第11話 怜也の日記④

―――6月22日の出来事―――

〜午前〜


21時10分に目が醒める。デイルームに行くと亀田さんと大笠さん河崎の爺ちゃんが居た。

眠くなるまでの数分間、話をした。とりあえず、風呂に入りたい。頭が痒い…。

欠伸が出る。でも、眠く無い。少し寝る努力をしてみよう…ダメだ。眠れない。

22時47分、不眠屯を貰う。これで眠れるといいな。外泊したいなー。妻との時間をもっと増やしたい。

妻のことを考えるとドキドキして眠れない。現在、時刻は23時。少し眠いな…。

―――AM2時ピッタリで目が醒める。ピッタリ賞おめでとー!!なんて。悪夢を見た。

自分が死ぬ夢。昔からよく追いかけられたり銃で撃たれた瞬間、目が醒める事が多い。

怖いので、とりあえず5時まで起きておこうと思う。同室の岩元さんを起こしてしまった。申し訳ない…。

宮本の婆ちゃんが起きてきた。宮本さんにはよく缶コーヒーを奢ってもらっていた。

おはよう、今日、退院だね。おめでとう。今まで本当によく頑張った。

宮本さんはお婆ちゃんだけど、少女のようなかわいらしさを持った人だった。

どうか元気居てほしいと願う。3時15分、完全に目が醒めた。

まだ少し眠いけど、洗顔をして体を起こしておこう。

杉下さんと詰所前で喋った。ずっとしんどかった気持ちを吐き出させてくれた。

涙が止まらなかった。そうだ、私は子供を作るのが怖い。責任を負うのがしんどい。

俺一人で頑張らなきゃと思っていた。そんな事は無かった。もっと妻に相談するべきだった。

ゴメン、本当にゴメン。「アリス…逢いたい。今すぐに逢いたい。貴女の傍に居ちゃダメですか…?

もう一度、1からやり直したい。そう願うのは罪ですか…?この閉鎖病棟に居ることは罰ですか?誰か教えて…。」俺が全部、悪かったのかな―――。

朝から銀築さんと将棋を指してるが、結果は連敗。

頭の回転が足りない。とりあえず、検温終わらせて風呂入ってゼロコーラ。宴だーっ!!

早く大好きなシャンプーとコンディショナーとボディソープの香りに包まれたい。妻と同じ香り。

入院生活…長い…(泣)この生活に早く終止符を打ちたいと願う。ピリオドの向こうへ。

配膳時は熟睡。全然、気付かない。起きて昼食を食べる。すごく眠い…そんな昼下がり。


〜午後〜


昼食を食べた。今日のメニューは野菜炒めだった。味は少し辛みがあった。

ふりかけが残り少ない。今日、売店で買っておいて良かった。値段は高かったけど…。

午後からは睡眠を摂った。眠れない身体に回復の兆しを感じた。今日は村上さん、大笠さんは外出。

つまらない…只々、つまらない1日だ。看護師の巽くんに作詞を見て貰った。

彼は四十代ながら見た目は若く、ギターを弾いてるバンドマンだ。

アドバイスが貰えた。すごく納得して直ぐに歌詞を作り直した。頭にメロディを思い浮かべながら…とても良くなった。

曲が凄く作りたくなった。売れ線ではなく、自分の思った感情を曲にしたい。少し眠くなってきた。

仮眠を摂ろう。雨が降ってる。心地良い…。少し昼寝。夕飯も呼ばれているが気付かない。

コーヒーでも飲むか。まずは夕食時の薬だな。食後に銀築さんと将棋を指した。真剣勝負で1勝した。

本当に村上さんは頑張ってる。偉い。若干、16歳。あの若さにしてこの辛い状況を耐えられるのは凄いと思う。

早く電話したい…眠たいな。疲れた。久しぶりに来た。眠いという感覚。自分が悪い。

自分が落ち着いていれば大丈夫。ある種、自分を客観視できている状態こそ、

退院した後、社会復帰できる人材なのだと思う。頑張りすぎないように頑張ろう。

おやすみなさい…。


―――6月23日の出来事―――

〜午前〜


ずーっと気持ちがBADに入ったまま、戻れない。2時半に起床。デイルームに言っても宮本さんは退院して居ない為、寂しい。

もう少し、人が起きてくるのを待つか。本当に暇が苦痛でしかない。今日はまずまず寝れた。

断続的ではあるが、確実に睡眠摂れるようになっている。今日の予定は何も無し。

お金も無いし、困ったな。とりあえず早くご飯が食べたい。その後は、ゆっくり時間を過ごそうと思う。

6時になった。点灯した。朝のニュースではイスラエル問題がやっている。その後は、ロシア問題まで。

世界平和はまだまだ遠い。日本の自分自身に満足している13〜29歳は57%だそうだ。約半数。意外に多い。

日本は最も少ないそうだ。日本もだいぶ、子供が少なくなった。5クラスあった母校は現在、3クラスまで減っている。

早くベビーブームが来ないと、日本が終わってしまう。みんな、なんとか踏ん張ろう。辛くても笑って生きてこー。

―――しんどい。ひたすらしんどい。ずっとずっとずーっと、悩み、苦しんでる。

こんな所に幽閉されて、誰にも弱音を吐けず、ただひたすらに耐え忍ぶだけ。世の中でいくら理不尽が溢れていようと

ここ程、理不尽が罷り通る病院も珍しい。もう…辛い。ただただ辛い。なんで俺ばっかりこんな思いをしなくちゃいけないのか。

もう嫌になった。何もかも。鬱だ。俺は所詮精神障害1級の異常者だ。日中のほとんどを寝て過ごす。

今日はやる気が出ない…。雨は未だ降り止まない…。


〜午後〜


今日は鬱が酷く、いつもの日記を書く余裕もない。昼食はうどんだった。

美味しくて、少しテンションが上がる。しかし、食べ終わると再び落ち込む。会話する相手も居ない。

寂しくて、苦しくて堪らない。何で。何でいつもこうなるの?どうしていつも来る所は病院なの?

ストレスが溜まって仕方ない。16時43分手記を書く。看護師の古村さんと喋った。

日曜日だけど、大変そうだ。常に詰所はバタバタ。湿布を貼ってもらった。よく効いてる気がする。

入院前から手の小指だけ荒れが酷い。ヘパリンのクリームを処方してもらった。あまり効かない。

効いてくれるといいのだが…。日記を書いていると唐突に眠気が襲ってくる。眠い…もう一度、昼寝するか。

とりあえず、今日を乗り切る事が出来ればいいのだが…。相変わらずメンタルは不調。

家から持ってきた漫画も読み切ってしまった。何したらいいんだろう。とりあえず寝るか。

夕食まで寝て居た。眠っていると、まるで時が早送りになっているような感覚に陥る。

ずっと眠って居たい気持ちだ。夕食後はデイルームで大笠さんと亀田さんと話した。

看護師の岡村さんはいつもテキパキ笑顔も輝いている。今日の夜勤の相方は担当看護師の有村さん。

大泉が懲りもせず、人のことをチンポチンポと呼んでくる。そんなにモテないけど…?俺。(笑)

肩を小突かれた。何発も。こりゃダメだ。観察いけよ…マジで。人に関わってくんなよ。迷惑だ。

妻が帰ってくるまでの間、仮眠を摂った。今日の合計睡眠時間は何時間だろう。21時52分、妻と電話した。

とても心地良い声で応答してくれた。すぐに眠くなった。今日はよく眠れそうだ。


―――6月24日の出来事―――

〜午前〜


昨日、22時前に妻にお疲れ様コール。妻の声が聞けて幸せだ…。ドキドキして、まだ眠れない。

電話を切り、愛について考える、愛とは何なのかを考えた。自分なりに…以下、見解文。

”愛とは…”

―――愛とは人類において永遠のテーマであり、課題である。それは常に与え続けなければならない。

それはまつで草木に水をやる様に。見返りを求めてはならない。

しかし、草木が育つと人間の吐き出す呼吸(二酸化炭素)を酸素に変え、

また人間が呼吸できる仕組みと成っている。最早、無意識の世界。

例えば『これをしてあげたから、あなたもなにかお礼してよね。』等、愚の骨頂である。

それが他人からの言葉で甘い誘惑に身を委ねると、行き着く先は破滅である。

それが性行為となると、妻に対しての裏切り以外の何物でも無く、やってはいけない事だ。

本当に愛し合っているならば、互いに信頼し合い、信用し、そこに余計な言葉は不要であり、

夜になれば身体を重ね合わせて、愛を確かめ合う。たったそれだけの事。

便利に成った現代社会では理想が大きくなりすぎて、現実と向き合えない人間が多すぎる。

結婚など、只の妥協でしか無い。そこで互いに成長できるように水と肥料を与え合う。

そうして生きていく事こそが”愛”なのだと私そう見解し、又、形容する―――


…と、まあ、こんな感じで偉そうに書いてみる。もうすぐ朝食の時間。

今日は米飯。朝から重いな…まぁ、3時くらいから起きてるから、腹は減ってるけどね。

朝から現在まで銀築さんと将棋を3局。結果は2勝1敗。まずまずの戦績。

とりあえず、早く申し送りが終わって、検温、脈、薬と終わらせたい。

申し送り終わるまで一眠りするかな。暫し、おやすみ。

―――起床。

妻に着いたら荷物の受け渡しをしたい旨、伝えた。漫画8巻分。結構な重量だ。

早く続きが読みたいが、今は少し眠ろう。詰所が忙しくなってきた。そろそろ動き出すなー。

今日もバタバタな1日になるんだろうなぁ。ベッドで少し目を瞑る。話し声が廊下に響く。

早く時間が過ぎることを祈るばかりだ。今は11時22分を時計の針は指している。

早く漫画を持って行って欲しいのだが…声は掛からない。

未だ家族面談しているのか…。どうしてこう、待つ時間は長いのだろう。

早く外へ出たい。今日のご飯はホキのバター醤油仕立て。美味しかった。

今日は良い日のような、又、悪い日のようなそんな気がする。

あまりBADに入らない様に、またHIGHにもなりすぎないようにしていく事が

大切であると、そう思った昼だった―――

〜午後〜


午後12時10分より妻と外出。今日の家族面談の話を聞く。

やはり俺は女性と距離がどうしても近く成ってしまう傾向にある。

注意を受けた。気をつけなければ…。外泊の話が取り纏まった。

今週の水曜日。6月26日の10時〜翌15時までと決まった。嬉しい。

本当に嬉しい。退院までの日程も日を追う毎に現実味が増してきた。

仕事に戻れる時も近いだろう。少し、不安。でも、大丈夫。

今度こそしっかりやるぞ。できるぞ、俺は。やれるぞ、俺は。

まだまだ人生これからだ。大逆転劇を魅せてやる。

待ってろ、未来。絶対、叶えてみせるんだ!!

―――詰所ではもうすぐ申し送りが始まる。

17時50分配膳。18時には完食。これまた味の薄いカニ玉だった。少し不味い。

でも、完食した。早く退院したい。その一言に尽きる。

村上さんと常に退院したいと発言し合ってる。やっぱり退院したいなあ。

水曜日の外泊が楽しみ。ずーっと大人しくしとくしか無い。人との距離感は大事。

距離感詰めすぎて、毎回、馬鹿を見てる。良い加減、気づけ!自分!モテるところはあるけれど…。

驕るな。俺。諦めるな。俺。決して後ろを見るな。前だけ見てろ。

―――Don’t look back.look at the front.Going my way.Believe my road.

So,Beat road is lonely way.Hurry Go! Ready Go! Steady now.

夕食後、いつもの村上さんと大笠さんと喋る。楽しい時間だ。

皆の近況報告が個人的には楽しみ。皆、今日と明日でそれぞれの道を歩んでいく。

それぞれの道が決まりつつある。ここでお互い足を引っ張らない様に

細心の注意が必要だ―――

明日の売店の話で盛り上がる。風呂上がりのゼロコーラでパキりたい。白くまアイスでキメたい。

112号室が結構、大変そうだ。今日は眠いので、また明日に日記を書こうと思う。

おやすみ、世界。Good night! Good bye baby.

―――と思ったけど、もう少し書こうかな。あまりお喋りな男も格好悪いな…。

俺も梨山さんも人に構い過ぎる性格だから、しんどくなるし辛くなる。

自分の病状は後回しで、他の人の事を助けたくなる―――そこが、まだ病気と捉(囚)えられてるんだろうな。


――――――俺は障害者だ――――――

なんか、辛いな。また明日、続きを書こう。

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