第8話 蘇りしミイラ

 それにしても人間の医療は進んでいるものだ。当然ながら南極での医療技術のほうが先進的だが人間のものも劣るわけではない。しかし、気になることが一点。七分ほど前から待合室で診察を待っているのだが、人が通り過ぎるごとに我をにらんでくる。もしかすると、我は人気者なのかもしれない!試しに右後ろの椅子に座りしゃべっている患者二名のほうに近づいていくと奇声を発し、一目散に逃げていってしまった。はて、なぜだろう。こっちは尻をサソリに噛まれ、痛いながらも歩みよったというのに、残念である。皆が逃げる理由を考えると五秒。我は気づいてしまった。

 はっ!さては「ソーシャルディスタンス」というやつか!なるほど!南極では事態は収束していたがこの地ではまだであったか!我ながらに配慮が足りていなかった。

いやしかしながら懐かしいものだ。「三蜜」というワードもはるか彼方のものにかんじる。「蜂蜜」「黒蜜」「白蜜」だったかな。

 そして我らの王、おじさんエンペラーはソーシャルディスタンスのために、地味にペンギン二匹から距離を取っているわけだ!ちなみにエンペラーは常時周囲に申し訳ない顔をしながらお辞儀しまくっている。眉毛は八の字になり、足は貧乏ゆすりをしてなにやら忙しそうだ。

 最悪のケースとして我らペンギンが異物として周囲に避けられている可能性も考えたがそれはまずなかろう!だって、次期大統領のすげえエリートペンギンだし!

 そうこうしているうちに我らのもとに白衣を着た偉そうな感じの医者がきた。眼鏡をかけたこれまたおじさんで、エンペラーとの相違点は頭が砂漠でないところだ。医者が直々に我らのもとに来るとは、我らはこの病院に国賓待遇を受けているのかもしれない!

 我は医師につれられ別室にいれられた。おそらく診察室だろう。振り返ると一緒に来ていたはずのペンの助の姿はない。まさかあいつこの病院で迷子になったのか?流石にそれは…w いや、あり得るか。などと考えていると突如、おもむろにベッドの上に這いつくばるかたちで何者かに押し倒された。背後を見てみるとナースが三人、例の医師の計四人が必死で我の体を拘束している。

「クワ!クワクウェ!(おい!いったい何の真似だ!俺は食えないぞ!まずいぞっ!)」

 咄嗟に思い出した般若フェイスをするも意味なし。そして医師の右手を見ると注射器をもっており、蛍光灯の光が細い針に反射している。

 「クワ!クウァ!(なんだその針!よせ!俺は何も武器をもっていない!敵意はない!それを放せ!)」

 必死の抵抗もむなしく、その針は我の尻に刺さされた。



 グワッ……!!



まさにそれは未知の感覚を開拓されたようであった―。




 ♪♪♪治療中♪♪♪




 恥部の発見から三分ほどたち、既に拘束は解かれている。放心状態というのはこのことを指すのか。天井を見ながら先ほどの新感覚を噛み締めているとドアが開き、誰かが入ってきた。おじさんエンペラーの隣に我と同等の身長をした白い物体が連れられている。よく見るとそれは包帯ぐるぐる巻きにされたペンの助だった。見苦しいたんこぶは隠ぺいされ、まさに令和のミイラがここに爆誕した。ペンの助が天に召された時は二メートルほどのピラミッドを作ってやろう。

 

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