僕は勇者の殺し方を知っている。⑤

ークルーガー・マルセウスには親がいなかった。


何故なら、彼は実の親に山の中で捨てられたのだから。


そして、彼は奇跡的にとある盗賊の男に拾われた。


そして、その盗賊の男にたくさんの愛を注がれたクルーガーは、いつしかその男の背中を追うことになった。


悪い人から金品を奪い、貧しい子供達に金を配るという理念に憧れるようになったのだ。


しかし、ある日…その盗賊の男はそんなクルーガーに一言だけ、言った。


『絶対に盗賊にだけはなるな。クルーガー』



ーそれから数日後、その盗賊の男はクルーガーをかばい、非業の死を遂げた。


(…………)

それから時は流れ…


エミールの心臓が止まった日の…診察室にて。


俺はエミールがもう助からないという説明を受けていた。


『エミールさんの命はなんとか取り留めましたが…現代医学・医療魔術の力では…!エミールさんは治りません。クルーガーさん…残念ですが』


俺はその時、気づいたら椅子から立ち上がり、お医者さんの瞳を見つめていた。



『クルーガーさん。一体どうし…』


『お医者さん…!!俺の心臓をエミールの心臓と交換はできますか!!?』


俺は必死に頼んだ。


俺はあの子を救わないといけないんだ。


かつて…師匠が俺にそうしてくれたように。


そして、俺は土下座した。



『お願いします!!お願いします!!救えるなら!!俺の命であの子の命が救えるなら!!!』


『俺は!!死んでも構わない!!!』


医者は少し、考えてから頷いた。


『覚悟は…できているんですね』



俺は頷いた。


そして…それから十数分後…俺の心臓はエミールの身体に移植された。




ー俺は死ぬ。


後悔は正直たくさんある。


もっと、あの子のすぐそばにいてあげたかった。


もっと…一緒にいたかった。


もっと……




でも。


これで良かった。


こんなクソみたいな人生でも… 


最後に…俺の大切な人の命を救えて。




本当に。本当に…良かった。



だからよ。ありがとうな…エミール。



俺と一緒にいてくれて。


俺とたくさん色んな話をしてくれて。



俺を……愛してくれて。



まったく……


幸せな人生……だったぜ。







ありがとうよ。エミール。


生きていてくれて。


お前の笑顔が…俺の幸せだった。




だからよ……エミール。



俺も最後にちゃんと、幸せになれたんだからよ……

お前も幸せになれよ。


いや、幸せになってくれ。


あと…すぐにこっちには来んなよ。


だって、お前には、たくさん長生きして、愛する人を見つけて、幸せに生きて欲しいんだ。



それが…俺からの……


たった一つの願いだ。








(…………)

ークルーガーさんは死んでしまった。


僕はカーテンを開け、カーテンの向こうのベッドにいたクルーガーさんの綺麗な顔を見て、その事実が現実になってしまう気がして……


僕はクルーガーの顔をしっかり見れなかった。


直視できなかった。



怖かったから。



だけど、それじゃいけないから。



僕は強くならないといけないから。



だから……!


僕は口に出して、感謝の言葉を言うことにした。



『ありがとう。クルーガーさん…!!』



『僕は貴方に育ててもらえて幸せでした…!!!貴方は僕にとっての先生であり…!!お父さんでした!!!』



ー僕はその日、顔がぐしゃぐしゃになるまで泣いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る