ぼくの好きな白の色は

藤泉都理

ぼくの好きな白の色は




 あなたの好きな色はなに。

 尋ねておきながら、君は、君の好きな色が織り成す様々な物について話し始める。






 ぼくの肌が映えるタンクトップ。


 燦々の日光を跳ね除けそうな海辺に建つペンション木の壁。


 絶え間なく濛々と沸き立つ米の息吹。


 急峻な山を形成する圧縮度の濃い削り氷のかき氷。


 真っ青な空を飲み込まんばかりの入道雲。


 外の木々をぼんやりと映し出すレースのカーテン。


 透き通ったものも、濁ったものも入り混じる祖母の短い髪の毛。


 死をもたらし、生をもたらす、天使の翼。


 手入れを怠らず、歯医者にも定期的に行って、清潔さを保っている自分の歯。


 力強い祖父の黒の文字を際立たせてくれる習字紙。


 明暗を刻々とやわらかく教えてくれる障子紙。


 透明な器に盛られた冷ややっこ。


 ワッフルコーンの上にリボン状に盛られたソフトクリーム。


 いくつかの透明な氷と、たんと入った水と戯れるそうめん。


 子どもの手によって舞い上がるティッシュの雨。


 ぽかりぽかり小豆の海に浮かぶ真四角の餅。


 生まれたての赤ん坊に着せる産着。


 ちょっと積もったやわらかい雪で作った雪うさぎと雪だるま。


 祭りの時に売られるキャラクターの包装紙に守られた大きなわたがし。


 穢れを知らないゆえか、初見は目がひどく痛み、徐々に馴染んでいく、水が張る前のアンデス山脈に囲まれた広大な塩の大地「ウユニ塩湖」。


 様々な材料を美味しく見せてくれる冷蔵庫の内壁。


 ドーナッツの上に惜しげもなく降り注ぐ粉砂糖。


 黒鍵と双肩を担う鍵盤。


 チューリップ、バラ、マーガレット、クローバーの花嫁と花婿へ捧げる花束。






 ねえ、あなたの好きな色は何。

 今度は口を閉ざして、ぼくの言葉に耳を傾けてくれる君に言う。




 この世のあらゆるすべての色を混ぜ合わせつつ、長い、とても長い時間、照らされた。

 陸の太陽にも、陸の月輪にも、海の太陽にも、海の月輪にも、照らされて、晒され続けては、風に砂に植物に動物に翻弄され続けて、時に、剥がれ落ちて、時に、入り込んで、時に、希釈して、時に、凝縮して、残った色。

 清濁併せ呑む色。

 万物の輝きを、穢れをこれでもかと凝縮した色。

 この色にその表現は似つかわしくないと、君は言うだろうけど。

 ぼくは、こう思ってしまうんだ。

 君が舞妓さんに変身する時に必要な、貝殻から作られたおしろいの色は。

 ぼくの好きな白の色は。











(2024.7.26)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくの好きな白の色は 藤泉都理 @fujitori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ