「日本の原風景」

ヤマシタ アキヒロ

第1話

  「日本の原風景」



  一


本日は絵ハガキの撮影

はるばる裏日本までやって来た


タイトルは「日本の原風景」

ありがちな定番モノだ


スタッフもやる気マンマン

「さあ始めるぞ」


観光客に

脇の方へどいてもらい

少しだけ静かにしてもらい


電線が写らないか

角度を限定し


藁葺き屋根の

乱れを整え


枯れ木や雑草は

きれいに掃除し


群がる虫を追い払い

水車小屋を水で潤し


光を増幅するための

集光パネルをかかげる


抜けるような

青空を待ち


形のよい

浮雲を待ち


自然に化粧をほどこし

自然らしく見せる


草いきれや

堆肥の匂いまでは

消せないけれど……


午後の日差しが

いい感じに陰りはじめる


なかなかのカメラ写りだ


よし これでやっと

「日本の原風景」の出来上がり


さあ 動かないで

そのまま そのまま


はい いきますよ

パシャリ!


うん これなら

心が癒される


みなさん

ご協力ありがとうございました



  二


「これだ、これ、これ。

 これ買おう」


みやげ物屋では

若い二人の観光客が


一枚の絵ハガキを手に取り

ご満悦の表情である


これぞ「日本の原風景」―――


表へ出て

撮影された場所と

同じ角度から

藁葺き屋根をふり返る


絵ハガキを手にかざし

実際の風景と見比べる


「やっぱり癒されるね」

「来てよかったね」


二人はふり向きもせず

本日は曇り空の

観光地をあとにする


駐車場脇にはレストランがあった


ショーケースの前にたたずみ

「おなか減ったね」

「なんか食べよっか」


二人は中へ入っていった


白いテーブルに運ばれて来たのは

焼き魚定食とナポリタン


「なんか写真とちがうね」

「実物は小さいね」


二人は笑いながら

それぞれのお皿に手を伸ばす


大きな窓の外では

カラスがけたたましく鳴いている


「日本の原風景」に

ようやく日差しが戻ってきた


             (了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「日本の原風景」 ヤマシタ アキヒロ @09063499480

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ