絶対神域千年血戦①

魔王とエミールの戦いが始まって数十秒…


戦況は明らかに魔王の劣勢だった。


魔王は既に左腕を失い、腹を貫かれ、身体中には切り傷があった。


しかし…未だに大魔神バベルは動かない。


大魔神バベルは魔王を助けず、静観を貫いているのだ。



『クソッタレェェェェェェ!!!!』


みっともなく叫ぶ魔王。


『終わりだァ!!魔王!!!』


そして、英雄となった少年エミールはその魔王の命を刈り取る一撃を放とうとする。


しかし…



その瞬間を待っていたかのように、空から降ってきた弓がエミールの腹を貫いた。


『ガハッ!!』


エミールの踏み込みの速度が明らかに遅くなる。




魔王は悟った。


この弓矢は黒神にして旧勇者パーティーのヘンリーが、自らの命を犠牲にして撃った渾身の一撃だと。



ならば、繋ぐしかない。


何故なら、魔王は部下の命の重みを誰よりも知っていた。


そして、魔王は上司としてエミールを倒し、エリオットに苦戦を強いられている黒神のカルパッチョを助けなくてはならなかった。



だから、魔王はこの一撃の拳に全魔力を乗せる。



『終わりだァ!!!英雄エミールゥゥ!!!』



その一撃は魔王の全ての魔力を消費する一撃だった。



だから、まともに喰らえば、どんな生命体も助からない。




エミールは、悟った。


自分は死ぬと。



この一撃は避けられないと。



そして…最後にとある言葉がエミールの脳裏をよぎった。



ーマーシャ…




ごめん。




辺りに血しぶきが舞う。



その魔王の拳は…男の胸を貫いた。



しかし…その男はエミールではなかった。



男の名はザーグ・ハーヴェスト。


勇者ラングルドと旧勇者パーティーの弓使いヘンリーの師匠にして…


勇者ラングルドの実の父親だ。


そして…


エミールとマーシャを勇者の魔の手から救った人物でもある。




『貴方は…あの時。俺達を助けてくれた』


『…ゴホッ。大丈夫だ。お前なら…勇者を殺せる。魔王も…大魔神バベルすらも…きっとお前なら……』



『そんな…!!』


『さあ。立ち上がるのだ。1000年に一度の英雄エミールよ』




『世界を救ってこい』



そう言い残すと、ザーグ・ハーヴェストは息絶えた。




ーこの人は…俺のことを2度も信じてくれた。


なら…俺はそれに応えるまでだ。




その時…エミールの瞳に決意の炎が燃え上がった。




エミールは魔王に向けて突進する。




魔王は全ての力を使い果て、その場に倒れ込んでいた。



魔王にはもうエミールの剣を防ぐ術はもうなかった。




『終りだァ!!!魔王!!!!』


そして…魔王はエミールに心臓を貫かれた。




しかし…その時。




魔王はニヤァ、と笑った。

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