真実②

『息がない。…二人共、死んでるな』


『ああ。そうだね。僕もさっき確認した』


『にしても、コイツラ強かったなあ。俺…全く役に立たなかったぜ』


僕の名前はエミール・ハーヴェスト。


さっき勇者からの刺客と思われるマルス・エマーソンを殺した復讐者だ。


『それと、君は僕らを助けてくれた…?』


『ああ。そうだ。俺はエリオット・テンペスト。分かりにくかったら緑髪で良いよ』


『あ…ああ。よろしくな。エリオット』


『ああ!よろしく!』



(………………)


その日の夜、僕ら3人は王都の近くの空き家で寝泊まりすることになった。 


みんなが寝静まったのを確認して、僕は一人で色々考えていた。


何故なら、いよいよ明日はいよいよ勇者や調律者との決戦だから。


というのも、これは村の冬祭りに勇者が村を焼きに来たときに聞いたことだが、勇者は今は王国の騎士団長としてこの世界に君臨しているらしい。


そして…調律者は伝承の通りなら新しく建てられたエデンの神殿の中にいるだろう。


だから、勇者は確実に王都にいるし、調律者も恐らく王都にいる。


しかし、調律者や勇者を殺せば間違いなく、僕らは世界の敵になるだろう。


それに、なんの罪もないかもしれない騎士団の人達をたくさん殺さないといけないかもしれない。


マーシャが…不幸になるかもしれない。


マーシャが…



………本当に。



僕らは…




勇者を殺さないといけないのだろうか?





『なあ、マーシャ』


『どうしたの…?エミール』


マーシャは眠そうな声でそう言った。


そんなマーシャに僕は僕の気持ちを伝える。


『僕…君を不幸にするのが怖い』


『どうして?』


『だって…勇者や調律者を殺せば、君は世界に恨まれる。だから…』


『大丈夫だよ。私の先祖はね…今までたくさんの人達を不幸にしてきたの。だから……私が苦しむのは当然のことなの』



『え…それってどういう』


『ごめんね。エミール。私…真実を君に伝えるのが怖くて。君は…調律者のことをとても憎んでいたから。でも…もう言わなくちゃいけない。あの事件の真実を。そして…勇者の本当の殺し方を』


『…?』


『まず、勇者の殺し方なんだけど、勇者は調律者を殺しても殺せない』



『…え』



『何故なら、調律者の権能は既に魔王によって奪われたから。だから…今の世界の実質的な管理者は魔王なの』


『え…そんな!それって…』


『それじゃあ…!魔王が全て悪いってことじゃないか!マーシャ!!』



『…うん。そうだね』


『それじゃあ、僕のやった契約は…禁忌の術はなんだったんだ…』


『大丈夫。まだ焦らなくて良い。だって、禁忌の術は堕天と違って魔王に操られることはない』


『マーシャ…禁忌の術のこと…知ってるの?』


『うん。私ね。一回魔王に権能を奪われたあとの調律者様に会ったことがあるから。そのときに色々教えてもらったんだ』


『そう…なんだ』


『だから、権能が魔王にある以上、勇者は魔王を殺さないと殺せない。そして…その魔王は不死身で、除魔の力を持つ1000年に一度の英雄の力じゃないと倒せない』



『そんな…!!』


『でも大丈夫』


そんなとき。


マーシャは僕のほっぺたにそっと口づけをした。


その口づけへの返答として、僕はマーシャを抱きしめる。


そんな僕に、マーシャは言ってくれた。


『大丈夫。エミール。君ならその英雄になれるよ』


『ありがとう。マーシャ』







僕はそのとき、左腕に激痛を感じた。



最初は、左腕の傷がうずいただけだと思った。


しかし、左腕を見てみると…


弓矢が突き刺さっていた。



しかも…この感じ…毒矢だ。


やばい…苦しい…意識が。


『エミール!!しっかりして!!!エミール!!!』


マーシャの声が頭の中でぐるぐる回る。


くそ…これは重症だな。



くそ…一体誰がこんなことを。




ーこうして、僕は気を失った。




そして、それからすぐにその魔族は空き家のドアを開け、姿を現した。


『おお!!あのエミールが倒れている!!流石魔王様が最も信頼している人間だよ!!ヘンリーは!!!世界に一本しかない最強の毒矢を仕入れてくれるなんて!!』


『ヘンリー…?それと、貴方は魔族だね。相当強そうだけど、上級魔族?』


マーシャがそうその男に聞くと、男は不機嫌そうに返す。


『上級魔族…?そんな奴らと一緒にされると困るなァ!!俺達は"黒神"!!5人しかいない魔王様直属の親衛隊だよ!!まあ、そのうちマルスとナターシャはお前らに殺されたみたいだけどな!!』


『そう。やはり、元勇者パーティーの人達は全員魔王の駒だったのね』


『ああ!そうだ!ほとんど正解だ!でも残念ながら、勇者については俺も知らないがね!だが、これはお前は想像できたか?』


『…え?なんで』






すると、何者かが空き家のドアを律儀に開け、現れた。


その男は魔族でありながら、高潔で礼儀とはなんなのかを知っていた。


何故なら、その男は魔王だったからだ。



『こんばんわ。マーシャ・アドミニストレーター』


『嘘…なんでここに…魔王が』


『奇襲だよ。マーシャ・アドミニストレーター。奇襲こそが数ある戦術のなかで最強だと俺は思っている。君もそう思わないかね?』



マーシャは杖を構えた。


『無駄だ。マーシャ・アドミニストレーター。君は俺達を前に何もできない。あと数時間で全世界に散らばっていた数万の魔族たちや数百の俺の幻影がこの空き家を包囲する』


『でも…』


マーシャは魔王を睨む。


『魔王が死んだら、全ての魔族や幻影は死ぬんでしょ?』



『…当たりだ。だが』


『それはこの魔王を倒してから言いたまえ』



ーマーシャはこの時、とある事実を頭の中で反芻していた。


"魔王を倒せば、勇者は死ぬ。そして、勇者を殺す唯一の手段は魔王をころすことである"



そして、マーシャは覚悟を決める。


そう。


もう一度、禁忌を犯す覚悟を。










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