【自分と周囲】



 冬が明け、春になっても、常盤藍は優等生のままだった。

 本人が言う、「優等生のフリ」を続けていた。

 それで良いと思う。

 彼女は言った。「急に優等生キャラをやめるわけにはいかない」と。

 それは実際、そうなのだ。

 有名な格言にもあるように、自分が変われば、周囲が変わる。

 否応なく変わってしまう。

 良くも悪くも、必ず変わる。

 彼女はそうだろうし、僕だってそうだ。

 例えば、僕の成績は彼女のお陰で随分と良くなったけれど、その所為か、「落ちこぼれ仲間」と呼ぶべき友人達とは距離が離れてしまった。

 自分が変われば、周囲が変わる。

 周囲の対応が変わる――のだ。

 だからこそ、これまでの自分を、これまでの関係性を維持したければ、急激に変化することは許されない。

 思えば、彼女は優等生のフリをしていたわけだけど、僕は落ちこぼれの役を負っていたのかもしれない。

 誰だってそうなのだろうと思う。

 多くの人間は何かしらの『キャラ』を演じて生きている。

 素直に生きられる人間の方が少数派なのだ。

 そうやってクラスは構成されているし、大袈裟に言えば、そうやって世界は回っている。

 人は元より、多面的な存在なのだと思う。

 誰にだって色んな側面がある。

 誰も知らない顔を持つ人だっているかもしれない。

 僕は、物静かで聡明な、優等生としての彼女を知っているけれど、ヘビースモーカーで乱雑で優等生ぶるのに余念がない、不良としての彼女も知っている。

 僕だけが知っている。

 それは少し、いやかなり、実際のところ凄く。

 嬉しいことだった。


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