第9話 恋路
「で、この人を連れてきたんですか?」
あのあと帰宅し、頬撫でに事情を説明して面倒を見てもらうことにした。
「なるほど…傘化けさんも隅に置けないですね」
「伊藤とはそういうのではない、ちゃんとした後輩と先輩の関係で…」
はいはいと、頬撫では同僚のやつらと同じ様に俺の言葉を軽く流し楽しそうに笑っている。
ふと、伊藤の寝顔を見る。
帰りの時に言われたあの言葉の真偽を考え、頭を悩ませる。
伊藤は女性であり、異性である自分に好きと好意を向けるということはどんなに鈍感なやつでも、簡単に一つの答えを導ける。
しばらくはその考えに苦心していたが、気付けば先程話したライト社の話題に移ってもいた。
どこまで行っても傘化けと仕事は切っても切れない真面目な男であった。
(何か陰謀論のようなものが囁かれるにしては突飛すぎる…不祥事だったりがあの会社にあった訳では無いし、火のない所に煙はたたないと言うが煙だけで肝心の火元が見えないのではっきりとは分からん)
この時の傘化けは、まだ、ライト社の事をただの商売相手程度にしか思ってはおらず、あくまで商売相手としてライト社のことをしっかり知っておこうという気持ちであった。
そして傘化けは、寝ている伊藤を起こさぬよう注意を払いつつ、帰った時に投げ捨てた鞄をたぐり寄せその中にあるいくつかの資料に目を通していた。
「傘化けさんも大変ですね、こんな時でも仕事ですか?」
伊藤を見ていた頬撫でがいつの間にか手を休め、こちらを向いて話しかけていた。
伊藤は静かに眠っていた。
「伊藤さん、だいぶお疲れみたいでしたよ?もうすっかり寝ちゃいました」
「頬撫で、ありがとう」
「いえいえ、これくらい当然です」
「ほんとに助かった、後で俺のベットで寝かせよう」
「え?」
そう言うと、頬撫でがぽかーんとこちらを見つめ、しばらくすると何が閃いたような笑顔を見せたあととんでもないことを話しだした。
「じゃ、じゃあ…傘化けさん、私と一緒に寝ませんか!」
「いや、ここで寝るぞ」
突然の話すぎで逆に冷静に切り返してしまった傘化け。
「な、なんでですか!良いじゃないですか!やってみたかったんですよ、そういうの!だって楽しそうじゃないですか!」
「修学旅行じゃないんだぞ、だいいちだな異性とベットに入るってのはその…まぁ、なんだ!色々あんだよ」
「…わかりました、わがまま言ってすみませんでした…」
肩を落とす頬撫でを見て、やはりまだ子供っぽい所もあるんだなと思う。
だが、ここ最近あまり頬撫での面倒を見てやれなかったのも事実。
「じゃあ、伊藤さんの着替え持ってきますね…」
立ち上がり、去っていく悲しい後ろ姿を見て、つい声を上げる。
「…わかった、今回だけだ」
すると、ぱっと明るく元気な笑顔を見せ、着替えを取りに行った。
楽しそうな彼女を見て、俺も少し嬉しくなった。
色々と考えるべきことはあるが、とにかく今日は久しぶりに帰れたし頬撫でと一緒に時間を過ごすのも悪くないかもしれない。
その夜、普通にベットは別で同じ部屋で布団を敷いて寝た。
あんな事を考えていた自分があまりにも恥ずかしかった。
…自分が考えていたことと違ったが、普通に彼女との会話を楽しんだ。
再始動!百鬼夜行! アンキド @ankido_173
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