第8話 進展

「鳳凰院陰陽道?」


ある日の会合で火車達から、くだんを消し百鬼夜行の障害となるであろう組織の名前が分かったと話を受けその名前を告げられた。


「…なんだそれは」


「陰陽道とあるから、陰陽師の末裔だろう」


「だろうって、名前だけか?分かったのは」


火車がうーんと唸る。


「他にも調べはぼちぼちついている、どうやら平安時代から活動をしているらしく当初から目的は妖怪の存在の抹消…」


「ちょっとまて」


陰陽師、人間でありながら妖怪に対して抗うすべを持つ者達の総称である、呪術を用い人間に仇なす妖怪を懲らしめ時には封印をする者達と聞いている。

そんな、者達が妖怪の抹消を掲げるのは少し違和感を覚える。


昔から妖怪と人間は互いに迷惑を掛け合ってきていた。

人間が環境を荒らしそれに妖怪が怒り暴れ、それを生贄などで鎮める。

人間に度が過ぎるイタズラをし、時には人の世を大きく乱すような妖怪を陰陽師が懲らしめる。


人と妖怪は共にそういう歴史を歩んできたのだ。


「この俺も疑問に思った、だがまだわからんのだ」


「そうか…」


「それとだな」  


サンマの目玉をじっくり味わっていた火車がそれを平らげ話す。


「献上金の件は認められなかった…すまんな」


「わざわざすまんな」


「何もできなかったのだ、謝るな」


傘化けはしょげた火車に提案をする。


「火車よ、今日はとにかく飲もうではないか」


「…わかった、今回は俺が持つ!少しくらいなら出せるぞ」


すると邪魅がこちらに顔をのぞかせる。


「つまらない話はもう終わった方かしら?」


「大事なことだ!お前らも少しは聞けと何度も言ってるだろう」


「だって狂骨が話を聞いてるだけじゃつまらないと言うから私も仕方なくこうして一杯付き合ってやってるんです!」


邪魅はコップ一杯に入ったビールを飲み干しながら答えた。


後ろには何本もの開けられたビール瓶と酔いつぶれた狂骨がこちらに助けを求めていた。


「あぁ!こんなに飲みやがって!」


火車は申し訳無さそうにこちらを向く。


「よいよい、一杯分くらいは出そう」


「…傘化け」


邪魅と狂骨を店から追い出した後、二人で細々と酒を飲み互いの懐事情を忘れようとしていた。


翌日、傘化けはまた同じ居酒屋にいた。


しかし、今度の飲み仲間は仕事の同僚や上司であり、大きな仕事を受けた上層部が景気づけにと誘ってきたのだ。


何人かは不本意の参加であり盛り上がる上層部とは裏腹に時折暗い顔をのぞかせていた。


傘化けもその一人だ。


昨日、忘れようと飲み干した懐事情が酒と共に腹の中から湧き上がって来ており目の前で開かれた宴どころではなかった。


事実、傘化けはあまり酒に強くなく昨日の分と今日飲んだ分ですでにキャパをオーバーしており傘化けはたびたびトイレに駆け込んでは、飲んでは吐いてを繰り返していた。


そんな事情を知らない上の者たちは容赦なく酒を勧めてくるので、命の危機を感じた傘化けは隙を見て外に抜け出して風に当たり休んでいた。


外に出て、少し歩いたところに大きな川があり住宅地が近いためか比較的静かであった。


このまま帰ってしまおうかと思うぐらいには傘化けも疲れ切っており、早いとこ酔いを覚まして帰路につくことを考えていた。


最近は帰っても時間が遅くなり頬撫でと食事を共にする機会が減り、最近は彼女の寝顔しか見られていない。


孤独による寂しさを知っている傘化け、は彼女をこれ以上一人にしないためにも早めに帰ることを決意した。


時刻は八時を回ろうとしていた、今ならまだ起きている彼女にも会える。


今日くらいはやはり早く帰ろうと、来た道を辿ろうとすると伊藤がこちらに手を振っていた。


「へへへ、唐沢さん…僕も抜けてきちゃいました」


そう言っていつものように子供っぽく笑う伊藤だったが、その時だけは少し違う雰囲気をまとっていた。


「唐沢さんもあんまりお酒強くないんですか?」 


「まぁ、得意ではないな…」


「奇遇ですね〜僕もなんですよ〜」


千鳥足で笑いながら近づいて来る伊藤は分かりやすく酔っていた。


危なっかしいので、ひとまず介抱しながら元の居酒屋に戻ることにした。


「伊藤、今回のプロジェクトで不思議なことがあるんだけどさ」


「え〜唐沢さん、こんな時にでも仕事の話ですか〜真面目ですねぇ」


「あの大手通信会社のライトがなんでうちなんかにわざわざ依頼したんだと思う?」


今回の宴の原因の大きな仕事、それは設立約五年にも関わらず国内のスマホ通信のシェアの半数を占めるほどの大手になった通信企業のライト社。


そんなところがうちのような中規模の建設会社に電波塔の建設の依頼をしてきのだ。


「あ、ライト社のやつですね」


さっきまでのんべえだった伊藤の顔つきが変わり何か含みの持った笑みをこぼしながら、なかなか耳寄りな情報を教えてくれた。


伊藤は基本的には事務室で電話や書類整理と言った雑用をこなしたりしている、事務室には噂好きな奴らが集まってるらしくどこから仕入れて来たかわからない面白い情報があちこちに転がっている、どこどこの俳優さんが浮気をした…とか次の総理大臣は誰々…と言ったまだどこにも出回っていない新鮮なネタが回っている。


真偽は確かではないが、噂話というのも意外とバカにならない。


「ライト社は今回の電波塔の建設する目的はより早い通信、利便性の向上のためってのが表向きの理由」


「表向きの理由?」


「はい、なんかアンテナとかも作るんですよあの電波塔」


「そうだな」


「で、そのアンテナとかを使って犯罪と関係がありそうな通信を受信するのが本当の目的だそうです」


「ん?なら別に表で言ってもいいんじゃないか、防犯にもなるだろうしな」


「いやーそうもいかないですよ、つまりは個人同士のやりとりを一企業が見るってことですよ!そういうのって今の時代じゃ印象良くないでしょ?」


「そもそもそんな事は国とか警察がやることじゃないのか?」


「そう!だから裏では警察や国が糸を引いてるって話もあるんですよ、というか絶対そうですよ!」


何やら陰謀論のようだが噂話とは概してそういうものなのかもしれない…しかし、妙に気になったので頭の隅に置いておくことにした。


「そうそう他にも…」


急に肩に伊藤が自分の肩に寄りかかってきて体重を掛けてきた。


彼の顔が自分の耳に近づき寝息が聞こえてきた。


今回のおお仕事を前に伊藤を少しでも休ませてやりたいと考え、このままおぶって居酒屋に帰ることにした。


おぶるため、彼の一度体から離し体勢を整え妖力も使い服を動かして自分の背中に伊藤を収める。


伊藤と背中で密着した時、自分の背中になにか柔らかいものが触れた。


自分の背中の肩甲骨ほどにあるその柔らかさは感じからして伊藤の胸くらいにある。


そこまで考えて、伊藤は初めて伊藤が女であることを知った。

今までの伊藤との思い出が蘇り突然、心臓の鼓動が激しくなるのが分かった。


自分がまるで弟分の様に可愛がっていた伊藤が実は女子だったのだ。


一緒にカツ丼を食べたあの伊藤は、今俺の背中で無防備に寝ているこの女性なのだ。


傘化けは少し止まって考えた後、居酒屋に向かい伊藤を置いて帰ることにした。


居酒屋につき、同僚に事情を説明し伊藤を任せて帰ろうとすると。


「いや、いいよ今から俺達で二次会に行くし、お前ら酒に弱いだろ?お前ん家連れてって見てやれよ」


伊藤は女子であることを説明しきっぱり断ったが


いいから、いいからとほぼ全員に言いくるめられ眠った伊藤を連れて自分の家に帰ることになった。


頬撫でにどう説明したものかと考えながら伊藤をおぶってタクシーを探していると、後ろから


「先輩…好き…」


そう聞こえた。







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