絶対神域千年血戦④

 ー破壊を司る大魔神バベル…そして英雄の身体を乗っ取った魔王との世紀の一戦が幕を開ける。


 先手を取ったのは魔王だった。


『行くぞ…大魔神バベル!』


『図に乗るなよ!!魔王!!!』


 最強対最強。


 破壊を司る大魔神vs歴代最強の大魔王。


 この戦いはそんな彼らの究極剣技のぶつけ合いで始まった。


『『 究極剣技 』』


『"斬・界"!!!』


『世界再構築剣技"壊滅"…!』


 魔王と大魔神の究極剣技のぶつかり合い。


 本来なら、魔王と大魔神の力は互角なはずだった。


 …しかし。


 魔王は英雄エミールの身体を乗っ取り、魔の力と退魔の力という相反する力を持つ最強の存在となっていた。


 そんな魔王を魔と退魔の力の両方がクリティカルダメージとなる破壊神バベルが勝てるはずがない。




 魔王は大魔神バベルめがけて高く跳び上がり、遂には大魔神の間合いを完全に侵略することに成功した。


『な…!』


『究極剣技』



『"風花・逆鱗"』


 ー究極剣技"風花・逆鱗"。


 この技は、1日に2回しか使えない英雄エミールの最大にして最強の必殺技である。


 また、反動として、この技を使った者は1秒間動けなくなるが、その程度の反動はデメリットにはならない。


 何故ならば…この研ぎ澄まされた斬撃を受けた者の中で、その技を喰らいながらも生き延びることができた者は、先代の魔王を含めてもいないのだから。



 そして…魔の力と退魔の力の両方を弱点とする大魔神バベルも、生き延びることはできない…



 はずだった。




『クソッ!がぁ!!クソッタレ…!!!!』


 大魔神バベルは、身体中から血を噴出させ、肩から腰にかけて袈裟斬りにされてもなお、かろうじて自らの命を繋ぎ止めていた。



『ほう…これを喰らってもまだ生きているか』



 大魔神バベルはこの傷を負ってもなお、魔王の前に立ちはだかっていた。


 しかし…これは明らかな致命傷で、もう当分戦闘はできないことも明白だった。




『まだだ…!!まだ終わらんわ!!究極剣技…!!』

          ・・・

 しかし、再び、魔王の無詠唱の"斬・界"が、バベルの身体をズタズタに切り裂いた。


『術の詠唱が遅い。くだらん。もう終わりか?』



 魔王は、地面に足をついている大魔神バベルに…そう言い放ってみせた。


 ーそして、これらの一連の出来事は、大魔神バベルにとって…この上ない屈辱であった。



 大魔神バベルは、歯ぎしりしながら、魔王に吠える。


『貴様…!!貴様なんぞにい!!!』



『貴様なんぞに…?全く…舐めてもらっては困る。俺は魔王だ。この魔族を統べる王にして、そしてこの世界もこれから俺に支配される』


『支配…!?貴様…!神にでもなるつもりか…!?』


『さあな』


『…………』


『まあ、答えはイエスだ。俺は…この世界に俺の臣下だけの楽園を作りたいだけだ。それ以外は神だろうが、逆らう人間だろうが…全ては邪魔者だ』


『なかなか狂ってるな。魔王…!』


『…まあな。ハハッ。それじゃあ、お喋りはここまでとしようか』


 魔王が剣を振り上げる。


『さらばだ!!大魔神バベル!!!』


 しかし…あり得ない事が起こった。




 その英雄の肉体から放たれた凶刃は、英雄ではないただの男に止められた。



 そして、更にその男は剣を止めただけではなく、魔王の肩から胸の辺りを軽く切り裂き、魔王に傷を負わせたのだ。


『きさ…ま!勇者!!』


 魔王はその男を睨む。


『悪く思わないでくれ。魔王。お前との命の盟約は破棄させてもらった。調律者でない君との盟約を破棄することはとても容易いことだったよ』



『勇者よ。どうやら、この俺を裏切ってくれたようだな。この俺を』


『ああ、そうだね』


『そもそも、俺とお前の契約は、互いに利があるはずだ。なのに、貴様は何故、この俺を裏切ったというのだ?』


『それはねえ。魔王。君は最初から僕に利用されるだけ利用されて、全てを奪われる運命だったんだよ。何故なら、君は僕の描く新世界秩序に不要だからね。わかるかい?』


『寝言は寝て言うのだな。勇者よ』


『ふふっ。冗談が好きだねえ。お前は』


『……何が言いたい』


『君はこれから消えるってのに…!君はエミールの自我には勝てない!』


『………馬鹿な。そんな話、あり得ない。この魔王の自我が、この小童に負ける…だと?』



『でも、今…胸が痛んで来ただろう?』


『…馬鹿…な!!』


『君が傷を負ったことによって、君の力が弱まった。つまり…そういうことだよ。君の自我は、消える。エミールの自我が復活する…君は、詰んだんだよ』



『クソが!!…やるではないか…!!エミール・ハーヴェスト…!!!』





 ー魔王の自我は、消える。


 魔王の手に入れた肉体は、本来の持ち主に返される。


 これらは…どうやら変えられない未来のようだ。



 そして、魔王は普通、こんな状況なら両手で顔をおさえながら、みじめったらしく叫んだりするだろう。



 しかし、この魔王は…



 最後に、こう言い残した。





『しかし…よく覚えておけ! これで詰んだのは…!貴様達のほうだということをな!!』



『だから! その時をせいぜい楽しみにしていろ!! エミール・ハーヴェスト…!! お前は、この選択を未来永劫後悔することになるだろう!!!』





 魔王の自我は、それから程なくして…消えた。


 こうして、エミールは再び身体の主導権を取り戻すことになったのだ。


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