夢②
ー時間は僕がまだ夢の中にいたときに戻る。
僕はベランダでお父さんの隣に座っていた。
『エミール。勘の良いお前なら、なんとなく分かっているかもしれないが』
『僕はあと数時間で死ぬ…だろ?』
僕は少し悲しそうに言った。
『……そうだ』
『お父さん、大丈夫だよ。自分の死期ぐらいわかってる。この世界からでも自分の肉体が限界に近いことがよくわかるからね』
『それとありがとうな。お父さん』
『急になんだよ。エミール。父さん照れるぞ』
『ずっとお父さんが僕に危険を教えてくれていたんだよね?』
『………』
お父さんは恥ずかしそうに咳払いした。
『どうして分かった』
『なんとなく…あの狙撃手と戦ってたときに聞こえた声がお父さんそっくりだと思ったからね。それに、勇者に村を襲われたとき聞こえた声だって、あの時点でお父さんが死んでいたのなら辻褄が合う』
『フフッ。そうか。でも結局…お前の命を救えなかった役立たずの父さんを許してくれ』
『そんなことない。お父さんはじゅうぶん僕の危険を知らせてくれた。昔は疑っていたけど、本当に大切な人が死んでも…』
僕は自分の手を心臓の鼓動が聞こえるところに軽く添えて、言った。
『その人の心は…ここにある』
お父さんは大粒の涙を隠そうとして手を覆った。
息子にカッコ悪いところを見せないために。
だけど、そんなことしなくて良いんだ。
『泣いていいんだよ。お父さん』
僕がそう言うと、お父さんは僕の胸に抱きついて嗚咽した。
やっぱり、辛かったんだろう。
苦しかったんだろう。
自分の息子が死んでしまうことが。
『ごめん!!ごめんよお!!!エミール!!!俺は!!!俺はァ!!!お前を!!救ってあげられなかった!!!お前は!!もっと長生きしたかっただろうになあ!!!マーシャを助けて!!2人で幸せに生きたかっただろうに!!!なのに!!あのとき!!お前の後ろにいた2人の刺客にもっとはやく俺が気づいていたら!!!こんなことにはならなかったのに…!!!クソオッ…!!ごめんよ!!!ごめんなぁ!!!』
『そんなことないよ。父さん』
『エミール…!!!』
『僕はお父さんの息子に生まれて良かった』
『ああ!!!!ありがとう!!!俺もお前が…!!!俺の息子で本当に良かった!!!!』
(………………)
それからお父さんが泣き止んでから、お母さんが昼飯を持ってきてくれた。
僕はそれを食べた。
最後の晩餐だと思って。
たとえ夢の中でも。
お母さんの作る温かいハンバーグは…
涙が出るほど美味しかった。
そして、僕は温かいスープを飲み干し、温かくてサクサクのパンを完食し、『ごちそうさまでした』とお母さんの顔を見て言った。
すると、お母さんは微笑んでくれた。
だけど、そのお母さんの瞳には少し涙が溜まっているようにも見えた。
僕はそんなお母さんに言った。
『すごく!すごく美味しかったよ!!やっぱりお母さんは料理の天才だね!!』
お母さんは何度も頷いた。
そして、そんなお母さんの顔から大粒の涙が流れ出した。
僕はそのお母さんの瞳をじっと見つめて言った。
『僕はお母さんの息子に生まれて本当に良かった』
その言葉を聞いたあと、お母さんは地面に泣き崩れた。
僕はそんな嗚咽しているお母さんの肩を撫でながら、言った。
『お母さん。僕は世界一幸せな息子だよ。…だって…!!お母さんやお父さんのような優しい人に愛を教えてもらえて!!!本当に幸せだった!!!だから!!僕は幸せだよ!!お父さん!!!お母さん!!!』
僕がそう言うと、耐えられなくなった僕もお父さんも涙が止まらなくなって、嗚咽した。
(………………………)
それから15分ほど経って、僕らはだいぶ落ちついてきた。
そして、僕らはベランダのデッキの椅子に座って3人で色んな話をした。
すると、そんなときにお父さんが僕の瞳をじっと見て、言った。
『なあ、エミール』
『どうした?お父さん』
『お前の命をあと10日間だけのばすことができる禁忌の術がある』
『…え?』
『これからその禁忌の術がなんなのかを説明するから、その後にどうするか決めてほしい。…もちろん、すぐ決めないでいいが…時間がない。できるだけ早い返答を頼む』
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