第二章 七
木曜日の午後。
大学内のグラウンドやサークル棟が、同好会や研究会で騒がしくなる。
サークル棟の入口前で、早岸桃華が二つに縛った長い髪を揺らして
「青柳さん、一条さん、ここでしゅ」
と、両手を振っていた。
美咲とユキは、桃華のもとに歩み寄り
「桃華ちゃん、今日はありがとう、よろしくね」
ユキが笑顔で言うと、美咲も続いて
「早岸さん、よろしくお願いします」
一学年低い桃華に頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いしましゅ」
あどけない笑顔で桃華が答えた。
「オカルト研究会は棟の四階でしゅ。メンバーの皆には、昨日話しているので、さっそく行きましょうでしゅ」
美咲、ユキ、桃華の三人は、サークル棟の入口に入り、オカルト研究会がある四階まで上がっていった。
美咲とユキの友達である花江は、興味が無いらしく講義が終わったら、さっさと大学を出て家に帰って行った。
サークル棟の四階の一室の前に、美咲達三人が立ち、桃華がオカルト研究会の部室の扉を開いて
「こちらへどうぞでしゅ」
美咲とユキを招き入れる。
二人が部室に入ると、室内に居た五人の顔が、美咲とユキに向いた。
部室の真ん中に四角いテーブルがあり、四人がテーブルを囲む様に椅子に座っており、そのテーブルの前にあるホワイトボードを背にした机の椅子に一人が座っていた。
「こちらが、昨日言っていた青柳ユキさんと一条美咲でしゅ」
桃華が、二人を皆に紹介する。
ホワイトボードの前にある机の椅子に座っていた部長の黒木が、椅子から立ち上がり
「やあやあ、良くいらしたね、それで相談があると言うのは····」
と、黒木が真ん中に分けた髪を片手でかき上げながら、二人の顔を
「私です。一条美咲です。よろしくお願いします」
美咲が、一歩前に出て頭を下げる。
「うんうん、キミが美咲さんだね、こちらこそよろしく」
黒田が、また髪をかきあげながら挨拶をした。
「アタシは美咲のマブダチでーす。青柳ユキでーす」
と、ユキが軽快に自己紹介をする。
「俺は部長の黒木優である。改めてよろしく。一条さん、青柳さん」
黒木が笑顔で白い歯を見せる。
テーブルの椅子に座っていた四人の内の二人が立ち上がり。
「江古田です」
黒縁メガネを指で押し上げ挨拶すると、続いて「俺は、三年の杉村英紀、よろしく」
少し茶色に染めたサラサラの髪の杉村が、片手を上げて挨拶をした。
椅子に座って本を閉じて椅子に座りながら
「副部長の友近アキナよ。よろしく」
アキナが無表情で言うと、その横に座っている短い髪をジェルかスプレーで立たせた男性が
「森山純介。二年だよろしく」
森山は椅子に浅く座り、腕を組みながら挨拶をした。
それぞれ全員が挨拶をし終えると、黒木が
「御二人に椅子を用意してくれたまえ」
江古田と桃華が、部室の後にある二つのパイプ椅子を持って来て四角いテーブルの隣に置き、桃華が「どうぞでしゅ。お座り下さいでしゅ」
美咲とユキをパイプ椅子に通す。
二人が椅子に座ると美咲もユキもホワイトボードを見た。
黒や赤のマーカーペンで、トンネルの霊やら廃墟の子供の霊やら凶の家と心霊スポット
『邪眼の巫女』
と、黒いマーカーペンで書かれていた文字だった。
黒木が美咲に
「一条美咲さん。早岸桃華さんの話によると邪眼の巫女の件で、我々オカルト研究会に相談があると言う事だが」
「はい、そうです」
美咲が答えると、黒木が髪をかきあげ
「うむ、だが我々は邪眼の巫女に関しては調べ始めた所で、まだ解っていない事が多いんだ。昨日、少し調べたんだが、場所は茨城県の津原市にある名前のない神社や、邪眼の巫女の目を見たら呪われる、とか位かな」
黒木が話を終えるとユキが
「だったら、美咲の方が情報持ってますよ」
と話すとユキが美咲を見て
「美咲、知ってる事を話して見たら、この人達に協力をお願いしに来たんだからさ」
黒木が、髪をかきあげ
「一条美咲さん、邪眼の巫女に関して何か情報があるのかね。なら是非話をして頂きたい」
黒木が言い終えると、美咲が
「はい、解りました。私の知っている事を話します。オカルト研究会の皆さんに協力をお願いしたいので」
オカルト研究会の全員が美咲を見た。
美咲が知っている事を話す。
翔宏寺の住職が自分の父親だと言う事や、邪眼の巫女に呪われたらしい人達を御祓いした事、その後に父親が、その神社に行ってから様子がおかしくなった事、生前に邪眼の巫女、そして清流眼の一族に関して調べてノートに書き残していた事。
今、現時点で解っている事や知っている事を全て話した。
オカルト研究会のメンバーは、美咲の話しを真剣に聞いていた。
これ位ですと、美咲が言い終えると、黒木が何度も頷き
「そうか、なるほど実に興味深い。一条美咲さんの御父上が、お亡くなりになったのは実に残念だ。だが、色々と情報を残してくれた。ノートを直に見たいものだが、その内容は一条美咲さんが大体の部分を話してくれたろうしな。色々な情報をありがとう一条美咲さん」
黒木が、片手で髪をかきあげながら美咲に礼を言う。
副部長のアキナが口を開いた
「翔宏寺の住職は確かに一条だったわね。
さっきまで興味無さそうな顔をしていたが、美咲の話しを聞いて好奇心がくすぐられたのか、興味深くアキナは美咲の顔を見ている。
「ええ、私には霊感と言うものはありませんが、父はかなりの霊能力者だった様です」
美咲はアキナに答えた。
江古田がメガネを指で押し上げながら
「しかし、新しい情報が入って来ましたね。せいりゅうがんの一族、邪眼の巫女に唯一対抗できる能力を持つとか」
黒木が美咲に
「所で、せいりゅうがんの一族の、せいりゅうがんとは漢字でどう書くかは知っているのかね?」
「はい」
美咲は、パイプ椅子から立ち、黒木から黒いマーカーペンを受け取りホワイトボードに書いた。
『清流眼』
その文字を見た杉村がパソコンを開いて
「清流眼か。新しいキーワードだな」
パソコンのキーボードを打ち『清流眼の一族』を調べ始める。
江古田も自分の前にあるパソコンを開いてキーボードを打ち始めた。
美咲がパイプ椅子に戻り座ると、黒木が今更ながら、美咲とユキに
「コーヒーか紅茶でも飲むかね?」
と、聞いてきたが、美咲もユキも遠慮した。
アキナが美咲に
「貴方の父親、翔宏寺の住職は、さっきの話しで聞いたけど死因は心臓発作だったのよね」
美咲はアキナの問いに、そうです、と答えた。
アキナは首を傾げてから
「邪眼の巫女との因果関係があるとは言い切れないけど、その神社に行ってから、住職の様子が、おかしくなって邪眼の巫女に執着したと言うのなら·····貴方の父親は、神社で巫女の霊を見た可能性は高いわね」
アキナの意見に、美咲はハイともイイエとも言えなかった。
こうやってオカルト研究会に相談に来た美咲自体邪眼の巫女の存在に対して、半信半疑だからだった。
常識的に考えて有り得ないと思う反面、いや、でも父親の事を考えると····美咲の心は葛藤していた。
だが、オカルト研究会とは言え、自分の話しを真剣に聞いてくれている人達が居ると言う事に美咲は心強いものに似た感情が心に芽生えていた。
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