無能勇者

キリン

プロローグ──追放編──

「1‐1」無能、追放される

「ガド。今日でお前を、この勇者パーティから追放する」


 揺らめく焚火を囲みながら、俺たちは食事をとっていたはずだ。なのに何故、こんな事になってしまったのだろう……気づけば俺は、長年背中を預けて来た仲間たちにそう告げられていたのだ。


「ちょ……ちょっと待ってくれよアーサー! いきなりなんだよ、冗談にしても質が悪い! フロストさんも、なんか言ってくれよ!」

「俺も同意見だ。ガド、お前は余りにも、戦士としての実力が足りなすぎる」

「そんな、フロストさんまで!」


 俺は、少しずつ命綱が削られていくような気持ちに陥っていた。友だったはずのアーサーも、屈強で頼れるフロストさんも、俺の味方をしてくれない。俺は、救いを求める気持ちでマーリンの方を見た。


「……あなたは、自分が足を引っ張っている事を自覚した方が良い」

「――は?」

「貴方が死なないように、誰がいつも防御魔法や回復魔法をかけていると思ってるの? 私よ、私。貴方に回す魔力さえあれば、戦闘なんていつもすぐに終わるはずだったのに」


 マーリンは、躊躇しながらもそう言った。この言い方は、間違いなく貯め込んでいた人間の言い方だ。何かに対しての不満が、爆発して言葉に転じているという事は一目瞭然だった。

 言い淀んでいたフロストさんの口が、再び開いた。


「そもそも、パーティの四人中三人が前線要員だってことがおかしいんだ。人数合わせで入って来たくせに、俺やアーサーよりも前に出て……マーリンの苦労を考えた事があるのか?」

「それは、その……いや、でも!」

「――とにかく、お前は今日を以てこのパーティから追放する。もしもそれが嫌で、どうしてもここに居たいというのであれば……」


 アーサーはそのまま立ち上がり、腰の聖剣に手をかけた。あの剣も、マーリンの杖も、フロストさんの大剣だって……みんながみんな、俺が調べて、探していたはずなのに。――握りしめた拳が、開かなくなるんじゃないかと思うほど強く握られる。噛みしめた奥歯が、砕けてしまうんじゃないかと思うほど圧力がかかる。


「誰のおかげで、今まで」

「……失せろ。お前の、数少ない貢献へのせめてもの敬意だ」


 俺は、顔を上げて報いた。握りしめた拳をそのまま、勇者アーサーの顔面に叩き込む! 避けれもしない、挙句の果てに泣き始めた! こんな、こんな……こんなに情けない男に、世界は命運を託したのか⁉


「お前らなんて、こっちから願い下げだ! お前らなんか、そこら辺のスライムにでも殺されちまえばいいんだ!」


 最低限の荷物、最低限の金、最大限の怒りをバッグに詰め込み、俺はすぐにその場から去って行った。背を照らす焚火の光が、とても鬱陶しく思えた……一刻も早く、あの光から遠ざかってしまいたかった。


(強くなってやる……あいつらなんかよりも強くなって、真の勇者になってやる……!)


 来た道を、怒りのままに辿る。それは驚くほど長い物であり、これまで自分が、あいつらと共に歩んできた道の長さを物語っていた……涙が、溢れ出す。どうして? と思う自分が居れば。ふざけるな、という自分で埋め尽くす。


 未練なんて無い、あるはずがない……そんな矛盾に満ちた悲しみと怒り、燻る後悔に背を向けながら、俺はとにかく歩き続けた。


 

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