夢①

『おかあ…さん…?おかあさん!!』


僕はお母さんに抱きついた。


そして、嗚咽した。


すると、お母さんは微笑んで、僕の肩を撫でてくれた。



『お母さんにはわかってやれないけど…きっと貴方は辛い…苦しい冒険をしてきたのね』


僕は泣きながら、頷いた。



(………………)



数分後、僕は泣き止んだ。


多分、今日たくさん泣いたのはきっと、あの変な夢を見たせいだ。


勇者が僕らの村を滅ぼす夢…


そんなことあるわけないのに。


正夢になるわけないのに。


何がそんなに悲しいんだろう…


何がそんなに心を締め付けるんだろう…


『また悲しい顔してるけど大丈夫?エミール』


お母さんは心配そうに僕を見つめてくれていた。



ーやっぱり、お母さんは優しいな。


そう思った僕はそんなお母さんの肩をポンポンとたたいた。


そして、微笑み返した。


『大丈夫だよ。お母さん。きっと何か悪い夢を見ただけだよ』



そして、それからお母さんに僕はいつも通り、行ってきますって言った。


そしたら、お母さんはまた僕に微笑んでくれた。


『いってらっしゃい!エミール!!』


(………………)

僕はそれから、学校に行く前にお父さんのいつもいるベランダに行った。


そして、お父さんはいつも通り、そこにちょこんと腕を組みながら座っていた。


僕はお父さんに話しかけようとした。


『あの…お父さん……』


『お前は俺の自慢の息子だ』


僕は涙をお父さんに見せまいとして、少し下を向いた。


『お父さん、本当にありがとう。僕はお父さんやお母さんの息子で本当に良かった』


『…そうか。ありがとう。やっぱりお前は優しいな』


お父さんは横からみてもわかるぐらい嬉しそうだった。


でも、それから少し経つと空気が一変した。


『エミール。お前に大切な話がある』


『どうした?お父さん』


『お前にこれを言うのは本当に辛いが…だが言わなければならない』


『お前のお父さんとお母さんは既に死んでいる』


『え…?』


お父さんとお母さんが死んでいる…?


なんで。


だって。


目の前にいるじゃん。


『良いか。エミール。これは敵の攻撃を喰らったお前が見ている夢にすぎない』


『なんだよ…それ』


『お前は勇者側の刺客二人に襲われて、生死を彷徨っている。当分目を覚ますことはないだろう』


『だからこの世界が夢だって…?』


『ああ。そうだ』


ふざけてる。


あんな世界、俺は認めない。


僕は…!!


僕は!!


『僕は!!あんな世界認めない…!!!お父さん!!お母さん!!勝手に死ぬなよお!!!くそお!!!』


『エミール…』


『僕は結局…!!お父さんとお母さんも…!!村人のみんなも!!何も守れなかった!!!何も!!何も守れなかった!!!』


僕は本当に情けない。


叫びながら、嗚咽して、吐きそうになった。


本当にみっともない。


哀れな男だ。


涙がとまらない。



『お父さん…思い出したよ。僕はあの村の人達を…!救えなかった!!僕は…!!無力だ!!』


『いや、それは違うぞ』


『お父さん?』


『お前は無力なんかじゃない。お前は村一…いや王国一の天才剣士だ。あの勇者や魔王を倒せるのはお前だけだ』


『お父さん!!僕は…!僕は!!』


『今はゆっくり休め。お前があの瀕死の状態から目覚めるにはかなりの時間がかかるだろうからな』


『うん…!そうするよ。ありがとう…お父さん』


『落ち着いたか?息子よ』


『うん。ありがとう。お父さん。…あのね。お父さん』


『どうした?』


『僕はマーシャを絶対に守るよ。マーシャの命や幸せを一番に考える。もうこれ以上、誰も殺させない。僕の大切な人は僕が守る!!』


すると、お父さんは僕の肩を強く叩いた。


『…痛いよ。お父さん』


『そこはありがとう…だろ?』


『うん。ありがとう』


『大丈夫。お前ならできる。何故なら、お前は父さんの息子だからな!!』



ーこうして、僕はしばらくこの夢にとどまることになった。







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