王国魔術学院の人外無能者~魔力無しと蔑まれてるボク、実は神聖魔法と暗黒魔法の最強魔術師。人ならざるボクは、実力隠しやめて無双する~

大豆あずき。

第1話

「おい、お前ら聞いてくれ……。ルーチェを囮にして、この場を脱する。異論はあるか」


「無いよ! カマセの言う事はいつだって正しい!」


「それにこんな上層に『ミノタウロス』がいるなんて……おかしいよ!? 早く俺たちだけで逃げよう!!」


 大きな空洞に男女の視線の先にいるのは、巨大な大剣を肩で担ぎ、今か今かとヨダレを垂らし殺戮の快楽を得ようとする怪物。


 A級モンスター『ミノタウロス』。


 軽々と大剣を振り回せるほどの強靭な肉体に、頭部にある先の尖ったツノで相手に突進し、諸に喰らえば身体に穴ができるとされる。


 まさにA級に相応しい凶暴さ。


 赤髪でこのパーティーのリーダーを務めるカマセの指示に、子分の少年二人は即賛同した。


 しかし、犠牲にされそうになっている当の本人は—――


「ちょっ、ちょっと待って!? 酷いよ! どうしてそうなるの!? 何でワタシを囮にするの!?」


 当然、そんな役割など断固拒否。

 

 最悪、自分が死んでしまうかもしれない。誰だってやりたくないだろう。


「決まってるだろ? この中で一番、足手纏いだからだ。そうだろ? 親友さん?」


 カマセは悪い笑みを浮かべて、悲劇の少女ルーチェさんの親友である、アイナさんに同意を求める。


 ルーチェさんは縋るように、アイナさんを見つめた。


「お願い……アイナ。みんなを説得して……このままじゃワタシ……本当に死んじゃうよ……お願い……!」


 命乞いのようにルーチェさんが言うと、アイナさんは重く口を開いた。


「……私も、その方が良いと思うわ」


「アイ、ナ……?」


 希望の糸はバッサリと切られ、ルーチェさんは膝から崩れ落ちた。


 その顔に絶望が染まる。それだけ信じていた分、裏切られた反動が大きかったからだ。


 カマセとキーッと口角を上げて、醜悪な笑みを浮かべた。


「可哀そうだな! 俺たちに見捨てられるだけじゃなくて、親友にまで裏切られるなんてな! あー傑作だ! ……まぁでも—――」


 突然、カマセから表情が消える。


「このパーティーにお前じゃなくて—――だったら違ったかもな。ご愁傷様」


 行くぞ、お前たち、とカマセは振り返り、ルーチェさんを除いた4人は駆け足でこの場から離れる。


 最後尾のアイナさんは、泣きそうな表情でルーチェさんを横目で見た。


「ごめんなさい……ルーチェ」


 その声は、ルーチェさんに届いたか分からない。


 ただただ、仲間に捨てられ泣いている姿が目に焼き付いた。


「まさか……こんな場面に立ち会うとは思わなかったな……」


 ボクこと無能者のゴミクズ―――ハルは、岩陰に隠れて一部始終をバッチリと見てしまった。


 ワザとじゃない、ホント偶然に。


 ボクたちが通う、『アルケミス魔術学院』にはダンジョンが存在する。


 今日はそのダンジョンにて、比較的弱いモンスターしか生息しない『上層』で演習をしていた。


 ボクたち四年生が許されているのは、そこだけだ。


 しかし、カマセたちが遭遇したのは—――まさかの中層にいる『ミノタウロス』。


『上層』と『中層』では、全くの別世界。モンスターの強さが段違いだ。


 魔術学院でボクたちは、魔法での戦闘知識だけじゃなくて、モンスターの知識も当然、学んでいる。


 ……だからこそカマセは、囮を作って逃げることを選んだ。


 自分たちでは、『ミノタウロス』に勝てないと分かっているから。


 だとしても—――ボクは見過ごせない。


『ブォオオオオオオオオオオ!!!』


 雄叫びを上げ、『ミノタウロス』は大剣を下ろして引きずりながら、ゆっくりとルーチェさんに近づく。


 一歩一歩の足音が響くごとに、ルーチェさんは「ぁ…ぁ」と声を出すことも、逃げることもできずに涙を流し、怯え切っていた。


 それを彼女は、『死』と受け取ったのだろう。


 ボクは首に下げている、小さな宝石が埋め込まれたネックレスを見る。



「―――善行がボクの贖罪」



 そういつもの懺悔を呟いて、ルーチェさんの前に立った。


「は、ハルくん……!?」


「ど、どうして無能者がここにいんだよ!!」


 意外なボクの登場に、みんなが驚愕した。


「ここはボクに任せて。ルーチェさんは、早くカマセたちの所へ」


「だけど……! それじゃ、ハルくんが……」


「大丈夫、ボクなら何とかなるから」


 自他ともに認める無能者の説得。


 ルーチェさんから不安は消えなかった。


「大丈夫? 何とかなる? ブフッ、バカだろこのクソ無能者。絶対的な力の象徴である魔法の使えないお前が、英雄みたく窮地をひっくり返せると思ってるのか?」


 ボクは魔法が使えない。


 それが理由で、ボクはいつもカマセたちに練習と評して、魔法の的になったりとイジメられていた。


 おかしいもんね? 魔法が使えないのに、魔術学院にいるなんて。


 イジメるには十分な理由だ。


 カマセの嘲笑に子分二人も乗っかると、彼は最後にこう告げた。


「出来るわけがない。何もできないんだ、力無き無能者は。せいぜい魔物のエサになって、時間を稼ぐことぐらいだ。そしてそれは—――今、この時だ」


 指差すカマセの先には—――雄叫びを上げて、大剣を振り下ろそうとする『ミノタウロス』がいた。


 瞬間—――


 悲鳴を上げるルーチェさん。


 青褪めた顔で手で口元を覆うアイナさん。


 心底嬉しそうなカマセ。


 死にたくない、見たくない、早く見たい、色んな感情がこの空洞に入り混じる。


 だから、ボクは—――


「やめて」


 恐怖で塗り替える。


 ピタッと『ミノタウロス』は動きを止め、大剣はボクの首元寸前まで迫っていた。


 目の前のモンスターは、額から汗を浮かべ、瞳はゆらゆらと揺れている。


 ただボクは長い前髪の隙間から、『ミノタウロス』の赤い赤い丸い目を見つめただけなのに。


 ……やっぱりボクは、人間じゃないんだ。


 暗い気持ちを殺して、ボクはルーチェさんに手を差し伸べる。


「ほら、何とかなったでしょ?」


「えっ? う、うん……ありがとう」


 ルーチェさんは頷いてから、ボクの手を掴み立ち上がった。


 ボクは微笑んで、「どういたしまして」と返した。


「急に動きが止まったけど……一体、どうしたんだ?」


「何か襲う気配が無いぞ?」


「—――なら、こうすればいいだろ?」


 ニヤリと笑ったカマセは、杖を手に持った。


 その周囲に魔力が集まり、杖の先が赤く光る。ボクがいつも見て来た―――カマセの炎魔法だ。


 まさか……!


「カマセ! 今すぐやめ―――」


「動かないなら動くようにすればいい! 【ファイアーボール】!」


 ボクが止めようとするも、カマセは無視し魔法を発動した。


 杖の先から現れた赤い魔法陣から、火球が『ミノタウロス』のツノに直撃する。


『ブォオオオオオオオオ!!!』


「逃げ惑え! 無能者、落ちこぼれ! アーハッハッハ!」


「か、カマセ……いくら何でもやりすぎなんじゃ……」


「それに、何もしなければ今のうちに逃げることだってできたかもしれないじゃん!」


「そうよ! 何でそんなことを……!」


「あぁ? お前ら、俺に逆らうのか?」


 さっきまでの上機嫌が嘘かのように、一気に機嫌が悪くなったカマセ。


 その一言により、彼らは俯いて何も言う事が出来なくなった。


「さぁ、『ミノタウロス』! コイツらを始末するんだ!」


 その声に反応して、『ミノタウロス』は動き出す。


 しかし、ボクたちを襲い掛かるのではなく―――



「ど、どうして……!?」



 出口を塞ぐように、『ミノタウロス』は跳躍したのだった。





 ~あとがき~


 お試し投稿です。

 好評だったら連載にしようと考えています。

 星1000ぐらいですかね。

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