第6話 空飛ぶペンギン
おじさんエンペラーと般若皇后が身支度を始めた。どこかに出かける雰囲気だ。さては我ら迷惑の権化であるペンギン二匹から逃げようとでも言うのだろうか!陛下それはひどいですぞ!ここは重い腰を上げエンペラーを説得するしかあるまい!
「クワ、クッワワ!クエクエ!(『神は死んだ』で有名な哲学者ニーチェは末人ではなく、超人になるには『強くなりたいという意思を持ち生きる』ことで成長できるとおっしゃりました。そこで己の嫌いな物体というのは自分を成長させる絶好のチャンスであります。あなた方にとってその嫌いな物質が実に我らペンギン二匹なのであれば、逃げるのではなくしっかりと我らに向き合うべきなのです!故に陛下、我らを今後も養ってくだされ!砂糖水ならいくらでも差し上げます!)」
我の饒舌な演説にもエンペラーは一切耳を傾けない。かといって般若皇后は怖いから話しかけたくない。かといってたんこぶ飽和状態のペンの助にはもう鋭気はない。どうしたものかと考えているとひょいと体が宙に浮いた。元来ペンギンは飛べない鳥類として生をうけたがついに悲願がかなったのだろうかと考え、無意識に映画タイタニックの手を広げる女性ような体勢になる。
Near, ~far, ~wherever 砂糖水is~♪(近くても、遠くても、どこに砂糖水があろうとも~)と歌いそうになった二秒前、ラクダの上に乗せられた。次にエンペラーに担がれてペンの助も後ろに乗ってきた(乗せられた)。ただの幻想だったようだ。
ラクダに乗ること五分。後ろにペンの助が鎮座しているおかげで我の座る領土はきわめて狭く、苦しい。悲惨なことにたんこぶだらけのペンの助は負傷部が我の背中に押され、コロナワクチンの数倍は痛そうである。
「クワ!クワ!(お前もっと痩せろ!たんこぶがさっきから押されてまじで痛いんだよ!)」
「クワクウェ!(バッタをナンパしようとしたのが悪いんだ!)」
世界一お粗末な論争が続くこと数十分。ようやく念願の休憩タイムが来たらしく急いでラクダから降りる。サービスエリアのような文明はなくただ一面砂だが。
ずっと気になっていたが砂漠でトイレに行きたい時はなんて言えばよいのだろう。現代では「お花を摘みに行ってくる」を使う。そしてちょうどペンの助がもじもじし始めている。我は奴が次になんというのか、ワールドカップのPK戦の時並みに耳を集中させている。そしてついにペンの助が嘴を開いた。
「クエ、クワ(オキアミを捕まえにいってくる)」。
我はペンの助のセンスの無さを嚙み締めた。
ペンの助のオキアミ狩猟を待つ間、われはその場に座ってのんびりしようとした。だがその判断がすべての間違いであった。我がしゃがんだ瞬間、何者かに尻が刺され激痛が走った。痛さのあまり無言で立ち上がり周囲を見渡す。そこにはまるで万引き犯がその場からたち去るようにそそくさと茂みに逃げるサソリがいた。
「クエエエエエーーーーーー!!!!(痛あああああ!!!!)」我は走った。どうすればよいのかわからない。そうだ、エンペラーなら治してくれるのではなかろうか。我は走った。メロスの九百倍以上の速さでエンペラーのもとに向かう。
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