世界は白であふれてる
清瀬 六朗
世界はまっ白のはずなのに
光のばあい、「白」はすべてだ。
すべての色の光が均等に混じり合うと、白になるという。
とくに、赤、緑、青の「光の三原色」が同じだけ混じると白になる。
なぜ赤、緑、青が混じると白になるのかというと、よくわからない。
「客観的に白い」のではなくて、私たちの視覚がそれを「白」と感じるから、なのかも知れない。
私たちは太陽の照らす色に合わせて、ずっと進化してきた。だから、太陽に照らされて明るい色を「白」と感じるようになった。
違う色の星、たとえば赤色矮星とか赤色巨星とかのまわりの惑星に住んでいたら、私たちの「白」はもっと青っぽく見えて、そのかわり、私たちの「赤」が「白」に見えるのかも知れない。
「すべての波長が均等に混じり合う」というのを音に適用すると、聞こえる波長の音ぜんぶが雑然と鳴り響いている状態が「白」ということになる。そういう音を「ホワイトノイズ」という。
テレビの放送が終わって電波がとぎれるとそのホワイトノイズが「ざーっ」と聞こえる……と書こうとして、気づいた。
いまのデジタルのテレビって、ホワイトノイズを流すことなんかあるのだろうか?
電波信号が入らないと、端的に音が消えてしまい、ノイズにはならないのでは……?
たしかに、最近、テレビでホワイトノイズを聞いていない。
電波信号が入らないと、そのホワイトノイズとともに、テレビ画面には白と黒が細かく不規則に入り混じった映像が表示され、それを「サハラ砂漠の砂嵐」と言ったりしたものだ。
もう「サハラ砂漠の砂嵐とホワイトノイズ」の組み合わせは過去のものになったのだろうか。
ホワイトノイズが「白」なのなら、「白」の音は「ざーっ」という音だ。
激しく流れて白いしぶきが飛び散っている川の音を考えれば、「白の音」は「ざーっ」でいいんじゃないかと思えてくる。
ところで、世のなかには「強い力」という力がある。
腕力が強い、というのではない。ひとに言うことを聞かせる威圧力が強いというのでもない。
「強い力」という名まえの力がある。
これは何かというと、原子核を一つにまとめている力だ。
原子核というのは、
それは、電気の反発力にうち勝つすさまじく強い力が原子核内部には働いているからだ、ということになって、この力を「強い力」と呼ぶことになった。
じつは、陽子も中性子も、さらに小さな粒子「クォーク」が三つ集まってできている、と考えられている。
「考えられている」というのは、クォークを単独で取り出して直接観測するのは無理だから、だけど。
そのクォークは、三つの状態をとり得ることがわかっている。
それを、物理学者は「色」にたとえる(たとえているのであって、実際に色がついているわけではない)。
赤色と、緑色と、青色。
陽子も中性子も、三つのクォークでできているのだが、一つの陽子や中性子のなかに入っているクォークは、必ず、一つは赤、一つは緑、一つは青の「色」になっている。
しかも、その「色」は、常に、めまぐるしく変わっている。
赤色だったクォークは緑色になり、また赤に戻り、また緑になって、次は青になるかも知れない。
ただ、この、色が変わるとき、そのクォークは、失った色を必ず別のクォークに与える。
それは、つまり、自分の色が変わるときには、必ず別のクォークから色をもらっている、ということもできる。
赤色と、緑色と、青色を、三つのクォークのあいだでめまぐるしくやり取りしている。互いにやり取りしているので、赤が優勢になったり、緑が優勢になったり、青が優勢になったりということはない。一つひとつのクォークはめまぐるしく色を変えているのだが、陽子や中性子全体を見れば、すべての色が同じ強さで釣り合っている。
その「色」をめまぐるしくやり取りしていることによって、原子核は固く結びついている。電気の反発力を問題にしないくらいに強く固く結びついている。
この、原子核のなかで、クォークの「色」をめまぐるしくやり取りさせている「力」が「強い力」なのだ。
原子核は、「強い力」の色で言えば、必ず赤色と緑色と青色が釣り合っているから、かならず、
私たちの世界はほとんど原子核でできているのだから、「強い力」からみれば、私たちの世界はまっ白なのだ。
私たちは、その「強い力」で見るとまっ白な世界に、さまざまな色彩を見つけ出して生きている。
まあ、それには、「強い力」が及ばない電子というものが深く関係しているのだけど、そういうことはおいといて。
「強い力」で、原子核のレベルで見るとまっ白な世界に、これだけ色と彩りを見出して生きている私たちって、すごいと思いません?
(終)
世界は白であふれてる 清瀬 六朗 @r_kiyose
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