第10話 怜也の日記③

―――6月20日の出来事―――

〜午前〜


AM3時30分起床。眠たいけど、起きよう。おはよう。体感の発熱は無し。

咳は少し。肺の痛みも無し。体調は良好。未來ちゃんのお陰で大分、毒抜きできた。

外がもう少しで明るくなりはじめる。おはよう。皆。今日も1日、耐えようね。

絶対に取り乱してはいけないよ。口の渇きは軽微。口呼吸だから仕方ないね。

退院したすぎる。アパートに戻りたいけど…狭すぎる。引っ越したい。

前世って、本当にあるのかなー。信じたくもなるよね。こんな事が立て続けに起こるなら…怖すぎる。

大泉さんが恐怖。ちょっと多弁。具合が悪そうだ。朝のこの時間にこのうるささは無い。

愚かだと思う。少し、しんどそうだ。看護師さーん、助けてねー。点灯前から、デイルームが五月蝿い。

ブロンのODは本当に良く無いと思う。ここで一つ豆知識。

ブロンはジヒドロコデインリン酸塩という麻薬性鎮咳成分で、多量に服薬すると

多幸感や目がとろーんとなる。これは構造がモルヒネと同じものだからだ。

モルヒネはガン末期患者に投与する最後の鎮痛剤と言われており、依存性が高く。

痛覚を忘れるため、飛び降りても痛みは無い。

ただ死に損なった場合…残るのは起き上がったベッドでの激痛。Agony.

そんな感じでおすすめしない。肉体依存ではなく、精神依存してる場合は

直ちに精神科を受診する事をおすすめする。

また、非麻薬性のメジコンという咳止めはデキストロメトルファンという成分でできている。

過剰に飲んでもしんどいだけだ。今直ぐやめとけ。

肝臓も腎臓も死にたくないなら今直ぐODなんてやめろ?


―――精神科の看護師も生き残るの大変そー。本当、みんな良く頑張ってると思う。

入院は飽きる。その一言に尽きる。6時45分。朝食が来た。畑田くんの最後の朝食。

とても美味しかった。TVでは殺人事件や詐欺のニュース。しょーもない。

自力でなんとかできる人間が人様に迷惑掛けてんじゃねーよ。人のモン盗るんじゃねーよ。

恥ずかしい…。情けない…。GLAYのBEAUTIFUL DREAMERの歌詞が刺さる。

「Fu 俺たちは何故、お互いを守りたかっただけなのに傷つけ合うの?」

「時の早さに流されぬよう強く握りすぎて壊したものはオマエだったかな?」

「どう足掻いても汚れてしまうこんな時代に咲いた花達はあの日の二人にどこか似て」


――――


「見えないものを信じる強さを見えるものを疑うその弱さ 太陽が攫うその前に」

〜すべては美しくあるために〜

確かに今。


〜午後〜


未來ちゃんの退院が決まった。心から嬉しい。こんな所で休養ができるわけがない。

そんな訳ないよ…。やっぱり入院は間違ってる。辛い…。ただただ辛い。

この何も無い空間がストレスで仕方ない。日中ばかり眠くなる。この昼寝がよくない。

15時40分未來ちゃんが退院していった―――

同室の岩元さんのご家族さんが荷物の受け渡しに来たみたいだ。

一瞬、表情が和らいだが、恐らく会えない。少し、可哀想だなぁ…。

この日記を書いてるボールペンは畑田くんがくれたものだ。書き易い。凄く書き易い。

寂しいなー。すごく寂しいなー。皆、帰っていっちゃう。辛い。自分だけが取り残されてる様な気がする。

悲しいBADに入る。今、寝たら夜眠れないなぁ…、今日は超BAD DAY。

ここから出られない人は皆、事情やトラブルを抱えている。俺はそんな人たちの支えになりたいと本気で想っている。

優しすぎるのかなあ。なんでかなあ。涙が出そうだよ。

とにかく今、自分の感情を書き殴ってる。こうしたい、ああしたいの裏には根拠が常に必要だ。

天気は今にも泣き出しそうな曇り空。こんな時にどうすれば良いのか自分でも理解らない。

とりあえ笑えばいいのかな。何をするのが正解なのか。わからない。状況がどんどん悪くなる様に感じる。

村上さんと大笠さんが笑ってたら、俺はとりあえず、それで良い。また落ち着いたら話そうと思う。

デイルームに来た。なんか、やっと落ち着いた気がする。腰を落ち着かす。16時10分に主治医の阪本先生が病棟にくる。

相変わらずクールでかっこいい。モテるだろうなー。早く次の問診日来ないかなぁ。

過ちを認めて次に進もう。そうする他はない。17時50分配膳。18時完食。魚だった。

塩味が効いていて美味い。直ぐに食べ終わった。

早く次の外出時間にならないかなぁ。しんどいなぁ…。なんで俺ばっかり我慢してるんだろう。

大泉がまた関わってくる。しんどい奴。否定、否定。自分が否定しているクセに逆に否定すると

逆上し、怒り出す。非常に厄介だ。早く今日の日が終われば良い。妻に逢いたい。一刻も早く。

全てを謝りたい。仕事に復帰したい。最近はそればかり考えている。

銀築さんと将棋を指す。2戦した。1勝1敗。大泉がまた語りかけてくる。心情を掻き乱される。

人と関わる事はしんどいと教授した。所詮、人は人を変えられない。妻と電話した。

未だ許されていない。しんどい。何がダメなんだ?俺は何故、退院できないんだ?

障害者だからって差別するのか?性格とはなんだ。何が精神だ?教えて欲しい。

どうする事が正解なのか。妻にとってどうしてあげたらいいのかわからない。

全然、何もわからない。どうしたらいいの?どうして欲しいの?ただ大人しく?

暇が苦痛。死にたくなる。もう寝よう。訳がわからなくなってきた…。


―――6月21日の出来事―――

〜午前〜


10時45分、不眠屯を貰う。眠くなるまで待つ。眠気が来たら寝ようと思う。

今、かなり辛い。しんどい。こんな時程、主治医と話したいのに。次は24日の月曜日。

長い。ただただ長い夜。苦痛でしかない。早く寝よう。杉下さんに話を訊いて欲しい。

なんでこんなしんどいんやろー。自分の病気を治すつもりがどんどん悪化していく…。

とにかく足の引っ張り合い。アホやろ。こんなんしてんの。病室の岩元さんにハッピーターンとコーヒー飴。

急に笑い出したり怒りだしたり。状態は悪そうだ少しずつ良くなって欲しい。そう願う。無理しないで欲しい。

ゆっくり治そう…?腹が悔しいほど減る。腹が減って眠れない。一体、いつまでこんな生活を続ければ良いんだ。

眠さも極限に迫る。仕事戻りたい。喜多川さんに会って、謝りたいと思う。

「今まで無理しすぎました。申し訳ございませんでした。」と。

0時30分起床。おはよう、世界の内の五条山病院。榊神先生を恨めしく思う。

叔父は結局、今世では助からなかった。底なしに明るいだけでは、患者は救えない。

気持ちに寄り添う事が必要だ。今日は辛い。もう寝よう。歩き疲れた。寝よう。おやすみ、世界。また今日な。

少し眠った。現在、午前2時34分。雨の音が聞こえる。和む。幻聴は絶えず聞こえるが、無視。

なかなか眠れない。デイルームに行く。銀築さんが起きてきた。将棋を指していたら看護師の金本さんに怒られた。

とりあえず、1局して勝利。その後、お喋りした。凄く感性が同じ人だという事が理解った。

ドラムを叩けるそうだ。卓球部に所属していたらしい。Tennisという面ではラケットを使う競技で被る。

アコギも弾けるらしい。

眠すぎて、ノートは誤字脱字だらけ。それでも眠れない。なぜなんだ。でも、今は寝たく無い。

―――病室に戻ってきた。雨の音がする。凄く良い音。飯まで未だ時間がある。

早く食べたいが、どんどん太っていく自分に嫌気が差す。空腹に苛立つ。もういいや、寝よう。

―――5時に起床。おはよー。今日の天気は前。折角の外出が台無しか?

洗面台にて洗顔と歯磨きをしよう。段々、空が明るくなってきた。早く…朝飯…。

銀築さんと将棋を2戦。戦績は1勝1敗。頭の回転を感じる。またご飯を食べれたらしようかな!

今日は外出!楽しみだなぁ。暇だなぁ…。早く時間が過ぎてくれる事を祈るばかりだ。

TVでは豪雨の情報。朝ご飯は完食だった。外は雨。晴れる気配は無し。

ホント、他人とあんまり関わっても碌な事がない…人と関わるのめんどくさい。

8時50分頃、看護師達が集まってきた。北1病棟に活気が出てきた。

やっぱり空は暗く、重い雰囲気が漂う。今日は楽しい日になるかなぁ…。なるといいなぁ…。

何もやる気が出ない。鬱がやってきた。Hello my darkness…

いつ出れるんだろう。もう何もやる気が出ない。俺はダメ人間。精神異常の欠陥人間。

もう全て、どうでもいい。意欲なんてモノは無い。そんな昼下がり、手元の時計は11時5分を指している。


〜午後〜


昼飯の配膳。11時50分配膳。11時56分に完食。トンカツだった。美味しかった。

オクラだけ残した。12時15分に外出。今日は少し乗り気じゃない。電話で喧嘩したからだ。

元気が無いままデイルームを後にした。外では妻と母が立っていた。表情は微笑んでるように見えた。

妻と院外へ出て煙草を嗜む。最初はLUCKY STRIKEの5mg、次にメンソール5mg、次にFILTER 11mg。

ヤニクラが来て、少し気分が悪くなる。肺の痛みは無い。生協でいつものお菓子とジュースを購入。

その間、母は私の手記を見ていた。とても面白そうに見ていた。文才があると褒められた。

少し調子に乗って、”小説家”でも目指そうかな。と豪語する。ここを出たらWordで自伝でも書いてみるか。

次に近くのカフェへ行った。そこで家族と今度についての話をした。退院した後、どうするのか、どうしたいのかを。

ゆっくりアメリカンコーヒーを啜りながら話し合う、有意義な時間だった。

妻を大事にしながら、仕事もしっかりこなして、趣味にもしっかり時間を費やして。

今回の入院はそういった当たり前の日常をどれだけ大事でどれだけ尊いかを痛感させられた。

1ヶ月間だった。大事なヒトを、たった一人の大切なヒトを守る事がどれだけ大変なのかを感じれた。

私は五条山病院にいつも、とても感謝している。人としての尊厳の何たるかを、

社会復帰に向けて作られた厳密かつ過酷なプログラムを…いつも本当にありがとうございます。

そう心でそっと呟いた。14時病棟に戻る。銀築さんと将棋を指した。結果は圧勝。

やっぱり煙草のニコチンで頭のキレは格段に上がる。今日は調子が良い。状態としては良好。

早く晩御飯が食べたい。17時50分に配膳。17時57分完食。今日はお好み焼きだった。

美味しかった。夕食後はBLEACH32巻を読む。良い時間だ。少し落ち着いたら、妻と電話しよう。

妻の笑顔を思い浮かべると胸が高鳴る。本当に大好きだなぁ。愛してる。これまで以上に…妻を。

さて、少し漫画を読んだら、電話をしよう。電話した。次の家族面談と問診日が被っている。

その日に俺の命運が掛かっている。今日は金曜日、明日はお風呂に入って売店でゼロコーラを買おう。

大丈夫。この暇な日常もいつかは終わりを迎える。何とかなる。いつもそうだったじゃないか。

だから、今は耐えよう。ひたすらに耐え忍ぼう。きっといつか心の底から笑い合える日が来ることを願って。

皆、大好きだよ。こんなどうしようもない俺を好きで居てくれて、支えてくれて、本当にありがとうね。

きっと良くなるよ。俺の病状も。今日はよく眠れる。そんな気がする。

あとは銀築さんと将棋を指して時間をゆっくりと過ごそう。今日はとても良い日だった。

また後で、妻と電話しよう。きっと今日は仲良くお喋りできると思うから。夕食後の服薬が終わった。

今日も1日お疲れ様でした。また明日も、ぼちぼち頑張ろーっと。ほな、また。

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