花束・黒髪・君と夏②
俺は死ぬ直前、走馬灯を見た。
それは仲間たちと在りし日々の思い出…
そう。
俺の苦しくも、助け合い、乗り切った苦難の日々の記憶だ。
ー物語の始まりは…16年前のとある蒸し暑い夏の日のこと。
勇者が俺とナターシャの元へやって来た。
『僕は勇者というものだ。君たち…僕と一緒に魔王を倒してくれないか?』
勇者はいきなり現れて、俺達を誘って来た。
普通の人ならここで断るところだろう。
だけど、その誘いに対する俺達の答えはYesだった。
そして、俺達はこの選択をすることに、迷いはなかった。
何故なら、俺ら二人はお互い…魔王に家族を皆殺しにされたのだから。
こうして、俺達は村のみんなに別れを告げた。
そして…出発した。
しかし、この時の俺達は知るよしもなかった。
この世界の本当の厳しさを。
そして…魔王を殺す真の意味での覚悟なんてものは、この時の俺達にはなかった。
しかし、俺達はすぐにこの世界の本当の厳しさを知ることになる。
何故なら…俺達の仲間の弓使いのヘンリーが旅が始まって5日目の朝に…
魔王の幻影によって心臓をえぐられ、殺されたからだ。
『なあ、俺を勝手に殺すなよ〜。めんどくさいから死んだふりしてただけだろ?な?』
『『は??』』
魔王の幻影を俺達が倒したあと、何事もなかったかのようにヘンリーは起き上がった。
『ああ、そうか。お前らには言ってなかったか…俺はな。半分不死身なんだよ。死のうと思っても、脳みそを貫かれないと死ねないんだよ。体質上』
『お前…生きていたなら先に言えよ…良かったあ』
俺は安堵した。
しかし、ナターシャは少し怒っていた。
なんで生きていたなら、私達のことを助けなかったんだって。
そう怒った。
だけど…それと同時に…生きていてよかったって、言いながらヘンリーの肩をポンポンと叩いてもいた。
俺達はヘンリーのことが、まだ出会って5日だけど…大切だった。
そして…それはこの時のラングルドも同じだと…
今でも、俺は本当にそう思っている。
そして…ラングルドは微笑みながら、ヘンリーに言った。
『生きていて良かったよ。ヘンリー』
その時のラングルドの笑顔は少し…始めて見せるような笑顔だった。
というのも、今までのラングルドの四六時中見せていた笑顔は作り笑いみたいな感じだった。
だから、俺は最初はラングルドのことが正直怖かったし、何か企んでるんじゃないかって思った。
でも…この時の俺のラングルドに対する疑念は消え去った。
何故なら、ラングルドの笑顔は本当に嬉しそうで、あまりにも無邪気だったから。
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