりあるのだね。その巫女の出る神社を探しているのだが、何処か分かるだろうか?」


 すると一人の高校生が地面から立ち上がり、コンビニから田園地帯の先にある山々の一つの山に指を差した。


 「あの山の参道を登れば、すぐに神社がありますよ」


 黒木と美咲が、高校生が指を差した山の方向を見る。

「うむ。良し、分かった。ありがとうキミ達、助かったよ」

 と、黒木が礼を言うと振り返り車に向かう。


 美咲は、やはり不思議に感じ高校生達に

「ねぇ、あの······どうして······」


 立ち上がり山を指差した高校生は、また地面に座った。そして、三人の高校生はお互いに向かい合っているが、何も話さないで黙っている。

 しかも、何だか目の焦点が合っていない、美咲は自分の背筋が冷たくなるのを感じた。


「美咲! 何してるの? みんな車に乗って待ってるよ」

 

 ユキが後ろから美咲に話しかけた。


「あ······うん。分かった、今行く」

 

 美咲は振り返り、ユキと車へと向かう。


 黒木の車の後部座席に乗り、窓から駐車場の端を見る美咲、三人の高校生達が地面に座っている····。

 そして、車が走り始めた。


 田園地帯に出来た道路を、二台の車が山に向かって行く。

 やがて、山の参道が見えて来た。

 参道の入口の前に駐車場らしき広場があり、車が一台停まっていた。


「先客かな?」

黒木が呟いた。


 黒木と杉村が運転する車が広場に並んで停まり、全員が車から降りる。


「おい! コレ高級車じゃねぇ?」

 杉村が、先に停まっていた一台の車を指でさしている。

「フェラーリじゃないか?」

 森山が、腕を組みながら高級車をマジマジと眺めていた。


「ここの駐車場に停めているのなら、神社に行ったのかしら?」

 アキナがそう言うと

「じゃあ、悪霊が出るんじゃなくて、本当にパワースポットなんじゃ」

 江古田が眼鏡を指で押し上げながら唾を飲んだ。


「とにかく、我々も参道を上がり、神社に向かおうではないか」

 と、黒木が片手で髪をかき上げながら言った。


 日は少し傾いていた。


 黒木を先頭に美咲達七名が参道を歩いていく、黒木が、一眼レフカメラを持ち、江古田と杉村がハンディカムカメラを、それぞれ持っていた。

 美咲、ユキ、アキナは、一応懐中電灯を持っている。

 参道は、思いのほか綺麗だった。左右に雑草が生えているが切り揃えらており、ジャリ道が続く。


 断崖絶壁の様な場所ではなく落石の危険も無さそうだ。何故、名前のない神社なのか?


 美咲達七名が参道をしばらく進んで上がって行くと、前から二人の男女が参道を下りて歩いてきた。









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