「1‐2」無能、里帰りする
それから一か月ほどで、俺は自分の街に戻って来る事ができた。
体中が鉛のように重く、加えて目の下あたりがとても痛い……泣き続けていたからなのか、ぱさぱさになった頬を撫でると……白い塩のような粉が、指についていた。
――早く休もう。そう思いながら、俺は自分がかつて住んでいた実家へと足を運んだ。
二年前と変わらない道だった、人里離れた村だからか……建物の数自体が少なかった。しかし、今回は何故か様子が違いそうだった。人が、何だか異常に多い。
(なんだろう、嫌な予感がするな……)
アイツらが何か嫌がらせでも仕掛けたのだろうか? そう思うと、一旦は覚めていた怒りが再び燃え上がってきた気がした。許せない、こんな感情を抱えたまま両親に顔を合わせるのは忍びないが、今回ばかりは甘えることにした。
人込みをかき分け、俺は母親と父親を見つけた。
「父さん、母さん!」
「……ガド?」
母親がこちらに気付く。二年ぶりだから、何を話そうか……いいや、あの出来事から話せる話題がほとんど消え失せてしまったのだが、まぁ何か……。――母親が、俺に抱き着いて来た。あろうことかそのまま泣き崩れた、縋りつくように。
「……え?」
いくら二年ぶりとはいえ、少しオーバーすぎる気がした。違和感を覚える俺に、父親は涙を拭いながら言ってきた。
「……よく、生きて帰って来た」
「ま、まぁね……みんな、どうしたの?」
困惑する俺の事を見て、父さんは不思議そうな顔をした。周囲のみんなも……まるで、俺だけが情報から取り残されている気がした。――これは、何かがあった。俺は、思い切って父さんに、何があったのかを尋ねた。
「……お前、知らないのか?」
若干の怒りも籠った聞き返しだった。みんなの視線が刺さって、俺はまるで、自分が悪い事をしたみたいで腹が立って仕方が無かった。
「知らないよ、何があったのさ」
「勇者ご一行が魔王ゴルゴーンを倒したんだよ」
――え?
「……どういうこと?」
「聞いた通りだ、勇者アーサーが率いるパーティが、魔王を打ち倒したんだ」
俺は、突き落とされたかのような気持ちになっていた。本当に、やってのけた。俺が抜けてからわずか一か月で? そんな、まさか……それじゃあ、本当に俺が無能みたいじゃないか!
「話はまだ終わってない!」
思わず肩が震える。
「……お前に見せたい物、いいや……会わせたい人たちが、いるんだ」
父さんは、そのまま俺に付いて来いと言った。訳が分からない、俺がパーティを抜けてから、何があったんだ? 俺は、自分が本当に無能だったのかもしれないという恐怖におびえながら、父さんの背を追った。
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