君の記憶と私の涙

マーシャ・アドミニストレーターは1人、暗闇の中で虚構を見つめていた。

マーシャは自分の名前以外のこの世界の記憶を失っていた。


もう既にマーシャの涙は枯れていた。

そして、マーシャはもう誰にも自分のことを見つけてくれないと思っていた。



もう…


誰も私を覚えてくれない。


私の大切な人すらも。


私の……大切な人…?



『エミー…ル…?』


マーシャはエミールのことを思い出し、彼との記憶が彼女の脳裏に溢れ出す。



彼女の頭の中では、エミールとの記憶が溢れて、また消えてを繰り返していた。


何度も。


何度も…!!


私は…!!


私はまたもう一度!!


エミールに会いたい!!!


『エミール!!お願い!!!私を見つけて!!!』


涙をポロポロ落としながら、マーシャは叫ぶ。


しかし、ここは暗闇。


誰も来るわけない…


・・

はずだった。






『マーシャ!!!!僕だ!!!エミールだ!!!』




『エミール…?…!エミール…!!エミールなの!!?』


暗闇の中から一筋の光が辺りに満ちる。


エミールは大魔神バベルの消した記憶の中からマーシャの記憶を探し出した。


この世界では現実とは違い、時の流れは遅い。

つまり、エミールが大魔神バベルの腹に風穴を開け、そこから露出した記憶の泉の中に飛び込んでから、マーシャを探す間にかかった時間は約一秒だが、体感では3年の月日がその記憶の泉の暗闇の中で流れていたのだ。


『良かった!!!その感じ!!僕のこと覚えてるんだな!!!』



『うん!!エミール!!私ね!!!』


『ああ!大丈夫だよ!マーシャ!!だって君には僕がいる!!たとえ死んでも絶対離さねえから!!』


『ありがとう!!エミール!!でも私ね!!もう死んでるの!!!』



『……………』


『私ね!!この世に未練があって!!!』


『そっか。マーシャ』


『エミール…!!』


『大丈夫。なんとなくわかっていた。わかっていたんだ。だから、僕はマーシャの言う事信じるよ。マーシャがいなくなるのは……ううん。なんでもない』


『ごめん!!ごめん!!!エミール!!!』


『大丈夫だよ。謝ることはない。さあ、帰ろう。マーシャ。僕らにはやることがある…そうだろ?』


マーシャは頷く。

その瞳からは既に涙が消え、覚悟が決まっていた。


『僕達で勇者を殺すぞ』 


ーこうして、僕らの最終決戦が始まった。

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