第5話 涙で濡れる砂糖水

 我とペンの助氏はそれぞれ己の信ずるもの(砂糖水と韓国キムチ)を枕に眠ることにした。ただここで問題が起きる。隣で寝ているペンの助の寝相が至極悪い。いびきも某有名アニメキャラクター、ジャイ〇ンのリサイタルの二十倍以上はデシベルが大きく、陸に挙げられた魚の様に常時跳ねて動き回っている。セクハラ、パワハラならぬ音ハラである。実は起きてんじゃね?と疑いたくなる。ここで一つペンの助の寝言を紹介しよう。

「クワ♪クワ、クワ♪アア!(Hey!そこのヤギさん、俺は南極から来た刺客、次期大統領のペンの助だぜ!何?お前みたいなやつは失脚しろって?ははは!冗談がウマいお嬢さんだな。ところで俺の韓国キムチ食っていかない?キムチは辛いが俺のハートは君にもう甘いんだぜ!)」

なんとこのペンの助、自分が今夜食したヤギをナンパしている夢を見ているようだ。このセンスでは人生も難破しそうでたいそう哀れに感じる。彼のセンスのなさを見ていると涙が出てくる。枕(砂糖水)が涙で浮いてくるのももうじきだろうか。

 人生最大の失敗ともいえるペンギン二匹を拾ったエンペラーと般若皇后は閑静地に避難するために外で寝ることにしたらしい。

 


 朝が来た。夜はあんなに寒かったのに、きわめて暑い。残念ながら枕(砂糖水)は浮いていなかった。持ってみようとするも、砂糖水も隣のキムチも腐っているのか匂いを嗅ぐのも恐ろしい。例のペンの助はよく眠れたらしく、奴以外は目の下にくまを携えて朝を迎えた。

 朝ごはんはマンダジと聞こえる三角形のパンのような食べ物と卵だった。この卵を食うのは同類を食べるという罪悪感が湧いてくるが失恋したペンの助含め皆躊躇せずに食べるので我も食べることにした。マンダジは硬いのでフリッパーで潰すのは時間がかかる。ああ、オキアミが恋しくなる。

 罪悪感と腹が満たされ、爽快な空を眺めているとふと空が局地的に黒いことに気がついた。はて、ムンクの叫びでは世界の終焉時、空は赤かったが本当は黒かったのだろうか。と考えているとじわじわその黒い空は大きくなっていく。大きな塊は時間とともにドット絵のように細分化されていく。ここで気づいてしまった。いや、あれは雲ではなく、大量のバッタである!夥しいバッタの大群が我らの方に飛来してきている。その数、千は優に超えると思われる。おじさんエンペラーがゲルに入れと叫んでいる。我は一目散に中に退避するもなぜかペンの助はその場にとどまっている。入らないのかと聞くとペンの助は真剣な眼差しで言った。

「クワクワ!(俺はあのバッタの大群から生涯の伴侶を探すんだ!)」

もはや意味が分からぬ。全く持って理解できない。どうやら、ペンギンがヤギの次はバッタをナンパしようとしているらしい。失恋は新しい恋で埋めるしかないと聞くが絶対にこいつは方向性のコンパスが常軌を逸している。ヤギを失った悲しみから明らかにおかしくなっている。我は絶望を抱えゲルに入った。

 数分間ゲルにバッタがバッタバッタとぶつかる音を聞いたのち、静けさが戻ってきた。するとペンの助がとぼとぼ戻ってきた。バッタと衝突したのであろう、全身に無数のたんこぶができている。もうかけてやる言葉も見つからない。

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