第12話 怜也の日記⑤

―――6月25日の出来事―――

〜午前〜


今日の起床は5時ちょうど。夜中は11時50分に目が醒めた。妻に電話をした。

いつも優しく話を聞いてくれる。そんな妻が大好きだ。早くアパートに帰りたい。

朝からデイルームでは眠れない人達で溢れている。

梨山さんと女性が喋っていた。女性は幻覚と幻聴に悩まされているようだ。

俺と同じだ。これは、本当に相当、しんどい。気持ちは痛い程、よく理解る。

ずっと思い悩んだ表情をしている。少し心配だ…銀築さんと5時〜将棋を指した。

途中まで順調に攻めていたが、まさかの一手詰で敗戦。終わった時間は5時15分。

まだ点灯まで時間はある。どうしたものか…。梨山さんと中庭でウォーキング。今後について話した。

6時。TVをつけた。占いを見た。日本とイギリス王室の交流。VivienneWestwood好きな私からすると

嬉しいニュース。また銀築さんと将棋を指す。朝食が来た為、一旦、中断。

朝食はメロンパンとみかんの缶詰、豆の入ったおからに豆乳。ダイエット食。とにかく痩せたい。

将棋を再開。結果は接戦の末、勝利。めちゃくちゃ嬉しい。

早出の看護師が来た。おはよーございまーす。さてさて、もうすぐ朝の服薬。

それが終わればお風呂に入ってゼロコーラを飲む。それから…何をしよう。

とりあえず、申し送りが終わるまで眠ります。暫し、おやすみ。

申し送りが終わった。古村さんが申し送り担当だったみたいだ。

古村さんはこの仕事初めてなようで、緊張していた。

何とか頑張って申し送り終わったみたいだ、拍手!!

検温は朝から来て貰ったので、薬を飲んだらお風呂だ!!お風呂に入ったら

売店でゼロコーラと蒲焼さん2枚、ビッグカツ1枚。アイスの白くまは今日は無かった…。

ある程度、村上さんと大笠さんと宴会を楽しんだら、摂ったカロリーの消費の為、ウォーキング。

銀築さんと将棋も指して、めちゃくちゃ眠くなる。微糖のコーヒーを飲んでも眠気は覚めない。

少し仮眠を摂った。看護師の美山さんに手記を見てもらっていると昼食が来た。

そんな時、猛烈な腹痛に襲われた、ピコの効果がやっと出た。ほぼ3日ぶり。お久しぶりでーす。

配膳は完了しており、急いで豚丼を頬張った。明日は外泊。既に煙草が吸いたいー

そんな事を考えている。午後の12時45分を時計は指していた―――


〜午後〜


午後からはひたすら暇な時間がゆっくりと流れる。妻も仕事中。OT(作業療法)は体操で興味はナシ。

美山さん(看護師)を捕まえて、ひたすら日記を読んでもらう為、詰所前で待つが忙しそうだ。

大笠さんが外出より帰還。予定の時刻より遅れて戻ってきた。どうやら神のお吸い物を啜ってきた様だ。

南ではカラオケが始まる予感。時間が残れば是非、参加したい。待ち時間、暇なモンでもう一度

美山さんにアプローチ。何とか対応して貰えた。北さん(看護師)にはロキソニンを貰う。

少し頭痛がする。少し吐き気も。美山さんに美山さん不在時の日記を全部、読んでもらった。

とても楽しそうに読んでいた。まるで、大好きな小説に出会った文学少女の様な目つきで読破していく。

書いてる筆者もとても嬉しい。まるで我が子をひた褒められているような感覚。

本気で小説家を目指そうかな。俺、なんか何でもできそうな気がする。そうこうしてる間に

カラオケも終盤。ラルクのflowerをリクエスト、2番まで歌えた。すごくストレス発散になった。

北のデイルームでまた村上さんと大笠さんと喋る。退院が決まりそうで、はしゃいでいる。

俺の事の様に嬉しい。よく頑張った。小さいながら、16歳にして幼いながらも

いつでも冷静に過ごしてきた村上さんには脱帽&拍手。おめでとう。

こんなイキイキした村上さんは初めて見た。後は――――――晩飯を待つだけ。

晩御飯を食べた。今日は筑前煮。美味しかった。味薄かったけど…。明日、外泊だから

今日はひたすら大人しーく過ごす。眠前の藥までダイエットの為にウォーキングをする。

水を飲みながら、痩せたい!!ただ、それだけ。21時45分に妻に電話しよう。

いつも本当にお疲れ様。いつも本っ当にありがとね。妻には感謝しかないです。

そんな感じで0時30分、中途覚醒。少し喉が渇いた…潤したい。

無いお金を工面して、どうにかビタミンドリンクを飲もうと閃く。

筆者は正直、元ヤンだ。不良上等。楽しければALL OKの鴉野郎。全身黒づくめのいかにも悪そうなヤツ。

誰も寄せ付けないはずが、この歳になって精神病院に幽閉される意外とドジで間抜けな憎めないアホだったりもする―――

それが、この俺、西浦 怜也である。都合上、ペンネームで失礼。(ホスト時代の源氏名)

芸名は怜也(リョウヤ)RYOYAとも表記。本名だとなんか小っ恥ずかしいので。

さて、そろそろ眠るか。おやすみ、五条山。優しい世界――――――


P.S.今日、巽くんに不穏屯貰おうとしたら「依存しすぎ、病室帰れ。」だそうです(笑)


―――6月26日の出来事―――

〜午前〜

午前2時22分中途覚醒。変な夢を見た。それは前世の記憶。

私は精神異常患者にロボトミー手術を行い、治療していた。

グロテスクだった。私は笑いながら手術をしていた。きっと前世での行いが悪すぎた。

天理教の教えで言う、輪廻転生だろう。私の本名は姓名判断では医者に向いているそうだ。

そう言えば、母に聞いたことがある。私の出産予定日は8月6日であると。

きっと原爆が落ちた日に死んだのだろうか。真相はわからないが

なぜか昔からこの86という数字には惹かれるものがある。

車もずっと86に乗りたいと、そう考えている。

飼い猫の誕生日も8月6日だ。何かこの8と6には何か縁を感じる。

そう考えながらまた睡眠を摂った。

午前3時30分に起床。おはよー。喉が渇いたなぁー…。我慢我慢。

妻がBLEACH40巻を買ってきてくれたそうだ。早く読みたい。というか、残りの揃ってない分、

全部揃えたいな〜。まだ早いんだろうな〜。早く府営住宅に住みたい。3〜4月に絶対、応募しよう。

今日は待ちに待った外泊だ!嬉しい。本当に心の底から飛び跳ねそうなぐらい楽しい。

早くお迎え来ないかなー。ワクワク!ドキドキ!

10時過ぎ、迎えが来た!やった!この狭苦しい病院とも暫しお別れだ!やったやった!!

院外に出て煙草を嗜む。徒歩で駅へと向かう。道中が既に楽しい。

道は狭く、車通りは多い。妻をなるべく車道側を歩かせない様に配慮。紳士たる礼儀だ。

他愛も無い会話を続けながら駅に到着。列車が来るまでに時間があるので、

その間に手記を見て貰う。とても楽しそうに熟読している。

妻が迎えに来るまでに書き溜めた日記が読み終わる頃、急行の列車が到着した。

暫く見れなかった外界の光景を1分1秒、目に焼き付けながら帰路についた。

見慣れた駅に降り立った、その光景は曇天ながらも非常に鮮やかで輝きを放っているかの如く、

眼に入り込んできた。徒歩圏内の為、5分で自宅アパートに到着。お昼を買いにダイエット名目の散歩を

二人でしながら、先ずはコンビニへ行きホットスナックのチキンを頬張った。美味い。美味過ぎる。

こんなに美味しい食べ物が地球上に存在していいものなのか?甚だ疑問を感じながら貪った。

食べ終わる事に時間はそう要さなかった。時刻は12時前―――

大丈夫。俺の外泊はまだ始まったばかりだ―――


〜午後〜


お昼は慣れた近所の生協で買うことにした。生協のパンは美味しい。

どれも美味しそうで躊躇う。メロンパンとコロネとウインナーパン、そしてカレーパンを購入。

夏も近づき、外は炎天下。コロネのチョコが溶ける為、早く食べなきゃと思い、帰りの道中で

歩きながら食べた。元々、勤めていた勤務先も近い為、飼い猫のご飯を買いに行った。

後輩が働いていた。「最近、見ないので心配してました。」と伝えられ、「必ず戻る」とだけ言い残し

職場を後にした。家に帰り、腹が減っていた事もあり、買ったパンとコーヒーを全て消費してしまった。

かなり満腹。もう食べられない…。夕食まで時間はあるが、何をしよう。やりたい事だらけだ。とりあえず、

PS5を起動した―――久しぶりに手に持つコントローラーの感覚。懐かしい。仕事に忙殺されていて、

積みゲーと化している”RISE OF THE RONIN”をプレイ。師匠を倒すところで留まっていた。

難しさを変えてプレイ。やっと倒せた…。その後の話を進めていくが、面白い。面白過ぎる。

以前、全然無かった集中力も今は物凄くある。楽しい。

一通りやり終え、一旦、セーブしレストモードへ。1ヶ月ぶりに触れなかったギターに手を伸ばす。

音を鳴らす。妻は沁み染み「ギターを弾く人がこの家に居たんだなぁ…」と呟いた。

その眼には涙が溜まっている様にも見えた。少し照れ臭くなり、一度、中断。

妻に買ってきて貰った漫画を読む。これまた面白い。ついつい読み進めてしまう。

洗濯物を取り込み畳み終わった際に、夕飯の具材を買いに100均で病院で使うボディタオルと財布を買って帰宅。

猫が甘えからか横たわってお出迎え。可愛い。汗をいっぱい掻いたので、時間は早いがシャワーを浴びる。

妻も浴びた。そこから少し二人とも疲れていたのでベッドへ…。見つめ合う二人…重ねる口唇。

そこから先はー…おっと、内緒内緒。また妻に怒られる(笑)

夕飯の時間になっても、まだお腹は減ってない。せっかく買ったタコはタコ焼きになれず

冷蔵庫で保管する事となったー…暇になり、外に出てコンビニまで手を繋いで歩いた。

おにぎりだけ買って帰った。生協にも入り、蛍の光が流れてる中、アイスを買って帰った。

少し疲れがピークに来ながらも、中断しているゲームにもう一度、手を伸ばし暫く楽しんだ。

デザートも味わい、歯を磨く。病院の薬を飲み、外泊1日目を終えた―――


―――6月27日の出来事―――

〜午前〜

午前3時33分中途覚醒。不気味な夢を見た。アリスの両親と私の両親とみんなで旅行に出掛けていて、

見知らぬ人から借りた電動キックボードで一人ふらーっと出掛ける。しかし来た道がわからず、

どんどん日は暮れる中、一人畦道を走る。バッテリー切れになり夕暮れ時、

漆黒の闇に包まれつつある夜道を独り彷徨っていた。

飛び回る鴉の群れに古びた朱色の鳥居の神社。そこら中に転がる地蔵たち。

怖かった。とても怖かった。―――もう戻れない―――…。と思った。


―――嫌な目醒めだった。思わず動悸が止まらずしんどくて妻を接吻で起こす。

妻も眠そうにしながらも優しく微笑んでくれた。

『大丈夫、大丈夫。』と勇気づけてくれた。

その前に0時ぐらいに眼が覚めたが、変な夢の内容は憶えていないー。

そんな断続的に起きてしまう中の、朝食後の服薬後は眠くて仕方無い。

少し眠った。起きた。PS5を起動する。RISE OF THE RONINをプレイ。

坂本龍馬はカッコいい。筆者も男が生まれたら龍馬と名付けたい。

りょうまは、私とほぼ変わらないので”りゅう”でリュウマ。

あと、女の子が産まれたら美夢(みゆう)と名付けたい。

GLAYのBEAUTIFUL DREAMERから来ているだけだが…。

あとはポケモンが大好きだからミュウにしたいなあ〜とそんなことを考えていた午前7時。

今日の占いで獅子座は11位。そりゃそうか。病院戻るしな。

辛ーい。次の外泊はおそらく次の土曜日(2日後)だ。せっかく買ったタコも調理できるギリギリの日付か…?

タコ焼き、今度こそ食べたいなあ。

朝からニュース番組をボーッと見る。病院で見る番組と同じだが内容もスッと入ってくる。

病院に居る時と比較しても集中力は断然上がっている。ある程度、見終わったら妻も寝ているので

ゲームのレストモードを解除。ゲームがまた面白い。

多分、これ病院戻ってイライラするの煙草じゃなくてゲームができないイライラでどうにかなるんじゃないか?と

少し恐怖。煙草も定期的に吸いながら、母の病院送迎時刻13時が迫る。。

とりあえず一回目の外泊。楽しかったな…。ありがとう。アリス。

また、ここで逢いましょう―――。


〜午後〜

13時になった、母は5分前に到着。思い残す事が無いようにLUCKY STRIKEを吸った。

車内ではこんな話をしていた。「長生きしてよね。お母さん。」『怜が病気治るようにな

お母さん、神様にお祈りしてんねん。私の寿命が縮んでもいいから…だから、怜の病気を治して」

私は言葉を遮った―――

「やめてよ!いくら祈られても俺の病気は治らないよ。幼少期の頃から症状はあったんだ。

高校生からの発症にカルテはなっているけれど、実際はもっと前から訊こえていたし視えていたんだよ!辛い時もあるけれど

自分の身を守る良い時もあるんだよ!たとえば、『今、信号を突っ切ると危ないよ。』と幻聴が聞こえて無視すると信号が赤に差し掛かるときに無理していくと黒猫が駆け足で道路を横断したりすることもあるんだよ!」

そう話した。私の幻聴は肯定的意見もあるが、勿論、否定的意見もある。状態が悪くなると否定意見ばかり増えて現実世界の人との会話も入ってこなくなく、

妻にも暴言が止まらなくなる。病院までの道中でいつも入院中お世話になっている柴田さんにおみやげを買いに古本屋へ行く。

ONE OK ROCKのCDを買った。病院近くのコープにも来た。お菓子をたくさん買って14時―――・・・病院へと戻った。戻ってきてしまった。

この世界に。おかえり―――アンダーグラウンドな五条山小学校へ―――・・・幻聴がそう言っている。

相変わらず、観察室からは女の叫び声。大部屋からもおじいさんが「おーい!」とキレながら叫ぶ。

デイルームではYouTubeを見終わった患者たちがゾロゾロと自室へ戻っていく。

その中に村上さんと大笠さんが居た。『外泊どうやった?』の言葉に色々、考えて少しの間を置いてこう言った。「楽しっ!!」全てその言葉に集約して放った一言だった。

詰所では持って帰ってきた荷物のチェック。危険物を所持してないか入念に身体検査。危険物はないがおみやげのCDはダメだった。患者同士の物の貸し借りややり取りはNG。

そもそもCDプレーヤーがないので、持ってきてもらって自分で聞くしかないな。仕方ない…。

一旦、村上さんと大笠さんと喋りにテラスへ…。外泊中の出来事や退院時期を伸ばしてほしいとお願いされるが、入院費もタダではない。

俺は早く出るぞ!!そんなこんなでまた味の薄い夕食の時間がやってきた。112号室の髙橋さんと銀築さんが喧嘩している。やめておけ、やめておけ。

仲裁に入った。まさに一触即発。ご飯はとりあえず、ゆっくり食べよう。

空は厚い雲に覆われている。雨が…降るんだろうな。

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ニルニア物語 @NiR727

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