花束・黒髪・君と夏④
『そうか。君は調律者を殺したうえに、大切な人を失った悲しみのあまり数百人の無辜の民を殺した大量殺戮者になってしまったんだね』
殺人鬼となったマルスの前に立ちはだかった魔王はニヤニヤしていた。
マルスは不穏だと思いつつも、ダルそうに言った。
『ああ。そうだな。…で。何しに来た。魔王。殺すぞ』
『殺す…?怖いねェ!でも…俺は君には他の誰にもない魅力があるんだと、俺は前々から思ってたんだよ。なあ、そうだろ?マルス』
『…??』
『君はとっくに気づいてるはずだ。君は…勇者が死んだ今…この世界で俺の次に強い生命体となった!そんな君を俺はどうしても従順な駒にしたいんだ』
『…は??』
『もちろん、君に拒否権はない』
魔王はマルスの体を魔剣で貫いた。
『が…!がは』
『俺の魔剣は貫いた対象を問答無用で堕天させることができる。そして、堕天した人間は全員俺の操り人形だ。…まあ、貫いた対象がもし既に死んでいたなら死ぬ直前の状態で蘇らせる形になるがな』
『なら…勇者も…ラングルドも…既に』
すると、魔王は嬉々として語る。
『ああ、そうさ…!だが…勇者だけではない。半分不死身のヘンリーも…そして君の最も大切な人も既に俺の操り人形さ!』
『…クソ』
ごめん、ナターシャ。
俺…
どうやら、これからも人をたくさん殺さなきゃらしい。
『他に何か言う事あるかい?』
『…とっとと死ね。クソジジイ』
すると、魔王はニャアッと笑った。
『それなら無理だねえ!!何故なら俺はつい最近…完全に不死身になったからねェ!!』
『ふじ…み…?』
意識が…消えていく。
『君にはそのことは教えない。これは重大な俺の秘密だからね…万が一君の記憶が復活したとき困るからね』
魔王が何言ってるか聞こえなくなってきた。
ごめん…ナターシャ。
俺は…
本当は君と一緒に魔王を倒しに行きたくなかったんだ。
また…魔王に大切な人が殺されるのが嫌だったから。
だから…魔王をあまり苦労せずに倒せそうだと思ったときは、心底嬉しかった。
でも…それは違った。
魔王は強かった。
そして…世界は俺達に厳しかった。
そして…俺はたくさんの人を…殺した。
にしても…
俺の大切な人…全員死んじゃったなあ。
全く…クソみてえな…人生だったぜ。
だから…もし戻れるなら。
君ともう一度恋をして……
結婚して…子供を一緒に育てて…幸せになりたい…な。
(………………………)
ーこうして、俺の長い長い走馬灯は終わり、俺の意識は闇に落ちる…
・・・・・
はずだった。
『え??ここは…?』
気づいたら、俺は真夏の花畑の中にいた。
辺り一面、たくさんの花があった。
俺は…死んだはずじゃ。ここは…あの世?楽園?天国??俺は地獄に落ちるはずなのに…なんでここに。
『マルス!!こっちだよ!!』
この声は…?
俺は声がした方向に振り向く。
すると…そこには。
花嫁の姿をしたナターシャがいたんだ。
『マルス!!!ぼ〜ってしてないで!!結婚式の続き!!ほら早くやるよ!!』
結婚式…走馬灯の続きか?
いや、違うな。
多分、ここはあの世だ。
それなら、未練がないようにしないとな。
そう思った俺はそんなナターシャを抱きしめた。
それから、ナターシャの黒髪を触れてみた。
本当に奇麗な黒髪だなって思った。
そして、微笑むナターシャに言った。
『ありがとう。君に出会えて幸せだった』
それから、俺は花畑の中からよりすぐりの花を集めて、花束にした。
そして、ナターシャに手渡した。
『どうか俺のことを…!!』
『マルス…?』
『いいや。なんでもないや』
そして、俺は地平線に向かって進み始めた。
『君はついてくるな。これから先は地獄…』
『駄目ェ!!!私を置いてかないでえ!!!』
ナターシャは俺を抱きしめた。
抱きしめて、離さなかった。
俺が離そうとしても、決して離さなかった。
『ナターシャ…なんで』
『私もね!!堕天してたときにたくさん人を殺したから!!私も地獄に行くべきだから!!だから!!私も一緒に罪を背負わせて!!!』
『ナターシャ…』
『一人で!!一人で苦しまないでえ!!!』
『ナターシャ…俺は』
『俺は』
『やっぱり君がいないと駄目だ』
『うん!!一緒に地獄で償おう!!』
ーこうして、俺達は地獄の業火に焼かれ、地獄に落ちた。
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