夢見草

蘇芳

第1話

僕の彼女は不治の病に侵されている

余命宣告はされていないがあまり長くはないそうだ

僕と彼女はあと何度共に春を迎えられるだろうか




高架橋を抜けた先、雲の隙間から青空が覗いていた

「最近暑いね」

「もう少し風が吹いてくれるといいんだけどね」

そんな他愛ない会話をしながら僕と彼女は歩いていた。今日は週に1度の彼女の外出日。いつも通りの道を2人で話しながら歩く、ささやかながらとても幸せな時間だ。

休憩に近くのベンチに座ると、優しい風が2人の頬を撫でていく。彼女の頬になにか付いている。桜の花びらだ。ふと上を見てみると満開の桜。

「桜綺麗だね」

「そうだね。今度の外出日は花見にでも行こうか。」

花見の予定を立てながら僕らは桜を眺めていた。青空の下舞い散る桜はまさに春の吹雪のようだった。

次の外出日、僕は彼女と病院近くの公園に訪れていた。花見の客は少ない。この前まであんなに咲き乱れてた桜も少しずつ散ってしまっている。それでも彼女はお弁当を食べたり、写真を撮ったりとても楽しんでくれている。この日のために色々調べたり、料理を練習しておいてよかった。

「この桜、私たちだけのものみたいだね」

そんなことを言ったり、花びらの絨毯の上で寝っ転がったり彼女と遊んでいると気づけばもう夕方だった。

いつもの病院までの帰り道。高架橋下で彼女が僕を呼んでいる。その姿は段々と沈んでゆく夕日と共に消えてしまいそうで、不安になるほど儚く美しかった。僕は彼女の隣に並ぶと、その不安を隠すように手をぎゅっと握りしめた。

「また来年も行こう」

名残り惜しそうに今日の事を話していた彼女に僕は微笑みながら言った。



あと何回共に春を迎えられるか、彼女の笑顔を横で見ることができるか分からないが、1日1日共に過ごせる時間を大切に、後悔のないように過ごしたい。そしてこの日々が、あと少しもう少しだけでも長く続いていくように僕は願い続けたい。

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夢見草 蘇芳 @momoryo

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