契約

『禁忌の術とは…端的に言えば魔王との契約だ』


魔王との契約…


その言葉の重みを僕は瞬時に理解した。


僕はお母さんの方を心配だと思って見た。


やはり、お母さんの指は震えていた。


『お父さん!エミールに魔王と契約させるなんて…!』


お母さんはコーヒーの砂糖を入れるスプーンをテーブルの上に落とした。


依然として、お母さんの手は震えている。


『だからこそ、エミール。これはお父さんからの提案に過ぎない。エミールが選びたい方を選びなさい』


『お父さん。お母さん。僕は…』


僕はお父さんとお母さんの目をしっかり見つめてから言った。


『僕は魔王と契約する』


『…そうか。なら、お父さんは何も言うまい』


『エミール…!』


お母さんが僕の目を心配そうに見つめる。


『心配しないで。お母さん。僕は決して魔王なんかに支配されない。あくまで利用するだけさ。勇者を倒したら、僕は魔王も倒すつもりだよ』


『エミール…!』


僕はお母さんにハグした。


『大丈夫だよ。お母さん。僕はあと10日間で全ての役割を果たしてみせるさ』


そして、僕はお母さんから離れ、地平線の向こうにある夢の狭間に向かって歩き始める。


『いってきます!お父さん!!お母さん!!』


僕は後ろに向かって手を振る。


すると、後ろから声が聞こえた。


『『いってらっしゃい!!また迎えにくるから!!!それまで元気でね!!!』』


僕は涙を噛み締めながら、頷いた。



(………………………)


歩き始めて、数十分。


夢の狭間に着いた。


これが次元の狭間か…




『エミール…だよね?』


そう感じていた僕の後ろには気づけば、誰かがいた。


ー麦わら帽子を被った可愛らしい幼女。


その幼女は幼い頃のマーシャにそっくりだった。


まるで本物のような…


本物…?


『私は5歳のマーシャ。貴方は何年後のエミール?』


『11年後だよ』


僕は優しく答えてやった。


にしても…


この幼女はマーシャで間違いないな。


それにしても…


マーシャがなんでここに…


『私ね。エミールにお願いがあるの』


『…?何でも言ってごらん』







『いつか…』


『私を殺しに来て』



マーシャを…殺す??


『マーシャ!!』


僕は後ろを振り向いた。


しかし…そこには誰もいなかった。





それにしても…殺す??


マーシャを??


なんで??




いけない、いけない…考えるのは後だ。


今は時間がない。


まずはこの夢の狭間の向こうの"魔王の夢"にいる魔王と契約を交わさないと。


(………………………)

ー"魔王の夢"にて。


僕は遂に魔王と対峙するに至った。


『君がエミール・ハーヴェストか』


『ああ、そうだ。お前が魔王か?』


『ああ。そうだとも。エミール・ハーヴェスト!俺は君を歓迎しているよ!!だが、その前に…一つ質問をよろしいか?』


『ああ。良いぞ』


『それはな。何故、君は村が襲われる前にあの残影を殺さなかった?』


『あの残影…?』


『ああ。そうだな。俺が作った俺の力を模した操り人形だ。お前が雪山で出会ったのはその残影だ。君ほどの力があれば、勝てたはずなのにどうしてだ?エミール・ハーヴェスト』


あれが残影!!?


あの雪山で恐ろしい魔力を放っていたあの魔物が魔王の残影に過ぎない…だと!?


どれだけ底が知れない男なんだよ…!!魔王!!!


『まあ、良い。君は俺と契約を結びたいんだな?』


『ああ、そうだ。それで条件なんだが…』


『条件…?そんなのいらない!いらない!』


すると、魔王は僕に近づいてきて、僕の顔を覗き込んできた。


その魔王の表情は…醜悪そのものだった。


『君はあの勇者と調律者を殺してくれさえすれば良い』




ーこうして、僕は魔王との契約を結び終え、右腕が治った状態で生き返り、目覚めた。


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