第2話
「う、うわぁああああああ!!」
絶叫しカマセは杖を前に突き出すと、大量の魔法陣が現れる。
魔法の多重発動。【ファイアボール】を何発も放った。
「お、俺たちもカマセに続こう!」
「そ、そうだな! アイナも頼む!」
「わ、わかったわ!」
煙幕に身を包む『ミノタウロス』に、水魔法、風魔法、雷魔法を彼らは放った。
全ての魔力を使い切った彼らは、苦悶の表情で膝を付いた。
「や、やったか……?」
「い、意外と大したことないな……。A級と言っても、所詮、魔物は魔物! 人間様……いや、魔導騎士を目指す俺らには敵わないんだよ……!」
子分の一人がそう言うと、カマセは倒せた、と安堵し元の荒っぽい口調へと戻った。
安堵したのは、他の彼らも一緒。
しかし―――
『ブォオオオオオオオオ!!!』
雄叫びが響き、ブワン! と音とともに煙幕が消えた。
そこには—――傷一つついていない『ミノタウロス』がいた。
その光景を目の当たりにした彼らは、腰を抜かし意気消沈。
逃げることもできなかった。
それを『ミノタウロス』は—――見逃さない。
大剣を構え直し、一直線に振り下ろそうとする。
―――怨敵である、カマセに向かって。
「く、来るなぁああああッ!! 嫌だ、嫌だッ!! 死にだくな゛いッ!!」
鼻水を垂れ流し、ぐちゃぐちゃの顔でカマセは泣き叫んだ。
しかし、『ミノタウロス』からすれば愉悦、ご褒美。
さらに昂らせるだけで、逆効果……止まらず、勢いは加速する。
だからボクが—――止める。
『ブオッ!?』
ボクはカマセを真っ二つにしようとした大剣を、素手で完封した。
皮肉にも人間らしいと言うべきか、『ミノタウロス』は目を見開いた。
ボクの手が切断されなかったのは、別に錆びて切れ味が悪くなっているからじゃない。
皮膚の硬さに刃が負けただけだ。
「さて、終わらせるか」
ボクは大剣を握って、その刃を破損させた。
そして『ミノタウロス』が怯んだ隙を突いて、跳躍して大きな頭へ上段蹴りを入れる。
吹っ飛んだ『ミノタウロス』は、岩壁に激突してぐったりと倒れ気絶した。
「う、嘘だろ……? あの、無能者が……『ミノタウロス』を一蹴……?」
「だ、だって『ミノタウロス』はA級モンスターだぞ!?あり得ない言って……」
「でも……実際にこうして倒してたわよ……」
「お前……一体、どんな卑怯なことしやがった……!」
そう言って、カマセはボクを睨みつけた。
カマセが疑うのも無理ない。
A級モンスター。
それは彼らが目指す、一般魔導騎士一人に匹敵する戦闘力を有する。
つまり、そんな怪物を一撃で倒した、と言うことは—――そこらの魔導騎士に匹敵し、さらには上位にいると言ってるようなものだ。
認められない、許さない。カマセの心情はざっと、こんなところだろう。
しかしカマセ……今ボクが成したことは紛れもなく―――現実だ。
「いや、蹴り入れただけだよ?」
まっ、そんなこと言うつもりはないけどね。
「ふざけるなッ!! ―――うっ……!」
「落ち着いて。キミ、相当魔力使ったんだから無理しないで。帰ろう」
◆
「はぁ……やっと終わった」
夕陽が窓に差し込む廊下で、ボクは一つ溜息を零した。
あれからボクたちは、無事にダンジョンを脱出した。
大変だった……けど、さっきの報告の方が大変だった。
みんなは酷く疲れ切っていて、まともに話せるのは特に体力を消費していないボクしかいない。
なのでボクが、全て教師に説明した。
―――ちょっとばっかし、嘘を入れさせてもらったけどね?
『上層』に現れた『ミノタウロス』に、ボクが逃げ回っていた所をカマセたちのパーティーに助けてもらった、と言う風に。
魔術学院では、ボクは魔力無しで有名。
仮に本当のことを話したとしても、きっと信じてはくれない。
だから、噓を吐いた。
それに成績優秀者であるカマセがいたから、『ミノタウロス』の撃退をすんなり受け入れてくれた。
しかし―――
「カマセのあの顔……相当怒ってるな……」
ボクが助けられた、と言った瞬間のカマセの顔は忘れなれない。
今までボクを睨みつけたどの目よりも、あの時の鋭さは尋常じゃない。
……明日が怖い。
「―――ハルくん!」
聞き馴染みのなる声が聞こえ、ボクは振り返った。
そこにはボクに駆け寄る―――ルーチェさんがいた。
「ルーチェさん? どうしたの?」
「はぁ……はぁ……ハルくんに……話したいことがあって」
話したいこと? と、ボクは首を傾げた。
お礼とかなら、さっき言われたけど……それとはまた別?
考えても分からずにいると、ルーチェさんは深呼吸をした。
そして—――
「ワタシと友達になってください!」
華奢な体を直角に曲げ、思いっ切り手を伸ばして握手を求めた。
その手は、プルプルと震えている。
本当にボクなんかと……友達になりたいんだ。
……嬉しい、生まれて初めてだ。
だけど、ボクは—――
「ごめんなさい……それはできない」
「助けてくれた姿がカッコイイってのもあるけど、前からずっと気になって……き、気になるって言っても、その気になるじゃ―――えっ!?」
丁寧に断りを入れると、ルーチェさんは早口で捲くし立て一人劇場。
それからボクの言ったことを理解して、予想外の行動に驚いていた。
「どうして!? ワタシのこと嫌いなの?」
「ううん。好きだよ、ルーチェさんのこと」
「す、好き~~~っ!! えへへ、そうなんだ……」
にんまりとした笑顔で、自分の頭を撫でるルーチェさん。
その姿を見て、ボクはルーチェさんからもらった優しさを思い出す。
ルーチェさんはみんながボクを見下してバカにする中、対等にボクと接してくれた。
挨拶してくれるし、ボクがカマセたちにイジメられる所を見かけたら、止めに入ってくれた。
優しい人なんだ、心が……温かい。
だからこそ―――ボクはそんな人と友達になってはいけない。
幸せになる資格は、ボクにはないんだ……。
「なら、ワタシが嫌いじゃないなら……どうして断るの?」
「それは—――」
魔力が無い、とみんな思っている。それは目の前の彼女もそうだ。
けど本当は魔力はある、魔法も使える。
でもボクは、決して使えない。
なぜなら、
「—――ボクには悪魔の血が流れているから」
ボクの本性が晒されるから。
頭部には『ミノタウロス』よりも鋭利で禍々しいツノ。
背中には漆黒の翼に、尻尾が現れた。神話に残る、悪魔の象徴。
それがボクの身に宿っている。
「悪魔の血……」
「半分だけだけどね……それでもルーチェさん、ボクと友達になれる?」
人間じゃない、このボクと。
ボクは自己嫌悪しながらも、何とか言い切った。
あぁ……我ながら何て意地悪なことを訊いてる。
けれど、そうするしかない……。
ボクみたいな邪魔な存在は、一人ぼっちがお似合いだ。
「なれるよ」
「………!?」
ルーチェさんは、真っ直ぐボクを見ていた。
そして理解してしまった。
―――本気でそう言ってる、と。
「ど、どうして? 悪魔だよ? 半分だとしても、ボクは人間じゃないボクと友達だなんて……怖いでしょ? ね、そうでしょ?」
柄にもなく、狼狽えてしまった。
ボクはどうにか、ルーチェさんを遠ざけたくて説得する。
しかし……静かに微笑みながらルーチェさんは首を横に振った。
「なれる、絶対なれる。だって、ハルくんは―――」
人間だよ、と言った。
ボクを見て、ボクの心を見透かして、そう言った。優しさがボクの身体に、心に侵入する。
ボクはその流れを止めたくて、拒絶する。
「違う……違うに決まってる! だって、ボクは……ボクは……!」
「じゃ、証拠見せてあげる」
頭を抱え嘆くボクを―――
「………!」
ルーチェさんはボクを抱き寄せた。
そして赤子をあやすように頭を撫で、語り掛ける。
「本当の悪魔だったら、ワタシたちのこと助けないし―――泣かないよ?」
耳元で言われて、やっと自覚した。
ボクの瞳が熱くなっていること、そして涙を流していること。
実に人間らしい、と不覚にもそう思ってしまった。
「ほら、何よりの証拠でしょ?」
ルーチェさんはウィンクした。
……いいのかな? こんなボクでも。
でも、ここまで言われてたら―――認めざるを得ない。
ボクは涙を袖で拭った。
「ルーチェさん……」
「うん……」
「―――どうしようもないボクだけど、友達になってください」
「もちろん! いいよ!」
こうしてボクは、生まれて初めての友達ができた。
―――のだが?
「実は気になってたんだよね……ハルくんのす・が・お!」
何か見たことないぐらい悪い顔をして、手をもみもみと揉みしだくような動きをするルーチェさん。
ボクは恐怖を感じ、引きずった顔になってしまう。
「る、ルーチェさん?」
「ワタシに見せなさーい!」
「ら、らめぇ~~~っ!!」
ボクの泣き声を無視し、ルーチェさんはツノとツノの間に手を入れ野暮ったいボクの髪をどかした。
次の瞬間―――
「え、えぇええええええええ!!!」
ルーチェさんの叫び声が渡り廊下に響き渡った。
~あとがき~
お試し投稿です。
好評だったら連載にしようと考えています。
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王国魔術学院の人外無能者~魔力無しと蔑まれてるボク、実は神聖魔法と暗黒魔法の最強魔術師。人ならざるボクは、実力隠しやめて無双する~ 大豆あずき。 @4771098_1342
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