第11話 ミルクペンギン

 目の前の扉がゆっくりと開き、目の前に計り知れないほど眩しい一光が空間を貫いた。

 目はまだ明るさに慣れていないのだろうか、周囲がよく見えない。しかしわかる。わかるのだ。肌、嗅覚、聴覚、すべてが反応している。空気は冷たく、全身で懐かしさを感じる。我我は長い旅(六日)から帰ってきたのだ。

「クワ…、クウァ…(ペンの助、ここは…) 」

「クワア…!(俺らのふるさと、南極だ!!)」

 係の人が檻の扉を開け、我らは外に出た。なんと人間は我々を故郷に返してくれたのだ。感謝感激この上ない。いったいどうやってこの気持ちを伝えようか。残念ながら砂糖水もキムチもこの場にない。そこで我は素晴らしい妙案を思いついた。それを伝えるべくペンの助と作戦会議をする。ペンの助と策を練ること二十三秒、帰ろうとする係員の人を呼び止める。振り返ったその先には仁王立ちで構える二匹のペンギンがいた…。

「クワ!クエエ!(今から我が考えた渾身の一発芸を披露します!タイトル『ミルクペンギン』)」


 係員の人が固唾をのんで見守っている。


「クワ、クエ(ペンの助はん、ちょっと我のおかんがとある言葉を忘れた言うてんねん)」

「クエ?(なんや言うてみいや)」ペンの助は嘴に包帯が絡まりごもごも声だ。

「クワ、クウア(それはな。新しい分野にリスクを恐れず挑戦するベンチャー精神を持つ者のことをいうらしいねん)」

「クアエ!!(わかったで!そんなん「ファーストペンギン」に決まってるやん!一番最初に獲物を捕まえに海に入る勇者なんや!)」

「クエ、クッワ(けどおかんが言うにはな、結構後の方らしいねん)」

「クワ、クワワ!(ほなちゃうやないか!ファーストいうてんねんから初めの方に決まってるやないの!もうちょっと教えてくれる?)」

「クワ、クエ(おかんがいうにはなその言葉を検索したら、めっちゃ自己啓発サイトが出てくるらしいねん)」

「クウァ!(じゃあ、ファーストペンギンやないの!果敢に立ち向かうからみんな憧れてんねや!)」

「クワクワクワ(けどおかんが言うにはな、その精神はペンの助でさえも持ってる言うねん)」

「クワ…。クワッ!クワクワ!(ほな違うか。あの尻尾を携えるペンの助がファーストペンギンなわけ…ってちゃうわ!俺はファーストペンギンや!というか砂漠に行くとかイケメンすぎてもはやゼロペンギンや!)」

「クワ。クワッワー!(なにいうてんねん!どうもありがとうございましたー!)」


 ゆっくり係員の顔色を窺うとまるで幽霊をみてこの世の終わりをつきつけられたような真っ青な顔をしている。六秒ほどこっちを凝視してきたのちに叫びながら全速力で逃げていった。おっ!これは笑いすぎて涙がでるというやつだろうか。どうやら大成功(大失敗)のようだ!

 上機嫌で沿岸部から町の方へ向かう。故郷の南極なら道にまよったりしない。しないはずだったのだ。

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