第7話 悩みの二割は金

人間の悩みの八割が人間関係とするならばもう二割は…


「金がねぇ!」


火車の声がカフェ中に響く、今直ぐにでも立ち去りたかったがとにかく話を聞く。


「百鬼夜行のメンバーは減る一方だしよ…このままじゃあおしまいだ!何が一つでかいことをして他の妖怪にアピールをしねぇと…」


「アピールねぇ」


手元のグラスに入った氷をかき混ぜながら話を聞く。


「お前からもなんか案を出してくれよ、百鬼夜行の一員だろ?」


確かに一員として何かしてやりたいという気持ちはある、自分達の妖怪の命運がかかっているのだ。


これは土曜日に火車と集まり百鬼夜行について活動金を収めたり、互いの活動の報告をし合っていたのだが最近はすっかり仲良くなり互いに軽い世間話をしたりするようになっていた。


「あ、火車わりぃ時間だ」


「あれ、なんかあったか?」


「後輩と飯食い行くって言ってただろ」


「まじかよ、一緒にうまいトカゲの干物食い行こうと思ったのによ」


「わるいな、また今度頼むわ」


「…最近楽しそうだよな、お前」


「なんだ急に」


「なんでもだよ…お前まさか」


火車が間をおく


「人間として生きてくつもりじゃねぇだろうな?」


グラスに付いた水滴が滴る。


「まさか」 


「まぁ、そうだよな」


そう言うと、火車は不満そうに窓の外の人々が街をゆく姿を眺め出した。


「ほんとだって、今度サンマの目玉持ってきてやるよ」


「…ほんとか?」


「ほんとほんと」 


しばらく悩む素振りを見せた火車から許しをもらうと急いで待ち合わせの場所へと向かった。


火車と別れて少し歩いたところにある飲食店に着いた。

ここは傘化けが働いている職場で評判のうまいカツ丼があるのだ、それを後輩である伊藤に食わせてやろうとここの店を紹介した。


「あ!唐沢さん!こっちです!」


予定より早く来たつもりが相手のほうが早かったらしい、店の前で大きく手を振りながら自身の居場所を示す。


「伊藤、早かったな」


「唐沢さんとのごはん楽しみでしたから!」


屈託のない笑顔でそう言われるとこちらとしてもとても嬉しい。 


意外と空いていたので店内にはすんなりと入れた、店の隅の方のテーブル席に案内され直ぐに二人共おすすめのカツ丼を私は大盛り、伊藤は並を頼んだ。


「ここの店のカツは絶品だ、私も前の先輩に連れてこられて始めて食べた時感動したものだ」


「そうなんですね、私あんまりこういうところには来ないので…」


店内は細長くなっており厨房とそれに沿ってカウンターがあり、反対側に押し詰められるようにしてテーブルが置かれている。

どこか懐かしい感じがするいかにもな個人経営の店であった。


カツ丼が届くまでの間、それとなく世間話をしていると伊藤が語った。


「唐沢さんって、変わりましたよね…」


「なんだいきなり」


「前から仕事をしているところを見てて尊敬してたんです、とても」


伊藤の発する言葉につばを飲む、何がしてしまったかそんな考えがよぎる。


「もちろん、今でもですよ!」


少し安心して、伊藤の再び言葉が紡がれるのを待つ。


「なんだか今は、もっと頼りになる感じがして…男らしいっていうか…その…」


伊藤が口ごもりだした、何かと尋ねるとはぐらかされてしまう。


「お待ちどうさん、カツ丼大と小です」


恰幅の良い男性がカツ丼を持ってきた、二人共カツ丼を食べる事に従事しだした。


しばらく食べて、また世間話に戻った。


「ぷはぁ!確かに美味しいですね」


「そうだろう、とにかく今日は色々話が出来てよかった」


「はい!」


「会計はここは私が持つ」


「え!いいですよ!割り勘しましょう」


「わ、わりかん?」


「それぞれ頼んだ分だけの値段をそれぞれできっちり払うんです!」


「いや、別に良いのだぞ?」


「私から誘ったんですから!」


「…そうか、先輩の俺の顔を立ててくれると嬉しかったんだがな」


「すみません…」


「なら、今度は私から誘おう良い店をまた紹介しよう」


そう言うと伊藤は、ぱっと明るくなり快い返事をした。



「伊藤…お前には感謝している」


「え?な、なんですかいきなり」


店から出て駅に向かうまで少し歩いている道中、伊藤に前々から伝えようと思っていた事を話す。


「お前が俺に話かけてくれたおかけであの仕事場にも俺の居場所ができた、おかげで良い気持ちで仕事に打ち込める…ありがとうな」


伊藤はポカーンとした後、気まずそうに答えた。


「そ、そんな…私は別に…そ、それより!」


伊藤が一歩先を歩き振り返りながら言う。


「また、どこか遊びに行きましょう!」


「…もちろん」


子どものようにはしゃぐ伊藤を見て、とても嬉しくなった。


しかし、またどこか遊びに行くとなると金がかかる…奢ると言った手前、金を理由には断れない。


(少しくらい百鬼夜行の献上金を下げてもよいか相談するか…)


男というのはいくつになってもカッコつけたがる生き物なのだ、傘化けが男なのかと言う括りで語れるかは置いておいて。


後日、真っ赤になり火を吹き出しながら怒る火車がいたがトカゲの干物とサンマの目玉を献上し傘化けは事なきを得た。

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