最終話 新大統領
不可解だ。さっきから五時間ほど歩き続けているが全く自分が今どこにいるのかわからぬ。ペンの助の包帯は歩くごとにほどけていく。『ヘンゼルとグレーテル』では道に迷わぬようパンをちぎり落としていったが我らはまさに包帯を落としていっている。結局、首都「ビッグペンギンシティ」にたどり着いたのは翌朝であった。
野宿を挟んだものの寝不足で意識がおぼろげながらシティを散策する。しかしながらどうしたことか、さっきから大通りを歩き、すれ違うペンギンたちは多いものの、全く我らに気がつかない。あれ?我、大統領候補だったよね?砂糖水もってサハラに行った勇者だよね?と何度も考える。寝不足だからもしかして今夢の国で幻想をみているのかしらと考えているとシティの屋外スピーカーが鳴り響いた。
「皆さん!道路を開けてください!これから新大統領就任式のパレード隊が通ります!)」
大衆がざわめき、我先にとパレード隊を見ようと道は大変混雑してきた。すると勇ましい音楽とともに奥の方からそれらしき煌びやかな大群がやってきた。はて、我が大統領になった時のパレードのリハーサルをしているのだろうか。我は問うた。
「クワ?(ペンの助、このパレードはいったいなんだ?)」
「クエ…?(なんだろうな、新大統領とか言ってたけど流石に聞き間違いだよな)」
刻一刻と一隊は近づいており、ついに紫色の旗が見えた。その旗には「ブドウ党」と記されている。我とペンの助は目を疑った。あれ?砂糖水とキムチのせいでついに目が狂ったのだろうか。目をフリッパーでこすってもう一度見てみる。そこには甘党でも辛党でもない文字がくっきりと書かれている。
呆然と立ち尽くしていると大がかりな金ぴかの神輿に乗り、新郎かのような服を着て胸ポケットにバラをさしているイケメンが姿を現した。その神輿の前方のプレートにはこうかいてある。
八十一代目 新大統領 マイケル・ペンギン
我とペンの助は思考停止した。
いつの間にかパレード隊の姿は行き過ぎており、ぞろぞろとペンギンが立ち去っていく。我は何が起きたかを理解するために隣でパレードを見ていた買い物帰りのアフロヘア―のおばさんに尋ねてみた。
「クワ…クエ?(あのお…つかぬことをお聞きしますが今の新大統領は何者でしょうか?そして甘党、辛党の大統領候補はどうなったのでしょうか…)」
「グワッ、グエ!ググワッ(何って、ブドウ党の新大統領じゃない。あんたたち何も知らないのね。マイケルさん、男前よねえ。対して、あの甘党と辛党は夢も希望もない党首討論のあとで支持率がゼロパーセントになってね、二匹とも党から除籍されたのよ。それでブドウ党が勝ったってわけ。それにしてもあの党首たちはひどかったわねえ。無責任にも見知らぬ砂漠の地に行っちゃったんだもの。あんたらもそう思わない?というかあんたたち砂漠に行った奴らに顔が似てるわね)」
我とペンの助はその場に崩れ落ちた。信じられぬ状況に陥っている!まさに我らは(支持率)ゼロペンギンになっていたのだっ!!!おばさんペンギンが心配してあら大丈夫?というがそんな言葉もはや頭に入ってこない。我とペンの助は敗れたのだ。完全敗北である。わざわざ砂糖水とキムチの為にサハラ砂漠にいっていた間に全く知らないやつに大統領の座を奪われてしまったのだ。これまでの努力は水の泡となってしまった。しかし、しかしだ。我らの野望は消えたわけでは決してない!いつか、いつか必ず返り咲いてやると心の奥底の灯は南極の氷を溶かし、今、炎々と燃えている―。
そのころおじさんエンペラーの家にて。
般若皇后「ちょっと!腐った砂糖水とキムチがあるんだけど!めっちゃくちゃ臭すぎる!!!ほんと、どうにかしてよ!」
エンペラー「絶対、あのペンギンが忘れて帰りやがったんだ!!!!クワアアああ!!」これまた大変な騒ぎになっていた―。
あとがき
著者「クワ!クワアア!(ここまで読んでくださった皆様ありがとうございました。これにて「砂漠に」ペンギンは完結しました。二匹は大統領になることはできませんでしたが、彼らの物語はまだ終わっていません。続報が届けばまた報告する所存です。それでは!)」
参考文献
バッタを倒しにアフリカへ 前野ウルド浩太郎著 光文社新書
枕草子 清少納言著
源氏物語 紫式部著
眠れないほど面白い『古事記』 由良弥生著 王様文庫
史上最強の哲学入門 飲茶著 河出文庫
映画『タイタニック』主題歌 MY HEART WILL GO ON
作詞作曲 HORNER JAMES, JENNINGS WILL
アニメ『ドラえもん』 藤子・F・不二雄原作
YouTube https://m.youtube.com/?hl=ja
『ムンクの叫び』 エドワルド・ムンク作
走れメロス 太宰治
『ザ・ペンギンズ fromマダガスカル』 原作トム・マクグラス、エリックダーネル
お笑いコンビ「ミルクボーイ」
『ヘンゼルとグレーテル』
著者のペンギンに対するイメージ・妄想
砂漠にペンギン 末人 @matsujin
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