第39話 【謝罪】先日の配信で冷凍ピザを焦がしてしまった件について

六年近くやってきたソシャゲがサ終することになったので、少し精神が不安定かもしれません。落ち込みすぎて投稿頻度が落ちるか、悲しみを乗り越えて投稿頻度が上がるかどうかは、次回の更新をお待ちください!










「うーん。何も見えない、聞こえない」


 フェニックスチャンネルの視聴者、保坂ユウキはカメラとマイクがオフになった配信画面を退屈そうに見つめていた。


「何があったのか確かめようにも、そう簡単に70階に凸れる視聴者なんていないし、ガマ子も理事長も配信してない……」


 70階で何が起こったのか、知る手段は無かったのだ。


 チャット欄では何人かの有志がダンジョンに向かったようだが、望みは薄い。他の配信者が唐突に画面をブラックアウトさせたとなると、その視聴者達は配信者を心配する流れになるだろうが、ここはフェニックスチャンネル。慌てているのは初見か新参のみ。リスナーは皆『どうせ生きてるだろ』と高を括り、いつものようにチャット欄を荒らすのだ。


 保坂ユウキもまた、ネット上で馬鹿にされている薪野シツキリスナーの愛に溢れたコメントをコピペして連投しながら……淡い期待を抱いた。


「誰か────ドローンだけでも良いから70階に投げ込んでくれたり……なんて無いか」






 ー ー ー ー ー ー ー







 不死鳥は不死ではない。何度死のうとも蘇る事で『不死』を確立させている存在だ。


 ─────では何故、【不死鳥】たる古鴉キョウマは『不死身の再生能力』を持っているのか?


 その力は彼の、【不死鳥】というジョブの【天啓同調】によるものだ。


「【死屍誕々オーバーヒート・リジェネレイト】」


 そのユニオンスキルを発動した瞬間────キョウマの身体に莫大な魔力が生成され始める。


「これ、は────」


「ッ、メドゥーサ、下がって……!」


「おぉあぁッ!?この量の魔力は、流石にヤベェな……!?」


 溢れ出る魔力は炎のように燃え盛り、蜃気楼のように周囲の空気を震えさせる。


「天啓同調……これが、貴方の、本気……」


 二瓶マミレは自身が感じた本能的な恐怖をそう捉えた。


 小悪党を名乗り、しかしどこか隠せない優しさのある古鴉キョウマという男は一瞬にして消え去った。


 今、立っているのは─────人の姿をした、殺意に満ちた獣だ。


「【人知全奉デモンズ・ウェブ】」


 対するバエルもユニオンスキルを発動するが────これと言って目に見える変化は無かった。


「ふむ……お互いに強化系の天啓同調だったという訳か」


「映えないフェニね。名前の通りド派手に大変身したりしてくれってバエルさんよ。まぁこんなもんか、ユニオンスキルなんて……」


 キョウマはがっかりするように頭を掻きながら────その右手でアイテムボックスに接続し、武器を掴んだ瞬間に脚部に力を込める。


「【不死鳥の抉爪】」


 脚を変形させ、バエルとの僅かな距離を詰める速度を上昇。


「っつー事で死ね!」


 取り出したのは【朱雀刃】。今回は両手に持てる二つの赤き刃の光が、ダンジョンに軌跡を残す。


「っ、王よ!危な────」


 ヒュドラが叫び、キョウマがバエルの首を捉えたと認識したその時。


「ッ!これは……!」


 出現し、【朱雀刃】を防いだのは雷の盾。【朱雀刃】が纏う炎を跳ね返すように電撃を放っていた。


「死ね、か。【不死鳥】は奴によく似た人間を見つけたようだ……自身は死なず、しかし他者には死を振りまく傲慢さ。貴様が言う言葉の全ては、あまりにも重みを感じられず……だというのに確信を捉えている。つくづく理不尽な存在だ、貴様は」


「言いたい放題だなおい!」


 押し切れないと判断したキョウマは後退し、数秒後に消失した雷の盾に思考を巡らせる。


(雷魔法スキルに【ボルトシールド】ってのはあったが……アレごときでユニークウェポンを防げるはずがない。だから上位互換の【サンダーシールド】……いや、さらに上の【ライトニングシールド】か。だとしたら────)


 バエルは、不動のまま。


 スキルの発動を宣言せず、杖に魔力を込める事無く、ただ立っている状態からスキルを発動させたのだ。


(雷魔法最上位級の【ライトニングシールド】を、杖とかを使う事無く……しかも無詠唱で?っつーか、それなりの探索者が【ライトニングシールド】を使っても【朱雀刃】なら簡単に突破できるはずだ。でも……防がれた)


 剣を使用するスキルが剣を必要とするように、魔法系スキルは杖などの武器を必要とする事が多い。しかし他の武器のスキルと比べて、簡単かつ魔力消費の少ない魔法は杖が無い場合やスキルの宣言が無い場合でも発動が可能となる。その方法で発動した魔法は正規手段での魔法より威力が低くなる。


(無詠唱、武器無しで超高出力。間違いない、俺と同じように魔力の上昇か、魔法の強化がコイツのユニオンスキル────────)


 キョウマの思考はそこで止まる。


「あ」


 無詠唱。武器を持たず、それでいて威力は通常のものを遥かに上回る。


 これが意味するのは────『予兆の無い即死攻撃』だ。


「マジ かよ」


 風の刃。


 キョウマの眼前に出現した縦方向の斬撃が……彼の頭頂部から股までを真っ二つに切り裂く。


「あぁっ……!?」


「重ねてみよう、斬撃による死を」


 マミレが裏返った声を上げてしまったのは、古鴉キョウマが『脳』に直撃を受けたからだ。


 いくら不死と言えど脳に攻撃を受けたらまずいのではないか、と……漠然とした不安が彼女を襲ったが、無慈悲にも風の刃は止まらない。


 二発目、三発目、四発目……キョウマの身体が斬り刻まれていく────────。


「ミンチにはなりませんフェニよ、残念ながら」


 ……が、彼の身体は繋がっていた。


「ひき肉は豚が一番好きなんだ。アレはちょっと味付けして焼くだけで美味いからな。鶏ひき肉はねぇ……アレが米とどんぶりか、串がねぇとさぁ」


「……凄まじい再生速度だ」


 斬撃を受けた直後には既に傷が塞がっていた。


 水のように、斬撃をものともせず形を修復しているのだ。


「っと、あぶねぇあぶねぇ。ご丁寧に服とマスクまで切り刻みやがってよ」


頭部、声帯を変形させ敵を威圧するスキル、【不死鳥の咆哮】は声を変える為だけではなく、万が一マスクが外れてしまった場合の保険としての役割もある。


 今のキョウマの頭部は人間と赤い鳥が混ざった怪物のようなモノとなっている。彼がアイテムボックスから取り出したスペアのマスクを装着し、替えのジャージを着ている間……バエルは何もせず、魔人達は張り詰めた空気から解放されたように言葉を発していた。


「まさに次元の違う戦いってヤツだな。でも…………」


 中でもフェンリルはその二体のモンスターの戦いを集中して観察し、その中で気付いた違和感をまとめようとしていた。


「オレが殴った時もそうだったけど、気のせいか……?再生する速さが、上がってるような……」


「恐らくそれが『トリ』の天啓同調なのでしょう。彼の言葉を借りる訳ではありませんが、地味ですわね」


「────本当に、そう、なのかな」


 仮面の奥で唇を噛みながら、マミレは呟いた。


「どういう事?メドゥーサ……」


「バエルも……『トリ』も、戦いが始まる瞬間に、天啓同調を、使った。自分の本気を、最初から」


「ん~?何が言いたいわけ?」


「メドゥーサちゃんの言ってる意味は分かるよ。……ほら、見てみて」


 グレモリーが指さした先は、凍った空気の中で静かに呼吸するバエルと、衣装の着用を終え朱雀刃を構え直したキョウマの姿。


 互いに攻撃はせず、相手の出方を伺っている。


「慎重に様子見してるみたいなんだ。最初から天啓同調を使って速攻で決めようとしてるのなら、こんな戦い方はしないと思う」


「オス失格マゾチ●ポ、良い着眼点じゃん」


「さっきまで名前で呼んでくれてたのに思い出したかのように戻すのやめてね」


「……っつーかよォ。ずっと気になってたけど誰も何も言わねえから、オレが間違ってんのかと思ってたけどよォ────」


 フェンリルはキョウマを睨みながら、不安と期待の入り混じった声で言った。


「────『トリ』、ボスが調に普通のスキル使ってんのに驚いてなくねえか?」


「「「「え」」」」


 フェンリル以外の魔人達がキョウマへと視線を移し、息を呑む。


「た、確かに」


「こっちからしたら当たり前の光景だから気付かなかったな~……」


「くっ、フェンリルの癖に!ちょっと良い指摘したからって調子乗るなよ!!」


「これくらいで乗るかよアホ」


「……えぇ。王である彼は仕組みこそ語らないものの、天啓同調と通常のスキルを同時発動できる。それに対して無反応という事は……」


「戦いに夢中で気付いてないか、それとも────────」


 表情は無く、ただ冷静な分析をグレモリーが告げる。


「────彼もバエルと同じように……」


「きっと、そう。私達と、彼らは、違う」


 古鴉キョウマはバエルを殺そうとしている。


 言葉遣いの荒い彼の殺意の言葉が冗談で発せられた訳ではないというのは、マミレには分かっていた。


 だが────止める事は出来ない。


(貴方が、どうしてもそうすると、言うのなら……私には、何も────────)


 マミレだけでなく、その戦いを見守る魔人達は全員、『介入したら死ぬ』と感じていたから。




「教えてやったらどうだ」


「……何?」


「お前のガキ共は気になってるらしいフェニよ。俺達のユニオンスキルについてを」


「『常時発動パッシヴ化』の事か」


 カラクリは単純なものだ。


 ただ、彼らのユニオンスキルが『さらなる境地』まで到達しただけ。発動せずとも効果は常に発揮されている状態となり、加えて発動中のデメリットは消え、再発動すれば効果がより強力になるように進化した。


 探索者達や他の魔人達との違いは、ただそれだけのあまりにも大きなものだった。


「彼らを気に掛けるとは、随分と余裕があるようだ。羨ましいな」


「そりゃあ、お前なんざガキ共の相手しながらでも楽勝だし?」


「……私は違う」


 バエルは苦笑いの表情で、額の冷や汗を拭う。


「ただ、ここに立っているだけで動悸が激しくなる。貴様の殺意を受けるだけで背筋が凍る」


「……」


「貴様には分からないだろうが、これが死を有する者の戦いだ。覚悟で正気を保っているのだ。私は今、一世一代の大勝負の舞台にいる……世界に生き様を刻もうとしているのだ」


 数回の深呼吸の後、金色の衣を纏う男は微笑んだ。


「だが、少しくらい……せっかくなら、彼らに話してやってもいいかもしれない────」


「……」


「────貴様の天啓同調の仕組みについてを、な」


「……チッ」


 その鋭い眼光は、キョウマに『こいつは自分の何かを覗いた』と感じさせるほどの光があった。


「お前のその厄介な『眼』は、優先的に潰さないとな」


「厄介という言葉は、貴様の『全身』の方がより適切だろう……恐ろしい。あまりにも生と死への冒涜だ」


 バエルの指先がゆらりと上がり、覆面の男を差す。


「貴様の天啓同調の能力は、『』……それを繰り返し、無限の再生を実現させているのだ」


死屍誕々オーバーヒート・リジェネレイト】。


 不死鳥としての『死後に蘇る』特性を利用し、古鴉キョウマを構成する一つ一つを破壊、復元。破壊、復元────それを高速で繰り返す。


 これにより、彼の身体は常に一定の状態に保たれる。腕を切り離されれば自動的に腕があった状態へと再生する。腕が切り離されなくとも彼の身体は常に死に続け、元に戻る。


「加えて────生命が『誕生』する瞬間に発生する魔力と『死滅』する瞬間に放出する魔力。一つ一つは塵のようなものだとしても、積もれば『差』も含めて山となる。爆発的な魔力の上昇の仕組みはそれだ」


 ダンジョン内で生物が生まれる時、周囲の魔力を吸収して誕生する。反対に死亡する際はその魔力の一部が周囲へと解き放たれる。


 つまり古鴉キョウマは【死屍誕々】によって圧倒的な魔力吸収効率を手に入れることが出来るのだ。誕生する時に吸収する魔力は、死亡する時に放出する魔力より圧倒的に多い。細胞の死滅時に放出される少量の魔力が、炎のように彼の身体を覆っているのだ。


 同じ事を不死鳥以外の再生能力所持者が真似しようとしても、発生する魔力量に耐えきれず肉体の再生に全てのリソースを割く事になってしまう。加熱しすぎたエンジンを一瞬にして冷やす事が出来るのは、不死鳥の名を背負うフェニックスのみ。


 燃え尽きた命が力を生み、最も大きな火を絶対に絶やさぬよう回帰する。強力な再生能力で相手の攻撃を受け流し、隙を狙って蓄えた魔力を爆発させる攻防一体の天啓同調。人々が不死鳥に抱く『イメージ』が不死の解釈を拡大させた事から成り立つ、第二の不死の力。


(魔法が得意っつー事はまぁ、魔力の流れに敏感だったりしてもおかしくない。そこを見られたか……)


 キョウマの中に────ほんの少しの靄が生まれる。


 戦況は有利。不死のキョウマに対して相手は決定打を持たない。封印系スキルが来てもある程度の対抗手段は持っている。強力な防御魔法はさらに火力を上げて対処する。


 しかし────────勝利が見えない。


 予感でしかない。根拠のない不安さだ。ところどころに不自然さを感じている気はするが、それが何かは分からない。


 だが…………単なる封印系スキルやより強固な防御魔法ではなく、予想出来ない『何か』をしてくるという恐怖があった。

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燃えよダンジョン、バズれ俺~炎上系配信者の迷宮無双録~ イ憂 @tokinoken

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