「1‐3」無能、勇者になる

 何と父さんは、滅多に行かない城下町に向かった。

 俺も何度か街を見た事はあるが、やはりこのココカラ王国の街並みは美しかった。最も、それを素直に楽しめるだけの余裕は、俺には無かったが。


「お前に会わせたい人は、王宮にいる。安心しろ、お前が帰ってきたら……会わせる手はずになっている」


 父さんの言う通り、王宮へ顔パスで入る事ができた。街並みよりもさらに美しい王宮内を舐め回すように眺めながら、俺は同時に懐かしんでもいた。アーサー達との旅は、ここから始まっていた……あの時から、俺はお荷物だったのだろうか。


 遂に俺は、王の間へと続く巨大な門へと辿り着いた。


「ここで待ってるから、会いに行ってこい」

「なぁ、こんなところで誰が待っているんだ?」

「……勇者様たちだ」


 息が詰まった。なんだよ、そういう事かよ……。みんながみんなして、俺の無能を証明しようとしている。恐らく、この先で待っているアイツらは、自分達がした偉業に酔いしれながら、無能だった俺を嘲笑うその時を待っているのだろう。


(……認めよう、俺は、お荷物だった)


 門が開かれ、俺の視界は一瞬まばゆい光に遮られた。眩しい……眩しいが、そこに三人の人影と、奥に君臨する王が居た。――歩いて、歩いて、王の目の前で、俺は膝をついて頭を垂れた。


「……陛下」

「面を上げよ」


 はっ。有終の美を脳裏に浮かべながら、俺は、俺を見下ろす三人を目視した。


 そこには、あの三人にそっくりな石像が配置されていた。



 ◇



 輪郭も、背丈も、何もかもがあいつらと同じだった。

 何よりポーズや、表情の作りが異常なほどに精密だった。石像から感じるこれは……生気だった、生き物が放つ、気配と言われるような物だった。


「これは、一体……」

「――お主の目の前の石像は、勇者アーサーの成れの果て」


 えっ。俺は、声を上げて王を見上げた。


「その右は大魔法使いマーリン、反対には不屈の戦士フロスト。三人とも、お主の元同僚……そうじゃな?」

「何を、言って」

「魔王ゴルゴーンは打ち倒された。しかし、代償としてこやつらは石になった。……魔王の呪いじゃ、こやつらは未来永劫、このまま石として一生を終えるじゃろう」

「何を言っているのか、分かりません! どういう事ですか……何が言いたいんですか!」


 衛兵のうち数人が剣に手を伸ばすが、王がそれを制止した。王は困惑する俺をじっくりと見つめ、俺は、地面に頭を付けて謝罪した。


「ゴルゴーンを殺した人間は、例外なく石になる」

「……え?」

「途中参加のお主には言ってなかったが、この三人はそれを知っておった。自分たちが成す偉業は、自分達の未来を奪うものだという事を。――それを、お主に背負わせるのを、躊躇った。だからお主は、今も尚息を吸い、吐いて、また吸う事ができているのじゃ」

「――俺は」


 助けられた、という事になる。でもそれじゃあ、何で……なんであんなことを。何も、あんな別れ方しなくてもよかったじゃないか。――思考してから、すぐに気づいた。


(俺は、そんなこと言われたら、余計に引き下がらない)


 あいつらは、それを分かっていた。だから、僕を突き放すように口裏を合わせて……俺をパーティから追放した。呪いを受けないように、何も知らないまま死なないように。


「……アーサー、マーリン、フロストさん……!」


 俺は、なんて愚かだったんだろうか。苦楽を共にした仲間たちを、信頼できないまま一か月を過ごした。本当は、彼らだって、言いたくなかったし死にたくなかったはずなのに!


「……お主を呼び出した理由は、三つある。一つは、この事実を伝えるため。二つ目は……これを渡すためじゃ」


 王自ら、足を運んできた。俺は頭を下げ、ただひたすらに心を落ち着かせていた……そして渡された。それは、アーサーが持っていた聖剣だった。


「そして三つ目。この世界に、新たな魔王、大魔王が現れた」

「……!」

「アーサーから伝言を預かっておる」


 王は自ら膝を折り、俺に目線を合わせて、ゆったりとした口調で言ってきた。


「……『背負うか背負わないかは、お前次第だ』」


 ――俺は、その言葉で覚悟が決まった。


「……戦います」


 やるしかない、継ぐしかない。


「俺、マーリンみたいに魔法は使えないし、フロストさんみたいに強くない……けど」


 だってそれが、無能ゆえに彼らを死なせてしまった俺の、唯一の贖罪なのだから。


「勇者アーサーのように、無謀な勇気と根性はあります!」


 こうして、俺は勇者の聖剣を受け継いだ。

 魔法も使えず、戦士としての力も弱く……無能という理由で彼らを死なせてしまった。

 しかし、僕には努力がある、勇気がある、根性がある! 凡人なら凡人なりの、やり方ってやつを見せてやる!








【作者より】

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