ひゅる、ぱん、ぱらら。

花瀬

ひゅる、ぱん、ぱらら。

一人、ふらふらと花火大会に来た。


 周りは家族連れや、恋人や、友達同士。

 リア充は花火と共に爆発しろ、と思った。

 いや、花火ほど綺麗じゃないほうが良いな。


 そんなことはどうでもよくて、夏祭りの食べ物の匂い、射的の弾の音、はしゃぐ声を聞き流し歩き進める。


 自分はあの場所に行かなくてはならない。

 何故だかわからないけどそんな気がした。 

 浴衣では少し歩きにくい、舗装されていない土の上を歩いていく。

 頭の中ではずっと同じ言葉が巡っていた。


「ここで待ってるから、約束したから」


 男か女か、年下か年上か同い年か。

 そんなのわかんないけど、ただ声が聞こえる。

 あぁ、なんだか頭が痛い。

 それに、誰かが強く押された衝撃、何故か涙が溢れ、何度か立ち止まりそうになる。

 それでもあの場所に向かうため、下駄の音を鳴らして歩き続ける。

 きっと“約束”したから。


 頂上にたどり着いた時、空に火の花が咲いた。



ひゅるー、ぱん、ぱらら



 閉ざしていた記憶の鎖が花火と共に弾けた。


 そしてやっと、

    君がいてくれた。


「…遅くなってごめん」


「ずっと待ってたよ」


「ごめん…今更だけど約束、守れた?」


「……おそいよ」


 一緒に花火を見た。

 今度はちゃんと一緒に。


 どんどんあがり、消えてゆく。

 それが運命みたいに。


「花火が散ったらどうなると思う?」


「……」


「教えてよ」


「……散らないで欲しい」


「…散ったらきっと、何も残らないよね」


「……」


「でも、それでいいんじゃない?だから思い出の中に…残しておいてよ」


 そう言って君は立ち上がる。


「待って…」


「もう待てないよ。ごめんね」


「行かないで…!」


「ねぇ、花火…、綺麗?」


 君は僕の前で花火の空に手を広げた。

 しかし、君が僕の視界に映る花火を遮ることはなかった。


 花火は最後だと言うように金色の花を咲かせ、流れ星のように光の描く。


 どんな水晶よりずっと透き通った君を通してみえてしまう花火は…君は。


「世界で一番、綺麗でかなしい花火」



ひゅる、ぱん、ぱらら。



 どんな花より儚く散る。


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