復讐②

『目を覚ませ。危機が近づいている』




そんな声が夢の中で聞こえて、僕は目を覚ました。




危機…?




前にもこんな夢の声が聞こえたことがある。




昨日の夜に村が襲撃された時だ。




……………


僕とマーシャは勇者パーティーのアジトが何処かを探している最中だ。




全ては勇者とその旧パーティーの3人を殺すために。




その情報探しの途中で見つけた小さな町の宿に僕らは泊まることにした。




そして、そこで眠りについた後、さっきの変な声で目覚めたわけだ。




僕は窓を寒くならないようにほんの少しだけ開けて、雪を眺めた。




明日の旅は長くなるだろう。




そのために、今は早く寝ないといけない。




だから、無数の雪を数えて、眠くなろうとしたわけだ。




それにしても…




危機って………




……まさかな。












(………………………)




『気をつけろ。攻撃されている』




(………………………)










…??何だ…今の声……は……?




僕は目を見開いた。




その瞬間、眠気なんてとうに吹き飛んでしまった。




何故なら、僕が開けた窓の隙間から、突如として侵入してきた弓が僕の左腕を貫いたからだ。




『ぐああああああ!!!!』




僕は思わず叫ぶ。




痛い…!!クソッ゙!!




どこだ…!!?




狙撃手は何処にいる!!?




『どうしたの!!?エミール!!!……あ…腕が』




『マーシャ!!敵は遠くにいる!!遠くから狙撃されてる!!…そして』




『この遠くからの魔力の出力!!また来る!!マーシャ!!物陰に隠れろ!!』




『うん!!』




僕とマーシャは近くにあった本棚の後ろに隠れた。




しかし…




『逃さねえよ』




狙撃手はそう言って、獲物のあまりの滑稽さに口角を上げた。




何故なら、獲物襲った第一の矢は一点集中型であったが、第二の矢は魔力で造られた広範囲型の爆弾矢であり、その威力は…




宿周辺一帯を滅ぼすほどの威力だからだ。




『宿の人達はツイてなかったな。この脱走者2人がいなければこんなことにはならなかったのに…』




マーシャとエミールが泊まっていた町は滅びた。




『まあ、でも流石にこれは奴らも重症だな。それでは…"チェックメイト"といこうか』




(………………)




僕は顔を上げた。




すると、辺りは焦土と化していた。




なんで…




こんなことに……




マーシャは無事か…?




マーシャ…




『エミール……』




『マーシャ……!!』




『エミール…逃げて。追撃が…来る』




マーシャ………これは…




俺なんかよりずっと酷い傷だ。




マーシャ…クソ!




それに…




宿は消えたのか?




僕達が町の宿に泊まったせいで…宿に泊ってた人達は…!!






ああ!!




僕は…!!僕は!!!




『クソッッ!!!クソオオオオッッ!!!』






『じゃあな。村の脱走者のマーシャ一行。お前たちはこの地上最強の狙撃手ヘンリー・テイラーが討ち取った!!!』




いや!!違う!!!




今は自らの犯した罪のことを考えるな!!




罪の意識に囚われるな!!!




怯えるな!!




うろたえるな!!!




後悔は後だ!!!




今はまずマーシャを守れ!!!!




この世界で生きたいなら…!!!




覚悟を示せ!!!エミール・ハーヴェスト!!!




僕がマーシャを守る!!!その覚悟を!!!




『顕現せよ。我が矢に宿れ。"閃光の不死鳥"』




『させない!!!』




僕は魔力探知を頼りにして、やつの魔力が感じられる方向めがけて全速力で走り出した。




『無駄だ!!!俺の"閃光の不死鳥"のチャージ時間は30秒間!そしてあの宿から今俺がいる崖までの距離は高低差を除いて一キロメートル!!貴様は俺には勝てない!!貴様は俺には勝てない!!!チェックメイトだぁ!!ガキどもがぁ!!!』




『それがお前の遺言か…??』




『は…?こんなことあるはずない!!』




僕は奴が必殺技を撃つ前に、走りながら奴の背後に回り込んだ。




『殺してやる!!エミール・ハーヴェストオ!!!!』




奴は僕に向けて、拳を振り上げた。




しかし、その拳が当たる前に、僕はその狙撃手の首元を剣で塞いで、その狙撃手を制圧した。




『くそ…なんでだ。なんで』




狙撃手はそう言ってうつむく。




『まあ、俺は昔から走るの速いし…お前が隠れてる場所も数回派手に魔力放出してたから、さっきようやく隠れてる場所がわかった…これで理由は十分か?』




『フフッ!!フハハハハハハハ!!!』




そう言うと、狙撃手は使っていた弓を遠くに投げ捨てた。




戦うのを諦めたのか…




それとも……まだ何かあるのか?




いや、それはないだろう。




何故なら、こいつからは今はなんの殺気も、覇気も感じられなくなったのだから。




まあ、仕方ないか。




こうやって制圧された以上、詰みだろう。




…さて。




情報を吐いてもらおうか。




『面白い!!確かに!お前は特別だ!!エミール・ハーヴェスト!!!お前は我らが勇者と同じように天才の部類なのかもしれないな!!!あの勇者が認めるわけだ!!!』




『……言いたいことはそれだけか?』




『特にもう何も言うことなんてねェよ。殺すならはやく殺せ。俺はこの戦いで勝つことを諦めた。お前みたいな化物相手に自分の苦手な間合いで戦うことよりアホなことはこの世にない。しかも首を剣で塞がれてるし』




『………………』




『ああ、言い忘れてた。お前は強いから、多分勇者パーティーの残り2人を倒すことができるだろう。だがな。勇者には…あいつだけには勝てない』




『そうか』




『他に聞きたいことは無いのか?どうせ俺は死ぬ。最後に全て話してやるよ』




『信用して良いのか…?もし嘘を言ったら地獄まで殺しに行くぞ』




『おお!怖い怖い!!だが、そんなことをして俺になんのメリットがある?俺は元々勇者のあいつが嫌いなんだ。あいつは…堕天する前から底が知れねえっていうか……何を考えているか分からなかった』




『堕天…?』




『ああ、そうか。お前は詳しくは聞いてないのか。それじゃあ、特別に冥土の土産に訓えてやるよ。堕天とは何なのかをな』


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