絶対神域千年血戦④

久しく感じていなかった地上の空気が僕らを包む。

僕らは再び、この世界に帰ってきたのだ。


『帰ってきたようだね。英雄気取りの少年と調律者の亡霊よ』


勇者はそう言って、不気味に笑った。


『英雄気取り…?』


僕は少し違和感を感じたので、奴に問い返す。

何故なら、僕は英雄気取りでもなんでもなく、伝承の英雄そのものであるからだ。


『ハハッ!そうムキになるなよ…!せっかく世界が終わるのにつまらないこと言うじゃないか!!エミールよ!』


その言葉にエミールはさらなる違和感を感じた。感じざるを得なかったのだ。だから、こう問うた。


『世界が…終わる…?どういうことだよ!!』



『言わない』


『は??』


『死人に口無しと言うだろう?それと同じで、これから死にゆく者に言う筋合いなど…ない!!』


エミールは勇者を睨む。

すると、勇者はエミールに対して、イヤに落ち着いた微笑みを見せた。


エミールはなんだこいつ、と思った。

というのも、エミールはこの勇者が何を考えているのかを、未だに一切掴めずにいた。

だからこそ、この男は不穏なのだ。


前からこの男はそうだった。

この男が村を焼いた時もそうだった。


その時のこの男はまるで自らが村を焼いていないかのような表情をしていたのだ。

まるで…自分が無辜の善人であるかのような…醜悪な落ち着きぶりだった。




…許せない。


『勇者ラングルド。お前は…勇者などではない』


『…ほう。ではなんというのかな?エミール少年よ』


勇者は顎の少し伸びた髭を手でサラサラと触り、エミールを見つめた。


『ただの大量殺戮者にすぎない…!殺してやる!!勇者ラングルド!!!』



すると、勇者はニヤァと笑い、言った。


『安心しろ。最初からそのつもりだ』


その瞬間、勇者の纏うオーラが変化した。


勇者から放たれた凍てついたオーラは辺りの草花を枯れさせ、空飛ぶ鳥を落とし、冬眠していた動物を起こすほどのオーラだった。


まるで天変地異だ。


エミールは激戦を覚悟する。




『エミール!!来るよ!!!』


『ああ!わかってる!!』


マーシャとエミールは構える。


そして一方、勇者は自らのネックレスを見つめていた。


そのネックレスの中には古びたラブレターと子供の描いた絵らしきものが入っていた。


そして、勇者は一言、言葉を漏らした。


『始めるよ。エリーカ。お父さん。お母さん。僕はもう救うべき人達を見捨てたりしない』



『この腐った世界は…この勇者ラングルドが今日終わらせる』


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