第10話 いざ南極へ!

 突如部屋のドアが開いた。何やら服装から医師でも看護師でもなさそうだ。靴は長靴で長袖半ズボン。色は青一色。右手には、檻をもっている。そして特筆すべきは檻の中にオキアミが入っている!なんと!大好物がそこにある!我は生き別れの弟を(いないけど)抱きしめる如く、そのオキアミに食らいついた。それが大きな間違いだった。我はまんまとやられてしまったのだ。


 ガチャン!大きな雷鳴のような音が打たれた。我がオキアミを食べていると檻が閉められた。我は一瞬何が起きたのか皆目見当もつかなかった。隣では俺が食っているオキアミを強奪しようとペンの助が騒いでいる。

 「クワッ!クウァ!(そのオキアミをよこせ!)」

 「クエクウァ?(まて、ペンの助よ、今の音はいったいなんだ?もしかして我らは…)」

 「…(…)」

 「クッエ!!(捕獲されたんじゃないのか!?…)」

 我は急いで檻から出ようとするも全く開く様子はない。

 「クワアアア!!!(おじささんエンペラー!!!)」我の目にはエンペラーが胸をなでおろし看護師の人と喋っている姿が映る。我らには毛頭興味がなさそうだ。もう二度とエンペラーと会うことはないだろうと考えると涙が出てきそうで出てこない。全米の二パーセントぐらいが泣くであろう感動シーンだ。ペンの助はというと

「クエ!!!クワッ(おいおっさん!なれなれしく俺の看護師のお姉さんと喋んじゃねえ!)」

といった具合でキレている。ジャイアニズムも甚だしい。檻はトラックに運ばれ無造作に揺れて、どこかに運ばれていく。

 人間の中には餌を求めて檻に見事に入ってしまった我らのことを馬鹿らしく思えるかもしれない。しかしどうだろう。あなた方も同じなのではなかろうか。スーパーであれば、レジ近くにある、グミやアイスを買う気もなかったのにいつの間にかカートにいれていないだろうか?仕事であればプレゼン資料の為にググっていたらいつの間にかYouTubeのショート動画を二十個みていたことはないだろうか。それと全く同等のことがオキアミで起きていただけのことである。ゆえに我らも人間も同じなのである!

 渾身の我の持論を開花させたところでペンの助に話しかけてみる。

 「クエ、クワア?(ミイラさんよ、我らはいったいどこに連れていかれると思う?)」

 「クエ…。クワ!(『ザ・ペンギンズ fromマダガスカル』のキャラクターとしてディズニーランドにでも展示されるんじゃないか?…あとミイラって呼ぶな!)」

 奴の発想力に食べていたオキアミを吹きそうになった。

 その後、二日程度動物園のバックヤードらしいところで過ごした。部屋にはどこからともなくゴリラ、チンパンジー、鳥類の鳴き声が鳴り響く。しかし、サハラ砂漠のような過酷さ(遊牧民のところに居候していただけだが)はなく、刺激性がなかった。食べ物は決まって定期的にでてくるし、安泰な生活だ。なお、ペンの助の寝相は微塵も改善されず地獄の二夜を過ごした。ここで、お待ちかねのペンの助の寝相の一部をお届けしよう。

 「クァ!クウェ!アア!(YO!俺はさすらいのペンギン、ペンの助!次期大統領のエリートッ!俺が大統領になれば韓国キムチでみんなをメロメロに!政権運営まさに迷路!ヤギやバッタ、ナースたちにモテたモテ男!ミイラとなってここに見参!全国民はまさに降参!HEY!イカにオキアミ税どんどん納めよ!国民の怒りは収まらない!錨は浮いてついに出向!俺の時代の幕開けさ!)」

 もはやペンの助氏の寝言は芸術の域の達している。パブロピカソと互角かもしれぬ。

 動物園の職員と思われる生物に「クワ!クウァ!(我らはこのあとどうなってしまうのだ!教えてくれ!)」と訴えてても即座にオキアミが投げつけられるだけであまり意思は伝わっていないようだ。まあ、オキアミくれるのは最高なんだけど。

 その後我らは推しを追いかけるようにオキアミを追いかけているといつの間にか二匹共々また檻に入れられてしまっていた。してやられた。その後、再びどこかへ運ばれていく。今度は船で運ばれるらしい。この時我らは知らなかったがこの船の目的地は、そう、我らの故郷、南極だったのだ―。


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