第二章  六



 水曜日の午後九時過ぎ、美咲とユキは、同じ飲食店のバイトを終え繁華街を歩いて帰路についていた。


「あー疲れたなぁ、夕方って客入り多いよね」


ユキが歩きながら両手を上げて背伸びをして言った。


「だね、でもお客が来ないと、お店が潰れちゃうから、そうなると私達も困っちゃうしね」

 美咲が苦笑する。


 夜空には月が浮かんでいた。


 美咲が月を見上げているとユキが


「明日、オカルト研究会に行くんでしょ? 桃華ちゃんが部長に美咲が研究会に相談に行くって伝えてくれてるだろうから」 


 美咲が、うん、と頷く


「でもさ、珍しいよね、美咲がオカルトに関して相談なんてさ、まぁオカルト研究会に相談をすすめたのはアタシだけど。アタシは好きだけどねオカルトはさ、実際、他の人達と心霊スポットに行ってるから」

 ユキが笑顔で言った。


 美咲は、幽霊を見たことが無いし感じた事も無い、翔宏寺で住職をしていた父は霊感があったようだけど、美咲には霊感が全く無かった。

 だからユキみたいにオカルト好きにはなれなかったし、心霊スポットにも興味が無かった。

 だけど、ユキのオカルト好きで心霊スポットに興味がある気持ちは解らない訳では無かった。

 大抵の人達の特に若い人達は、怖いもの満たさで心霊モノのテレビ番組を見たり、心霊スポットに行きたくなるのは、好奇心によるものだろうと。


 だが、美咲は小学生の頃から父に、心霊スポットは遊び半分で行く場所ではない、ほとんどは大丈夫だろうが稀に本当に危険な場所が在ると言われていた。

 その為か、高校生時代には友達に肝試しに誘われても一度も行く事は無かった。

 だが、今回は何故かいつもと違っていた。

 きっと父の事が合ったからだろう、父が神社に行ってから様子がおかしくなった事、そして父が残したノートに書かれていた事。


『邪眼の巫女』 


 何故か、父の死に関係しているような気がした。それは、危険であるかもしれない。

 だが、美咲は父が大好きだった。強く優しく家族想い。

 そんな父が亡くなり、それからしばらくして父の夢を見る様になった。

 何処かの鳥居の入口で、真剣な顔をして手招きをしている。

 何かを伝えたい様に感じられた。


 ただの夢だが、連日の様に夢に見る。

 美咲は、その鳥居の先に何かあるような気がしてならなかった。何か父のメッセージがあるのかも、と。

 そして、その鳥居の先には、父が行った名前のない神社が在るのではないかと。

 

 ひょっとしたら、もしかして自分にも気付かないだけで霊感があるのかもと思い始めていた。

 実際、兄や母には霊感は無いが、だが妹は違った。妹は前まで······。

 そう思っていた時

「美咲」

 と、ユキに声をかけられた。


「美咲、何かすんごい真剣な顔してたよ、大丈夫?」


 美咲は、少し引きつった笑顔を見せて


「大丈夫だよ、そんな真剣な顔してた? ごめんごめん」

 と答えてから、美咲は、ふとユキに疑問を持った。

「ユキはさ、オカルト好きなんでしょ? だったら何でオカルト研究会に入らないの? 研究会の人達と話が合うんじゃないのかなぁ?」


 美咲がユキに聞くと、ユキが肩まで伸びた髪を手で撫でて

「うーん、オカルト好きでも研究会には興味がないかなぁ、色々面倒くさそう。それにバイトしてるし」

「色々面倒って?」

「いや、何となく面倒、みたいな」

「ふーん」


 いつも通りの会話に戻り、二人は繁華街を抜けて住宅街を歩いて行く。


「ねぇ、美咲」

 ユキが前を見ながら美咲に声をかけた

「ん、何?」

 美咲がユキの横顔を見る。


「明日、オカルト研究会にアタシも一緒に行くからね。美咲だけでは心配だし、桃華ちゃんに頼んだのはアタシだしさ、美咲と一緒に行く」


 ユキが美咲に、そう言うと


「ユキなら、そう言ってくれると思ってたよ、オカルト研究会に一緒に行ってくれるって、ね」


 美咲は笑顔で言った。








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