第一章 八
携帯の前で山倉の連絡を待つ光村。
日が暮れてきた、タバコに火を着け煙を吸い込む、肺が煙に汚され脳と身体がニコチンの欲求に満たされる。
「麻理恵の誕生日は、3日後だなぁ、プレゼント買わないと、食事をするのに良いレストランを探さないとな····」
光村は麻理恵に連絡をとろうとしたが、この時間は、まだ仕事だな、俺は今日は早退してきたからなぁ、会いたい麻理恵。
その時、光村の携帯が鳴った、即座に携帯に出る光村。
「山倉か? どうだった? 連絡は取れたか? 今から寺に行けないか?」
『光村さん····それが····』
「何だよ? 留守だったのか?」
『いえ、連絡は取れました····』
「だったらすぐにでも寺に行こう!」
そうだ、清流眼の一族やあの言葉の意味を知っているかも知れない、すぐに翔宏寺の住職の霊能者に会いたい、光村がそう思っていると。
『亡くなったそうです····』
「え? 何だって山倉?」
山倉は深く沈んだ口調で話を続けた。
『あの住職は亡くなったそうです····。一ヶ月ほど前に』
光村は耳を疑った。
あの住職が、亡くなっただと····。
山倉が話しを続ける。
『しかも····』
そして間を少しあけ山倉が言った。
『邪眼の巫女を調べていたらしいです····』
光村は、その山倉の言葉で悟った。
あ···ああ···まさか、あのホームページに書き込んでいたのは····まさか···そんな、そんな····。
完全に光村の心は暗闇に染まった····。
·······
『隆俊? 今、仕事が終わった所だよ』
「お疲れさん····なぁ麻理恵」
『なぁに、何か元気ないね、大丈夫?』
「ん···ああ、大丈夫だよ、なぁ麻理恵、今から会えないか?」
『うん、じゃあ今から隆俊のマンションに向かうね、何か欲しいものある?』
「いや、ないな、待ってるよ····会いたい麻理恵」
『ぷふっ、何? いきなり何か変だよ』
「いや別に、待ってるよ、気を付けてな····」
そう麻理恵に言うと携帯を切った。
麻理恵に会おう、麻理恵と話しをして邪眼の巫女の事なんか忘れよう····。
霊なんて信じない、信じない。
全て悪い事が重なっただけだ、あの留守電もネットのホームページも翔宏寺の住職も····
「高田·····」
だけど、高田が···いや、麻理恵、麻理恵に会おう!
「そうさ、そうだ! いない! 邪眼の巫女なんて存在しない!」
光村は自分に言い聞かす。
きっと高田は何かを思い詰めていたんだ、俺の
解らない所で何かを悩んでいたんだ、だから自暴自棄になってあんな事を、そうさ! 絶対そうだ!
光村は無理にでも、そう思うようにした。
光村は開き直った。
「笑かす、何を俺は真剣に悩んでいたんだ、存在なんかしない悪霊なんかのために!」
光村は一人で笑い始めた、その時、光村の携帯が鳴った。
山倉からだったが光村は無視した。
「山倉だ····あの野郎がアオッたんだ! ムカつくぜ! 勝手に怯えてろ」
携帯が鳴り終わると、今度は光村の自宅の電話が鳴った。
電話番号を見てみると山倉からだった。
「この野郎、仕方ねぇなぁ」
光村は受話器を取り耳に当てる
『光村さん! 良かった、携帯に出ないから心配しました』
「そいつは悪い事したな、なぁ山倉、やっぱりさ巫女の悪霊なんて存在しねぇよ、考えすぎだ」
『だけど高田が、翔宏寺の住職だって邪眼の巫女を調べていて····』
「うるせぇ! 高田は何か悩んでいたんだ、俺達が気付いてなかっただけだ! 翔宏寺の住職も偶然に邪眼の巫女を調べていただけだ! いない、いる訳がない、悪霊なんかいる訳がねぇ!」
『ヒドイヨ····ミツムラ····サン』
光村は一瞬息が詰まった、そして「た····高田?え····高田、どうしてお前が、今は警察署にいるはず····な、なんで····」
『ミツムラサン···ムダ···ムダダヨ····ダレモ···アノ···メ···カラ····ニゲラレ····ナイ』
光村の心臓の鼓動が激しくなり、背筋に冷たい汗が流れる。
「う····うう····お、お前が出したネタだろ···」
光村が震えた声で言うと。
バチッ!
光村の部屋の電気が消えた。
光村の周りが真っ暗になる。
まだ街の灯火で、ある程度明るいはずだが光村の目には闇しかうつらない。
「な···何だよ?停電か?」
『光村さん! 光村さん!』
山倉の声が聴こえた。
「山倉、山倉、何か停電で、それと高田の声が聞こえて来たんだ!」
『高田なら隣にいますよ』
「え?何言ってんだよ、山倉」
『高田と巫女さんが····となりに····いま···いまいまいまいまいまいまいまいまいまいまいま』
「ふ、ふざけんな····山倉····」
『ミラズニシテ····ミルベシ』
光村は電話を切った、恐怖からか身体が震えている。
すると、暗闇にいる光村の耳に奇妙な音が聞こえてきた。
スッスッ····
光村の呼吸が荒くなる。
スッ···スッ···スッ···
すぐ後ろまで音がきた、その時、部屋の電気がつき、周りが明るくなった。と同時に光村の背後から「ミラズニシテ···ミルベシ」
女の声に光村が後ろに振り向くと、髪がダラリと垂れ下がった女····。
そして髪の隙間から見える女の両目には、両目の中には小さな眼球が蠢いている。
キョロキョロキョロキョロ·····と。
「あああああああ!!!」
光村は全身総毛立ちながら絶叫した!
········
ハッとし光村が目覚めた。
どうやら安物のソファーの上で、いつの間にか眠っていたらしい。
「ふぅふぅふぅ····」
光村の呼吸は荒く心臓は激しく鼓動をうっていた。
部屋の中は、すっかり暗くなっている、光村は額から垂れる汗を拭い、ソファーから立ち上がり部屋の電気を着けた。
部屋が明るくなる。
「ハァーハァー、夢かよ冗談じゃない····」
その時、インターホンが鳴った、麻理恵、麻理恵か!
光村は玄関のドアへと急ぐ。
ドアの覗き穴を見ると麻理恵が居た、ドアを開ける光村。
麻理恵が立っていた。
「麻理恵····」
光村は安堵し涙が出そうになった。
麻理恵が光村に語りかける。
「どうしたの? 汗が凄いよ、何かあったの?」
麻理恵の言葉に光村が笑顔を作り
「アハハ、いや別に何もないさ、さぁ中に」
光村が麻理恵の手を握り部屋へと振り返る。
「え···な、なんだ?」
光村の目の前には自分の部屋ではなく、あの神社が····。
あたりは暗く、木々が風で不気味な音をかなでている。
「何だよ···これは、そんな、この場所は····」
光村は麻理恵の手を握っている。
その手が異様に冷たい。
「麻理恵····?」
ゆっくりと麻理恵に振り返る。
光村の目に麻理恵でない女の顔が···目が····
「うああああああああ!!!」
光村の絶叫が闇の夜空に吸い込まれていった·····。
·······
「面会は残念ながら無理ですね····とてもそういう状態ではないので····」
窓口で看護師に面会を拒否される。
「そうですか····分かりました·····。」
麻理恵は、光村に会えずに精神病院を後にした····。
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