花束・黒髪・君と夏③
俺達、勇者パーティーの冒険が始まって1ヶ月…
俺達はあれ以降、魔王の幻影を順調に倒していき…
遂には魔王城までたどり着いた。
ーおかしい。あまりにも順調すぎる。
俺はそう思った。
だが…そんな俺に対して、勇者はこう言った。
『大丈夫。なんとかなるさ』
ー本当に…そうなのかな。
まあ、なんとかなるか。
そして、勇者は魔王城の扉を開けた。
そして、俺達は魔王城の玉座の間に入った。
しかし…そこには。
『誰も…いない?』
そう…そこには魔王はいなかった。
『なんで。こんなことって…!』
ナターシャはそう嘆く。
『これじゃ…!魔王を倒せないじゃねえか!!』
ヘンリーも右に同じだった。
そして…無論、俺も正直困惑していた。
そして…自分達の強さに自惚れていた俺は、魔王が俺達から逃げ出したんだとばかり思っていた。
しかし…その次の刹那。
『ここは戦場だぞ?勇者殿』
血しぶきが舞う。
『気を抜いては駄目ではないかァ』
『は??なんで…ラングルド』
『嘘…そんな』
『ラングルドオオォオオォ!!!!!!』
俺は叫ぶ。
何故なら、ラングルドの心臓は、暗闇から姿を現した魔王によって貫かれたからだ。
なん…で…
クソっ…!
クソオオオッ!!!
俺は甘かった!!!
俺が慢心していなければ!!
周りに気を配っていれば!!!
勇者は死なずにすんだのに!!!
『大丈夫だよ。みんな…また会える』
『ラングルド…!』
『勇者よ。この俺相手に何をするつもりだ』
すると、ラングルドの顔つきが変わった。
『"転移魔法"!!命令する!!マルス、ナターシャ、ヘンリーをどこか遠くへ飛ばせ!!!』
『クソっ!!逃がすか!!』
魔王は声を荒げ、焦る。
しかし、その凶刃が俺達に届くことはなかった。
何故なら…魔王が気づいたときにはもう既に転移魔法によるワープは完了していたからだ。
俺達はラングルドに命を救われた。
しかし…勇者は死んだ。
ラングルドは……死んでしまった。
だから、もう魔王に勝てる術は残されていなかった。
ーもう、何もかも終わりだ。
そう思った俺達は、勇者パーティーの最高管理者の調律者様の元へ帰った。
何故なら…俺達はこれ以上。
仲間を失いたくなかったから。
(………………)
ー王都のエデンの神殿の謁見の間にて。
『よくもノコノコと帰ってこれましたね。勇者一行…いいや、肝心の勇者がいなくなった腰抜け共よ。私は調律者として…この世界の管理者として言おう。貴様らには大いに失望したぞ』
この調律者様の歳はもう既に100歳を超えていた。
つまり、今の調律者様は何故か今日まで生きながらえてきた幸運の持ち主である。
『は…!!申し訳ありません!調律者様!!』
俺達は地面に額をつけて、土下座する。
許しを請うために。
『良いでしょう。勇者パーティーの残党共よ。私はそなたらを許します。もちろん、それはそなたらの仲間を失った苦しみを考えた結果である』
『ありがたいお言葉…!』
『ただし、それはそれとして世界はお主らを許してくれない。このままではお主らは天国に行けないであろう』
『は…?』
『だから、私が直々に手を下すことにした』
なんで…調律者様が……
調律者様は杖を手に取っているんだ?
もしかして…俺達は、見捨てられたのか?
『これは天誅である。この制裁を甘んじて受ければ、そなたらの天国への道は開かれるであろう』
ーこの世界に情けなんてものはない。
ただ、あるのは目を覆いたくなるような理不尽と厳しい現実だけだ。
そのことを今までの俺は理解していなかった。
だけど、ようやく分かった。
『クソっ…!!!クソオッ!!!』
この世界は…
『クソオオオォオオォオオォッ!!!!』
地獄だ。
俺はこの世界への果てしない怒りを剣に込めて、調律者様を斬ろうとした。
しかし、調律者様は俺なんかよりもはるかに格上だった。
『世界反転ー"滅"』
すると、俺はあまりに強烈な光に包まれ、目が数秒見えなくなった。
ー俺、死んだな。
ナターシャもこれを喰らって、死んでしまったのかな?
エミールも…
ナターシャも…!!
…そっか。
やっぱり…
俺は無力だ。
俺は結局…2人を守れなかった。
(………………)
そして、数秒経った。
目を開けた。
すると、砂ホコリや煙があたりを舞っているのがわかった。
ここは…?
神殿の跡が見え……
まさか。
俺は…
生きているのか?
あれを喰らってなお…俺は。
この時の俺は自分が何かの力に覚醒したのだと思っていた。
小説や演劇でよくある王道展開だ。
しかし、今思えば現実はそう甘くはなかった。
人はそう簡単に変われないし、強くなれない。
これが世界の絶対的なルールだと、この時のことを思い出すと…本当にそう思う。
そして、この時の俺は立ち上がり、前を見た。
調律者を殺すという覚悟を示すために。
しかし、そこにいたのは調律者だけではなかった。
ー黒焦げになったナターシャが…そこにはいた。
彼女は…俺の世界で最も大好きな人は……
既に立ちながら、死んでいた。
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