リプレイ その3
検非違使庁の役人が、どかどかと家に入って来た。顔面蒼白である。
これはただ事ではないと私は察し、
「どうされましたか?」
と問う。だがその悠長な問いに苛立ったらしく、
「どうもこうもない! 久々に害をなす物の怪が現れたんだ!」
「どんな物の怪ですか」
「『古』に仕える、深き者共の眷属だな。それの半魚人だ」
「被害者は」
「五人組で動いていた公家が噛まれた。うち二人は重症だ」
「噛まれた、とは?」
「首の肉を食いちぎられたのだ。…もうだめだ、陰陽師どの、急ぎ助力を頼む」
古のものとなると話が別だ。通常の物理兵器では太刀打ちできないのが彼らの種族の本領である。しかるべき書物に記された文言、あるいは受け継がれてきた祈りをもって対峙せねば勝てない相手である。私は協力を約束した。
黄昏時が一番危ないらしい。私は、侘助と名乗ったその役人と一緒に、その標的を探す。人外を検知できる携帯羅針盤を取り出し、あちらこちらと移動を繰り返すが、なかなか位置が捕捉できない。人通りの少なくなった路地にたどり着くと、
「春日部さん、あいつです」
数十歩先に見えた。
魚のような顔立ち、蛙のような粘着性のある歩き方。間違いない。
「侘助さん、ちょいと弓矢をお借りします」
「え? あ、ああ、これを」
弓矢を受け取ると、私は矢の中ほどに小さい呪符を貼り付けた。星の形をし、真ん中に目の絵柄をあしらった、『
ひゅん、と矢が空気を裂き、あやかしの後頭部に見事に命中した! そいつは地面にもんどりうって倒れる。そして徐々に煙のようになり、跡形もなく消え去った。
「おお、さすが陰陽師だ! 助かった、本当にありがとう」
「いえいえ。仕事ですから」
数日後、侘助さんからお届け物があるよと式神が告げてくれた。
包みを開けるとそこには、記録をするための空白の冊子が入っていた。
手紙も同梱されている。
「春日部どの
先日は大いに助かった。礼を申す。またあのような厄介な物の怪が出んとも限らん。そういった輩について、記録するものが要り用かと思ってな、余計なお世話かもしれんが、これを受け取ってくれ。
侘助より
恐惶謹言」
とあった。
式神──いつも侍らせている、少女に見える物理的なカミだ──が言う。
「春日部さん、好かれてますねぇ」
「そうか? 私は淡々と仕事をしているつもりなのだが」
「そこですよ、そういうとこですよ春日部さん」
「つまりどういうことだ?」
堂々巡りに怒ったのか、
「ふん、お茶を用意してきます」
と言われてしまった。女心はよくわからない。
これは、比呂昌が言うところのいわゆる「つんでれ」という奴なのだろうか。
そんなことを思いながら、お茶を待つ私だった。
ーーー 春日部の日記より ーーー
jRPG - 5 - 平安京のやすらぎ 博雅 @Hiromasa83
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